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上野千鶴子×國分功一郎対談「上野先生、民主主義はお好きですか?」

2014.02.07 公開 ツイート

最終回

政治参加の正しい方法って何ですか? 上野千鶴子/國分功一郎

◆「私は中立」という態度が最もタチが悪い

男性1 僕は海外開発援助の仕事をしようとしていたら事業仕分けされて、仕事がなくなっちゃったので、いま大学で哲学を学んでいます。お伺いしたいのは、政治活動のやり方、運動の仕方というか、スタンスのとり方です。僕は青年海外協力隊でケニアに行っている間に、政治活動で家を焼かれたり、国外強制退去になったりしたことがあります。

 それで政治的な活動からいったん離れて、哲学という世界で、隠れて生きるとまでは思わないけれど、自分の許せる仲間だけをちゃんと信じて生きていくような方法がいちばんいいんじゃないか、っていう結論に至っていたんです。でも今回、上野先生のお話を聞いて、まともな政治方法は代議制民主主義しかないのかと思っていたんですが、もう一度考え直す方法があるんじゃないかと思いました。そのためにも、正しい政治活動についてお聞きしたいと思います。

國分 その前に、僕、非常に関心があるんですけど、家を焼かれちゃったというのは、ご自身の活動と関連していますか。それとも単なる放火ですか。

男性1 大統領選挙で国が荒れてしまいまして、すぐ帰れるからと言われて首都に避難していたら、暴動になって家を焼かれて帰れなくなってしまい、そのまま国外強制撤去になりました。

國分 じゃあ、ご自身の活動が妨害を受けたわけじゃないんですね。なんで僕がそれを聞いたかというと、哲学者のジジェクっていう人が、確かこんな事例を紹介しているんです。「反政府主義者が最初にぶっ殺したのは、中立を主張する海外団体だった」、と。ちょっと正確に覚えてなくてすみません。

 僕は中立を主張するということは、ある種最も嫌われるというか、最もよくないと思っているんです。政治的主張っていうのは絶対に偏りがあるものだと思うんですね。

 今回の住民投票運動では、主張をはっきり打ち出すことを、多少薄めた気持ちではあるんですけれども、ただ、「やっぱり僕は反対派なんだ」と思っています。その上で、「でも、賛成派の意見はもちろん聞きます」という態度でやりました。

「中立なんですよ」という態度で出てくるものが、実は最もタチが悪いし、最も危険であるし、最もメジャーなものに利用されると思います。僕自身、中立を装う人をいちばん信用しないですね。

上野 100%賛成ですね。彼の質問には答えてないけど(会場、笑)。

國分 答えてないですか?(笑)。

上野 今の方の質問に答えると、正しい政治参加の仕方というものはありません。さまざまな政治参加の仕方があって、そのなかに、楽しい政治参加の仕方と、楽しくない政治参加の仕方があります。だとしたら、さまざまな政治参加のなかで、ご自分が楽しいと思われる政治参加の仕方を選ばれるのがいちばんいいんじゃないでしょうか。

國分 まったくそのとおりですね。「楽しい」というのをね。

宇野常寛さんのメルマガ「PLANETS」の人気連載を単行本化。34本の切実な悩みに、國分さんが「99%の愛と1%の鞭」を贈ります。

 あと、もし哲学を勉強なさっているんだったら、僕の人生相談の本(『哲学の先生と人生の話をしよう』朝日新聞出版)のなかで、犬儒派の哲学者を紹介していますから、そのことをちょっと考えてみるといいかもしません。彼らは社会規範を蔑視して自然のままに生きることを是としていたんですが、プラトンなんかからは「お前らは犬みたいな生活をして引きこもっているだけで、社会に対して何の役にも立たない」とバカにされたんです。プラトンはメジャーになることを目指し、そしてメジャーになった。

 僕は犬儒派って大好きで、特にディオゲネスが好きなんですが、でも、あれでよかったのかなとは考えます。プラトンがとったメジャー路線か、それともマイナー路線か、どっちを行くのがいいのかとかを考えてみることは、哲学の問題としては面白いかもしれないと思います。

上野 感想ですが、「正しい」というボキャブラリーが出てくるところが、哲学に洗脳された効果ですね(会場、笑)。でも、いいと思います。

國分 哲学、そんなことないですよ(笑)。

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上野千鶴子

社会学者・立命館大学特別招聘教授・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。『上野千鶴子が文学を社会学する』、『差異の政治学』、『おひとりさまの老後』、『女ぎらい』、『不惑のフェミニズム』、『ケアの社会学』、『女たちのサバイバル作戦』、『上野千鶴子の選憲論』、『発情装置 新版』、『上野千鶴子のサバイバル語録』など著書多数。

國分功一郎

1974年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・教養学部准教授。専門は哲学・現代思想。著書に『スピノザの方法』(みすず書房)、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社、第2回紀伊國屋じんぶん大賞受賞、増補新版:太田出版)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波現代全書)、『来るべき民主主義』(幻冬舎新書)、『近代政治哲学』(ちくま新書)、『中動態の世界』(医学書院、第16回小林秀雄賞受賞)、『原子力時代における哲学』(晶文社)、『はじめてのスピノザ』(講談社現代新書)など。訳書に、ジャック・デリダ『マルクスと息子たち』(岩波書店)、ジル・ドゥルーズ『カントの批判哲学』(ちくま学芸文庫)など。

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