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とんでもない甲虫

2019.07.20 公開 ツイート

ナミビアの屈強なレンジャーから取り調べ!昆虫学者の身に何が? 丸山宗利

とげとげ、もふもふ、まんまる、くしひげ、くびなが……。昆虫の概念がひっくり返る、279種のおかしな甲虫を厳選したビジュアルブック『とんでもない甲虫』(丸山宗利・福井敬貴著)が好評発売中!
本書でも登場する「砂漠にすむゴミムシダマシ」に長年あこがれていた昆虫学者の丸山宗利さんは、2019年1月、ついに砂漠の国ナミビアへと採集旅行に出かけました。
本書の刊行を記念して、丸山さんのナミビア採集旅行記を連載でお届けします。

*   *   *

 

この旅いちばんのトラブル発生

旅もおわりに近づき、最終目的地のツメブ付近にむかう。
途中、フトタマムシの舞う場所に寄り、そこですこし虫を観察した。
野生のスイカがあり、小野さんがためしに食べるが、ひどい味だったとのこと。

野生のスイカを食べる小野さん。

昼すぎに目的のホテルに到着。広大な林のなかにポツンと宿泊施設があって、いかにも虫がいそうだ。
25歳くらいの、オーナーの息子がかいがいしく案内してくれる。広くて快適そうな部屋だが、電気が通じておらず、人を呼んで直してもらう。

広々とした部屋。

疲れもたまってきた。ここまでの車で寝ていた白川さんに、調理場を貸してもらえるか宿の人に聞いてきてほしいと頼んだ。
ビールを飲みながら、夕方まで休憩することにする。

ここでの目的はエンマハンミョウである
雨あがりの夜に出現すると聞いていたのだが、夕方にスコールがあったようで、絶好の条件である。これは期待できる。
調理場を借りられることになったので、マカロニをゆでることにした。
雨季のナミビアはオフシーズンで、どこのホテルにも客は少ない。
ここも私たち以外の客がおらず、それで調理場を借りることができたようだ。

お湯を沸かしていると、オーナーの息子に白川さんが呼びだされた。
最初は気にしていなかったのだが、マカロニがゆであがりそうになっても帰ってこない
心配になった私たちは外で「白川さーん」と呼ぶ。
すると、オーナーが出てきたので、事情を説明する。

しばらくするとオーナーと息子に連れられ、白川さんが戻ってきた。どうやら息子に熱心にくどかれていたらしい。
私は安心して「なんて言ってくどかれた?」などと笑って言っていたのだが、小野さんは怒り心頭の様子で、息子を叱りつけていた。
長いつきあいだが、本気で怒った小野さんをはじめて見たのだった
「小野さんほれそうやわー! それにひきかえ丸山さんはひどい!」と白川さん。
ちなみに小野さんは初海外調査で、事前にかなり英語を勉強してきたそうだ。通常の意思疎通にはまったく問題がない。すごいことである。

それから敷地の中をあるきまわる。
「マンティコラだ!!」
マンティコラとはエンマハンミョウの属名である。最初のエンマハンミョウはあっけなく見つかった。
メスの個体だが、とても大きくて迫力がある。

さっそくいたー!

それから3人で手わけして探すことになった。
地図ソフトをスクリーンショットして、それをラインで送り、おたがいの位置を確認しながら、調査をすすめていく。便利な世の中である
森のなかには大きなゴミムシダマシが多く、それがエンマハンミョウと似ていてまぎらわしい。
また、アメフクラガエルというとてつもなくかわいらしいカエルも見つけた。

かわいいアメフクラガエル。

昼間は暑くてやることが少ないので、翌日はホテルからほど近い、エトーシャ国立公園という場所に行って動物を見ることにした。
管理事務所で入場料を支払い、ゲートで入場許可を得て、決められた道路を車で進む。
じつに雄大な景色が広がっていて、どこもかしこも絶景である。

エトーシャ湖の広大な景色。

さすがに有名な観光地だけあって、動物が多い。キリンにヌーなどいろいろな動物がいる。しかも近寄ってもほとんど逃げない。

キリン。
なにかの動物。
ヌーの群れ。

あまりに見通しがよいので、遠くで雨が降っているようすも見える。
「これはホテルの近くに降っているかも」などと話し、帰ることにした。

遠くで雨が降っているのがわかる。

ここで、この旅でいちばんの問題が発生した。
ゲートに着くと、荷物検査がおこなわれ、そこでドローンが見つかった
これがダメだったようだ。
さらにくわしく調べられ、なんと筒井さんがゴバビスで見つけ、小野さんにプレゼントした動物の角が見つかってしまった。
「これ、いちばんダメなやつじゃん!!」
おもわず私は叫んだ。

責任はすべて運転手にあるようで、たまたま運転していた私は事務所に連行され、きびしい取り調べをうけることになる。
まず、ドローンを調べさせろとのこと。
しかしここで、前日に墜落していたことが幸いした
「こわれているので使っていない!」
レンジャーに言われるがままに飛ばそうとしても、プロペラが空まわりして、ぜんぜん飛ばないのである。
無事に言い分を信じてもらうことができた
また、荷物検査の理由は、中国人によるサイの密猟が横行しており、中国人だと思ったからとのこと。
角は別の場所で拾ったということも信じてもらえ、これは没収だけですんだ。

取り調べは非常にきびしい雰囲気で、なにしろ理屈がなかなか通じないのにはこまった。
国立公園の規則には、たしかにドローンを飛ばしてはいけないと書いてあるが、持ちこみがダメだとは書いていない。
結局、おそらくは規則の拡大解釈で、持ちこんだということだけで罰金となってしまった

