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調理場という戦場

2019.03.21 更新 ツイート

真のプロフェッショナルへの第一歩は「透明になること」だ斉須政雄

日本を代表するフランス料理界の巨匠で、名門「コート・ドール」のオーナーシェフをつとめる斉須政雄。著書『調理場という戦場』は、「仕事論、リーダー論、人生論。すべての旨味がこの本にある」と評されるロングセラーです。大志を抱き、23歳で単身フランスに渡った斉須。夢に体当たりしてつかみ取った「アツすぎる」言葉の数々は、働くすべての人に勇気を与えています。そんな本書の一部を、抜粋してお届けしましょう。

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「余計な色」はいらない

ぼくが新人に望むのは「環境になじんで透明になること」ですね。このお店に来た時に、余計な色がついていないというか。

iStock.com/de-kay

要するに、そこにいる人たちと同じものを宿さなければ、透明にはなれないのです。別のものを持っていては、調理場で異物として扱われますから。

そうすると、透明になるには、今の自分が持っているものから減らすものと捨てるものを選択しなければいけません。捨てられないものを引きずりながら、新しいものを手に入れようというムシのいい若者もいますが、

「それでうまくいくことは、ないよ」

「欲しかったら、ぜんぶ捨てなさい」

と、それだけは徹底的に叩き込んでいます。

ソースをスープのように飲む生活で、ぼくの足には静脈瘤ができています。フランス料理を生理で体得する過程で血管の弁がやられたからです。でも悔やんでいません。

何かを得るためには、何かを失わなければならないから。

ぼく個人の経験で言いますと、日本を離れてフランスに行く時に、それまで働いていたところとのつながりをぜんぶ断ったのが、今思えばよかったと感じています。

志を立てて行ったのに、日本に帰ってまた昔の職場に戻り、同じように働かなければならない人が、実はとても多い。最初から退路を断っていれば、戻りようがないでしょう?

ぼくはふつうの人間です。

意志が特別に強いわけでもない。臆病だし技術はヘタです。専門学校に入ってちゃんと学んだ知識もない。

ぜんぶ、現場で生理的に抜き取った仕事しか、身についていないんです。

だから、いつも怖いのです。若い人たちの豊富な知識は、いつも侮れないと思っています。ですから、

「若い人たちの先を行かないで、一緒に並走しながら、若い人の養分をぼくが少しずつ取って、また、ぼくの養分も若い人に与えて……」

という相乗効果を「コート・ドール」ではいつも意識していますね。

「自分が料理の世界で生きていくのだ」ということに関して迷っている人もいますよね。もしかしたら、料理だけでなく、どの職業でも若い人の中には「これでいいのか?」と迷っている人が多いのかもしれません。

ただ、そういう人はきっと、意外と呑み込みが早いだけなのではないでしょうか。やってみたらできてしまうから、だからかえって行きづまるのではないでしょうか。

ぼくが大切にしている「5つの言葉」

自分のことで言えば、ぼくは学校時代にクラブ活動をやり通せなかった。いつも中途半端でした。

iStock.com/Everste

集団生活も上手ではなかったので、社会に出てからひとりで五一歳までそのクラブ活動をやってきたようなものですね。つまり、小さい頃から何に関しても器用にできなかったからこそ、自分なりに長いスパンでひとつのことをやってきたという気がします。

今こうしてお店をやっていると、「斉須、お前あの時の斉須か」と来てくれる同級生がいます。実際に学校にいた時は、彼らはみんなスーパースターだった。

「俺、学校時代には何も上手じゃなかったけど、まあ、やってきたよ」

と言ってその人たちに会える自分を、なかなかいいなぁと思うんです。うれしいですね。

つまり、なかなかなりたい自分になれなくて右往左往していたのが現実です。

ですから、早く職場を移るという余裕は、ぼくにはなかったのですが、確かに若い時期には、自分の能力を過信してしまう人がいますね。

ぼくの場合は過信するほど度胸がありませんでした。

今もそんなに自信がないのですが、それがいい作用を生んでいるのではないかと、自分では思っています。

大上段に切り込む勇気はない。でも、何か自分というものでいたい、という自分がある。だからこそ手探り状態で、

「もしかしたら、やれるかな?」

「いや、でも怖いな。まだダメだ」

と、そんなくりかえしで、やってきたんです。

ぼくは、何かに慣れることができないし、現状になじむことができないようです。フランスにいる途中から、それが長所なんだと感じることができました。何かあったらいつでも変わることのできる姿勢、これはぼくの得意技です。

一、至誠に悖るなかりしか。

一、言行に恥ずるなかりしか。

一、気力に欠くるなかりしか。

一、努力に憾みなかりしか。

一、不精に亘るなかりしか。

これは、調理場にかけてある言葉です。

誠実か。言動に恥じることはないか。気力は満ちているか。努力は怠らなかったか。不精になってしまっていないか。

すばらしい言葉だと思います。大変な状況の中で、昔の人はこれを目指し、実行していたのですよね。何もかも揃っていても、なかなかこれをすべて満たすことはできないですよ。ものがなければないで工夫して手ずから生み出していけるはずと思いながら、この言葉を思い出しています。

斉須政雄『調理場という戦場』

大志を抱き、23歳で単身フランスに渡った著者が、夢に体当たりして掴み取ったものとは? 「早くゴールしないほうがいい」「効率のいい生き方をしていると、すり切れてしまう」。激流のように過ぎゆく日々をくぐり抜けたからこそ出てくる、熱い言葉の数々。料理人にとどまらず、働く全ての人に勇気を与えたロングセラー!

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調理場という戦場

日本を代表するフランス料理界の巨匠で、名門「コート・ドール」のオーナーシェフをつとめる斉須政雄。著書『調理場という戦場』は、「仕事論、リーダー論、人生論。すべての旨味がこの本にある」と評されるロングセラーだ。大志を抱き、23歳で単身フランスに渡った斉須。夢に体当たりしてつかみ取った「アツすぎる」言葉の数々は、働くすべての人に勇気を与えています。そんな本書の一部を、抜粋してお届けしましょう。

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斉須政雄

1950年生まれ。73年よりフランスに渡り、フランス料理界に12年間身を置く。86年、「コート・ドール」の料理長に就任。92年からはオーナーシェフとして活躍。

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