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天皇のお言葉

2019.04.19 更新 ツイート

「米をピシャッとやることは出来ぬか?」架空の戦果に踊らされ、決戦を求める昭和天皇辻田真佐憲

「令和」と決まった新元号の5月1日に約200年ぶりとなる天皇の「譲位」が行なわれます。
明仁天皇は退位にあたって何を言い残し、徳仁新天皇は即位にあたって何を告げ知らせるのでしょう?
天皇の言葉はわかりやすいようで、実は、奥が深いもの。過去の発言や歴史を踏まえなくては、その真意を読み解くことができません。
辻田真佐憲さんの新刊『天皇のお言葉~明治・大正・昭和・天皇~』は、この稀有な歴史的機会を冷静に立ち会うための必読書です。
四人のなかで最も波乱の時代を生きた昭和天皇。戦中にいかなる言葉を発してきたかご存知でしょうか?

「一体何処でしっかりやるのか。何処で決戦をやるのか」
(昭和一八・一九四三年)

一九四三年は、アジア太平洋戦争の攻守が逆転した年だった。米軍は新型の空母や戦闘機をつぎつぎに実戦配備して、戦力を大幅に増強した。たいして日本軍は各地で苦戦を強いられ、占領した島からの撤退や守備隊の全滅が相次いだ。山本五十六連合艦隊司令長官が戦死したのも、この年の四月のことだった。

同年三月三〇日、天皇は木戸内大臣に不安な心の内を明かした。

次ぎ次ぎに起った戦況から見て、今度の戦争の前途は決して明るいものとは思はれない。統帥部は陸海軍いずれも必勝の信念を持って戦ひ抜くとは申して居るけれど、ミッドウェイで失った航空勢力を恢復することは果して出来得るや否や、頗る難しいと思はれる。若し制空権を敵方にとられる様になった暁には、彼の広大な地域に展開して居る戦線を維持すると云ふことも難しくなり、随所に破綻を生ずることになるのではないかと思はれるが、木戸はどう思ふか。

天皇も、ミッドウェー海戦での敗北がいかに痛手だったのかを実感するようになっていた。そしてその予想どおり、制空権を失った日本軍は、各地で孤立して各個撃破されていく悲運をまぬかれなかった。

五月には、アリューシャン列島のアッツ島の守備隊が全滅した。このままではジリ貧になってしまう。天皇は、戦局打開のための決戦を求めた。六月八日、蓮沼侍従武官長にこう語った。

こんないくさをして「ガダルカナル」同様なことをして、敵の志気を上げ、中立・第三国は動揺、支那はつけ上り、大東亜圏内に及ぼす影響も大きい。

何とかして何処かの正面で米軍をたゝきつけることは出来ぬか。

そして翌九日にも、杉山参謀総長に同じことを述べた。

ニューギニア方面は航空作戦も糧秣の集積も少しは良くなつてゐるが、此上とも十分力を尽し、道路構築も此上とも努力をして、何んとかして「アメリカ」を叩きつけなければならない。

戦局が厳しくなるにつれて、天皇の督戦も激しくなった。七月から八月にかけても、つぎのような有様だった。

局地的には克く戦闘はやってゐるが、何所かに攻勢をとることは出来ぬか。[中略]何とか叩けないかねー[七月八日]。

海軍を何んとか出す方法は無いのか。[中略]確乎たる自信なしにだんだん後口へ押下げられつゝあり。何処かでガチッと叩きつける工面は無いのかね[同日]。

何れの時きが決戦か[七月一四日]。

何れの方面も良くない。米をピシャッとやることは出来ぬか?[中略]一体何処でしっかりやるのか。何処で決戦をやるのか。今迄の様にジリジリ押されることを繰返すことは出来ないのではないか[八月五日]。

「ガチッと」「ピシャッと」。こうした擬音から、天皇の逸る気持ちが伝わってくる。それにしても、その決戦要求のしつこさはかなり異様だった。

そのいっぽうで、天皇は架空の戦果に踊らされていた。

日本軍は、迫り来る米艦隊を航空機で迎え撃った。一九四三年一一月から一二月までの六次にわたるブーゲンビル島沖航空戦、同年一一月の四次にわたるギルバート諸島沖航空戦、そして一二月のマーシャル諸島沖航空戦がそれだった。

日本軍は、これらの航空戦でめぼしい戦果をあげられなかった。ただ、未熟なパイロットが戦果を誤認し、それを大本営も追認したため、戦艦四隻撃沈、空母一六隻撃沈などという、とんでもない戦果が計上されてしまった。天皇はこの時期、このような報告を受けて素直に喜んでいたのである。

もちろん、架空の戦果だから米艦隊の進行は止まらなかった。戦線はますます日本本土に迫ってきた。年が明けた一九四四年二月一六日、天皇はあらためて杉山に決戦を求めた。

各方面悪い。今度来たら「ガン」と叩き度いものだね。

そしてついに決戦のときがやってきた。サイパン島攻防戦である。

*   *   *

続きは、『天皇のお言葉~明治・大正・昭和・平成~』をご覧ください。

また、太平洋戦争の架空の戦果については、同じく辻田真佐憲さんの『大本営発表~改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争~』をご覧ください。

辻田真佐憲『天皇のお言葉』

天皇の発言ほど重く受け止められる言葉はない。近代国家となった明治以降、その影響力は激増した。とはいえ、天皇の権威も権力も常に絶対的ではなかった。時代に反する「お言葉」は容赦なく無視され、皇位の存続を危うくする可能性もあった。そのため時代の空気に寄り添い、時に調整を加え、公式に発表されてきた。一方で、天皇もまた人間である。感情が忍び込むこともあれば、非公式にふと漏らす本音もある。普遍的な理想と時代の要請の狭間で露わになる天皇の苦悩と、その言葉の奥深さと魅力。気鋭の研究者が抉り出す知られざる日本の百五十年。

 

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天皇のお言葉

明治・大正・昭和・平成の天皇たちは何を語ってきたのか? 250の発言から読み解く知れれざる日本の近現代史。

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辻田真佐憲

一九八四年大阪府生まれ。文筆家、近現代史研究者。慶應義塾大学文学部卒業。同大学大学院文学研究科を経て、現在、政治と文化・娯楽の関係を中心に執筆活動を行う。単著に『日本の軍歌 国民的音楽の歴史』(幻冬舎新書)、『愛国とレコード 幻の大名古屋軍歌とアサヒ蓄音器商会』(えにし書房)などがある。また、論考に「日本陸軍の思想戦 清水盛明の活動を中心に」(『第一次世界大戦とその影響』錦正社)、監修CDに『日本の軍歌アーカイブス』(ビクターエンタテインメント)、『出征兵士を送る歌 これが軍歌だ!』(キングレコード)、『みんな輪になれ 軍国音頭の世界』(ぐらもくらぶ)などがある。

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