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「頭がいい」の正体は読解力

2019.12.16 更新 ツイート

読解力は「言い換え」で鍛えられる樋口裕一

79か国・地域の15歳約60万人を対象とした国際学習到達度調査(PISA)の結果が12月3日に公表され、日本は「読解力」が前回の8位から過去最低の15位に急落したことがわかりました。

“小論文の神様”樋口裕一さんの新刊『「頭がいい」の正体は読解力』(幻冬舎新書)は、まるでその結果を予見していたかのように、「第一章 なぜ日本人の読解力が落ちているのか」で始まります。さらに樋口さんは、「文章を読むだけでは読解力はつかない」とも指摘。では、効率的に読解力を鍛えるにはどうすればいいのでしょうか?

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iStock.com/z_wei

語彙力とは言葉を自分のものにする力

読解力を自分のものにするために最初に取り組むべきなのは、語彙力を養うことだ。

とはいえ、私は「四面楚歌」やら「捲土重来(けんどちょうらい)」などという故事成語や、「他山の石」などのことわざを正確に知っていたり、使えたりすることが大事だとは思わない。また、日常的に使わないような難読漢字の読みを知っていたり、「憂鬱」という字を書けたりしたところで、たいして意味があるとも思わない。

そのような言葉を知っていても、実際に日常生活で使う機会はないし、そんな言葉を使ったら、むしろ場違いになってしまうだろう。それを知っていたからといって、ちょっとした蘊蓄(うんちく)を語り、物知りを気取れるだけであって、それ以上の意味はない。読み取りができるようになるとも思わない。

文章を読み取れない人は、一つ一つの言葉の辞書に出てくるような意味が理解できないのではない。むしろ、その連なりを理解できない。言葉のつながりを身をもって理解することができず、それが頭に入らない。だから、言葉の辞書的な意味を覚えることが問題ではない。言葉を自分のものにすること、使えるようにすることが問題なのだ。

「言い換え力」を鍛える

私が、言葉を使えるようにするために鍛えているのは「言い換え力」だ。

人は言葉によって人の能力や人柄を読み取る。その際、手掛かりになるのは、ほぼ同じような内容をどのような表現を用いて語るかだ。

「俺、そんなこと知らねえよ」というのと、「僕、そんなこと、知らないです」「私はそのようなことを存じ上げません」「私はその件についての知識を持っておりません」というのでは、まったくニュアンスが異なる。

人はそのような文体を使い分けて生きている。同じ人間でも、状況によって、相手によって、自分の気持ちによって、表現を使い分ける。その場にふさわしい言い方をする。

そして、話している相手にそのような自分をアピールする。

あるいは逆に、そのような言葉を聞いて、人は他人を判断する。そのような表現によって、その意味内容を理解するだけでなく、「この人は気さくな人だ」と思ったり、「下品な人だ」とか「知的な人だ」と思ったり、「油断できない」と思ったりする。会話というのは、相手にそう思わせようと思ったり、それに失敗したり、つい本音を漏らしてしまったりといったことの連続であり、それをどう読むかの連続なのだ。

語彙力を養成する練習問題

以下、練習問題を用意している。もちろん、ここに示した問題だけで語彙力が養成できるわけではない。ここに取り上げるのは、日本語の語彙のほんの一部だ。

だが、ここで示された問題を頭の片隅において、日常生活を送っていただきたい。たとえば、テレビで人の言葉を耳にしながら、これから示す問題を考えてほしい。そして、「これを別の表現で言うとどうなるだろう」と考えてみてほしい。問題に取り組む。それだけでは網羅できない。そうであっても、こうした練習をすることによって、言葉に敏感になり、他人の表現が記憶に残るようになり、徐々に語彙が増えていくだろう。

 

問題1:次の文を、漢字熟語などを加えて簡潔な文に改めてください。

(1)それがよいことなのかどうかについては、ちゃんと考えてからはっきりさせたい。

(2)こないだ、めったに人の通らない暗い道を歩いて家に帰っていたら、向こうから知らない男の人がやってきて私の前で立ち止まって、じっと私のほうを見つめた。

(3)昔からずっと続いている会社のやり方が私にはよいとは思えないので、課長にはっきりとそのようなことはしたくないと言った。

(4)日本中のあちこちの地方都市に同じような店があって、どこでも同じような光景が見られるようになったが、もっと都市ごとに別の光景があってもいいような気がする。

 

●出題意図

話し言葉の平易で冗長な文を、新聞などで用いられる簡潔な文に改める練習だ。

もちろん、このような文体が必ずしもいいわけではなく、時にむしろ硬くてこなれないわかりにくい文になる傾向はあるが、字数を少なくでき、しかも格調高くなることが多い。日常的な砕けた表現とこのような簡潔な文体の両方を使いこなせるようにしておくことが重要だ。

この問題をきっかけにして、ふだんから、他人の話している内容を聞いて、それを少し硬めの文に改める癖をつけたらどうだろう。それを続けるうちに、豊かな語彙を身につけることになる。

こうした表現に敏感になると、文章の質にも敏感になる。書く人間は、自分がどのような文体で書くかによって、それがどのようなターゲットに向けて、どのようなものとして書こうとしているかを示している。砕けた文体を用いるか、それとも漢語を増やして硬い文体にするかを意識している。読解においても、もちろんそれを敏感にキャッチすることが必要だ。