しかし、もしここでドローンが正常に動いていて、飛ばしたことを疑われたら、間違いなくもっとひどいことになっていただろう。
ドローンをこわしてしまったのには心をいためたが、わざわい転じて福となすとはこのことである。
帰りに警察署へ寄り、そこでもチクチクと言われ、2万円ほどの罰金を支払って、心身ともに疲れはててホテルへと戻った。

その夜もホテルの敷地を歩きまわる。
エンマハンミョウのメスは見つかるが、なかなかオスが出てこない
最後のほうに小野さんが発見。ただ、あちこちがこわれていて、時期が遅かったとわかった。

小野さんが見つけたオス。

多くの昆虫は、われ先にメスを探そうと、オスが先に出現する
エンマハンミョウもおなじのようで、オスはかなり前に出現し、いまは寿命をむかえる時期だったようだ。
こんどはオスを見つけたい。また行く理由ができたというものである。

森のなかではライオンゴロシという、トゲトゲの果実をつけることで有名な植物の花が咲いていた。

ライオンゴロシの花。

ホテルの部屋の場所がいまひとつで、灯火にはあまり虫がこなかったのだが、食堂の近くに電気殺虫器があり、ここに大量の虫が集まっては電気に焼かれて死んでいた
それでも生きのこりの糞虫やコブスジコガネがたくさんいて、ここを見るのが夜の楽しみとなった。

罪なき虫を殺し続ける装置。

屈強な男たちにかこまれてきびしい取り調べをうけるというのは、なかなかつらいものがあった。
こうやって外国で、役人や警察によっていやな目にあうことはたまにあるが(いまの日本の外国人への対応はもっとひどいが)、今回はこちらの不注意もある。
今後の反省材料としたい。
気持ちを切りかえ、明日からは旅の最後を思いきり楽しむことにする。

 

★うみねこ博物堂・小野広樹さんによるナミビア旅行記をこちらで同時公開! あわせてご覧ください。

関連書籍

丸山宗利/福井敬貴『とんでもない甲虫』

とげとげ、もふもふ、まんまる、くしひげ、くびなが……。硬くてかっこいい姿が人気の「甲虫」の中でも、姿かたちや生態がへんてこな虫を厳選。飛べない!? 毛深い!? 眼がない!? おどろきの279種を、美しい写真で楽しめる。

丸山宗利/ネイチャー&サイエンス/構成『きらめく甲虫』

こんな色合い見たことない! 想像を超えた、生きる宝石200 まるで銀細工のようなプラチナコガネ、日本の伝統紋様さながらに多様な柄をもつカタゾウムシ、虹色の輝きが美しいアトバゴミムシ……。硬くて強そうな見かけの甲虫はそのかっこよさで人気があるが、本書では甲虫の中でもとくに金属光沢が美しいもの、珍しい模様を背負っているもの、色合いが芸術的なものを厳選して紹介してゆく。ピントが合った部分を合成して1枚に仕上げる「深度合成写真撮影法」により、甲虫の持つ美しさが楽しめる!

丸山宗利『ツノゼミ ありえない虫』

奇想天外、ユニークすぎる形を特殊撮影法で克明に再現! 世にもフシギなかたちの昆虫「ツノゼミ」を138種類掲載した、日本ではじめてのツノゼミの本。ツノゼミはセミではなく、カメムシ目に属する昆虫。体長2ミリ~25ミリほどの小さな虫ながら、ツノのかたちをさまざまに進化させていて、まるで空想の世界のような姿をしている。深度合成写真撮影法で撮影し、すべての部分にピントがあった写真を掲載。面白い姿をすみずみまで楽しめる一冊。

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とんでもない甲虫

『ツノゼミ ありえない虫』『きらめく甲虫』につづく、丸山宗利氏の昆虫ビジュアルブック第3弾!
硬くてかっこいい姿が人気の「甲虫」の中でも、姿かたちや生態がへんてこな虫を厳選。
標本作製の名手・福井敬貴氏を共著者に迎え、掲載数は過去2作を大幅に上回る279種!
おどろきの甲虫の世界を、美しい写真で楽しめます。
この連載では『とんでもない甲虫』の最新情報をお届けします。

●パンクロッカーみたいだけど気は優しい――とげとげの甲虫
●ダンゴムシのように丸まるコガネムシ――マンマルコガネ
●その毛はなんのため?――もふもふの甲虫
●キラキラと輝く、熱帯雨林のブローチ――ブローチハムシ
●4つの眼で水中も空中も同時に警戒――ミズスマシ
●アリバチのそっくりさんが多すぎる! ――アリバチ擬態の甲虫 など

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丸山宗利 九州大学総合研究博物館 准教授

1974年生まれ、東京都出身。北海道大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。国立科学博物館、フィールド自然史博物館(シカゴ)研究員を経て2008年より九州大学総合研究博物館助教、17年より准教授。アリやシロアリと共生する昆虫を専門とし、アジアにおけるその第一人者。昆虫の面白さや美しさを多くの人に伝えようと、メディアやSNSで情報発信している。最新刊『アリの巣をめぐる冒険』のほか『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』『とんでもない甲虫』『ツノゼミ ありえない虫』『きらめく甲虫』『カラー版 昆虫こわい』『昆虫はすごい』など著書多数。『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』『角川の集める図鑑 GET! 昆虫』など多くの図鑑の監修を務める。

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