実際にそれを使ってみることによって、そのようなニュアンスの違いもまた身につけることになるだろう。

 

●解答例

(1)その是非について熟考したい。/ことのよしあしは熟慮後に判断したい。

(2)先日、人気(ひとけ)のない夜道を帰宅中、向かい側から未知の男が来て、眼前で立ち止まって私を凝視した。

(3)従来の会社の方針に納得できないので、課長にその件は遂行しないと言明した。/昔からの会社のやり方に不賛成なので、私は課長にそのようなことはしたくないと言い切った。/従来の会社の方針が不合理に思えるので、課長にそのようなことは気が進まないとの拒否の意を伝えた。/旧態依然とした会社のやり方が私には合わず、課長にそれについては断りを申し出た。

(4)日本中の各地方都市に同様の店や光景が見られるが、都市ごとに異なる光景があってもよい。/日本中の地方都市が画一化しているが、都市ごとの個性がほしい。/日本各地の地方都市が一律化しているが、都市ごとの光景が望ましい。

 

●解説

「それがよいことなのかどうか」を「ことのよしあし」、「ちゃんと考える」を「熟考する」などと、もっと別の表現はないかを考えてみる。あるいは一つ一つの言葉を改めるのではなく、ひとかたまりの部分を別の表現にできないかを考えてみる。

(4)など、「同じような店があって、どこでも同じような光景が見られるようになった」をまとめて「画一化している」「一律化している」などと表現できる。また、「都市ごとに別の光景があってもいい」ということも、「個性がほしい」「異なる光景があってよい」「個性があったほうが望ましい」と言い換えることができる。このように大胆な言い方をすることによって表現の幅を広げることができる。

 

問題2:次の文を(  )に漢字熟語を入れて言い換えてください。

(1)この仕事を成功させるには、まず社長の理解を得なくてはならない。
→この仕事を成功させるには、社長の理解が(  )だ。

(2)日本がこれから先どうなるかわからない。
→日本の将来は(  )である。

(3)現代社会では、どうしたら簡単にできるかばかりが重視されている。
→現代社会では(  )ばかりが重視されている。

 

●出題意図

文の一部を漢字の熟語に改める問題だ。このような表現の変換が実際の生活では最も必要になってくる。こうした語彙をたくさん持っていれば上手に文をまとめることができる。自由に字数の調整もでき、簡潔な文体、わかりやすい文体など自在に文章を演出することが可能だ。

ただし、答えは一つではない。少しだけ意味は異なるが、様々な表現を用いることができる。

 

●解答例

(1)必要/不可欠/必須条件/必要不可欠/絶対/前提

(2)不透明/未知/未知数/不明確/予測不能

(3)効率/合理性/簡略化/合理化/簡素化

 

●解説

何らかの性質を示す「……性」、変化を示す「……化」などの言葉を知っていると、このような言い換えをしやすくなり、語彙が豊かになる。なお、(1)の「不可欠」を「不可決」と書いてしまう人が多いので注意。

 

私は、単に辞書にある単語を覚えても語彙は豊かにならないと考えている。ゲーム感覚で、自分の頭を動かして考えてこそ、記憶に残り、それが自分の語彙になっていく。

なお、それぞれの問題に解答例を付けたが、実を言うと、私は、ほとんどの場合、解答例は必ずしも不可欠というわけではないと考えている。むしろ、これらの問題を契機にあれこれと言葉について考えてみることのほうが大事なのだ。答えを見て、それを覚えようとする必要はない。「あ、なるほど。こんな答えがあるんだな」と思ってくれればよい。これらは答えを覚えるための問題ではない。言葉に対する意識を敏感にするための問題だ。自分の出した答えが答えとしてあっているかどうかはたいしたことではない。そのつもりで解答例を見ていただきたい。

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この続きは、『「頭がいい」の正体は読解力』(幻冬舎新書)をご覧ください。

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樋口裕一『「頭がいい」の正体は読解力』

ものごとを正確に読み取り、理解する力=読解力。文章を読んで考えをまとめたり、会話で相手の意見に反論するときなど、あらゆる場面で不可欠だ。しかし、読解力のない日本人が増えている。読書量の不足やネット記事・短文SNSの普及による「長文を読み解く耐性がない」「言葉の意味は知っていても使いこなせない」ことが主な原因だ。本書では、問題を解きながら実際に言葉を使い、文章を書き、例文の要点をつかむという「語彙力」→「文章力」→「読解力」の3ステップで鍛えていく。飛ばし読みや資料の要約、会話やSNSでのコミュニケーションにも役立つ、現代人の必須スキルを磨く!

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樋口裕一

1951年、大分県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、立教大学大学院博士後期課程満期退学。フランス文学、アフリカ文学の翻訳家として活動するかたわら、受験小論文指導の第一人者として活躍。現在、多摩大学名誉教授、東進ハイスクール講師。通信添削による作文・小論文の専門塾「白藍塾」塾長。MJ日本語教育学院学院長。250万部の大ベストセラーとなった『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)のほか、『65歳 何もしない勇気』(幻冬舎)、『笑えるクラシック』(幻冬舎新書)など著書多数。

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