2019年は、東京オリンピックの選手選考が本格的に始まる年だ。
そのなかでも最大の盛り上がりを見せるのは、男子マラソンだろう。
日本陸連は瀬古利彦氏をマラソン強化特別プロジェクトリーダーに指名し、選考プロセスを明確化した。それが「マラソングランドチャンピオンシップ」、略して「MGC」である。
オリンピックに向けての最終選考レースは9月15日に行われることが決まっており、このレースに参加するためには2019年4月30日までに参加資格をクリアしなければならない(参加資格については、MGC公式サイトの「MGCとは」のページを参照)。
瀬古リーダーは、このプロジェクトを立ち上げた当初、
「もし、資格をクリアするのが7人とか、8人だったりしたら、シャレになんないよ」
と話していたのだが、2月3日に行われた別府大分毎日マラソンが終了した時点で、男子の資格獲得者は24人になった。
その24人を出身校別に見ていくと面白い。
3人
東洋大学
駒澤大学
2人
国士舘大学
東海大学
拓殖大学
上武大学
1人
青山学院大学
早稲田大学
明治大学
日本大学
学習院大学
山梨学院大
高校出 4人
資格獲得者を出しているのは、大学が12校となり、箱根駅伝の常連校がほとんど。学習院大というのは「公務員ランナー」の川内優輝であり、彼も関東学連のメンバーとして箱根を走った経験がある。
私は2005年に『駅伝がマラソンをダメにした』という本を書き、箱根駅伝がマラソンにまったくつながっていない状況を挑発的に書いたが、あれから10年以上が経過し、いまや「箱根駅伝がマラソンに直結している」と言っていい状況になった。
中でも東洋大の卒業生が元気で、しかも代表争いに近い位置につけている。その3人とは、
設楽悠太(Honda)
山本憲二(マツダ)
服部勇馬(トヨタ自動車)
の面々で、設楽悠太は昨年の東京マラソンで日本記録をマークし(その後、早大卒の大迫傑に破られたが)、ボーナスの1億円を手にした。
また、服部勇馬は昨年12月の福岡国際マラソンで、日本人としては14年ぶりの優勝を飾り、勝負強さを見せた。
設楽悠太、服部勇馬のふたりは、大迫傑(早大→日清食品グループ→ナイキオレゴンプロジェクト)、井上大仁(山梨学院大→MHPS)らとともに有力候補に挙げられている。
なぜ、東洋大の選手が活躍するのか?
東洋大の卒業生は、なぜこれほどまでに成長し、ワクワクさせてくれるのだろうか。私は、東洋大の酒井俊幸監督の育成方針にあると思う。
決して育成を急がず、「弱点」を選手に把握させてから送り出しているように思える。
服部勇馬を例にとってみると、彼は大学4年生だった2016年の東京で、初のフルマラソンにチャレンジした。箱根駅伝が終わってから、リオデジャネイロ・オリンピックの選考レースに挑んだのである。
服部は35㎞過ぎにトップに立つと、記者室が色めき立った。
大学生の時点で出場権を獲得するとなると、それは1980年のモスクワ・オリンピックの瀬古さん以来となる快挙だ。
しかし、40㎞過ぎにパタッと足が止まり、服部は出場権獲得を逃した。
そのとき、酒井監督は私に話した。
「フルマラソンを走るだけのスタミナを育成しきれませんでしたね。夏以降に故障もありましたし、箱根駅伝に向けて仕上げていくとなると、どうしてもスタミナ養成を犠牲にせざるを得なくて。でも、自分に足りないものが分かったでしょうから、社会人になったら絶対に伸びますよ」
その通りになった。
酒井監督は、学生時代は無理に促成栽培しようとはせず、東洋大で出来ることやって「弱点」をあぶり出してから卒業させる。
この育成方法が、少なくとも設楽悠太、服部勇馬には功を奏している。
そして、関係者の間では、東京オリンピックの先、2024年のパリ、2028年のロサンゼルスに向けての逸材が、いま東洋大のユニフォームを着ていると評判になっている。
3年生の相澤晃。
相澤はモノが違う。
今年の箱根駅伝では4区に起用され、先頭を行く青山学院大を捉え、並ぶ間もなく抜き去った。
あるライバル校の監督は、相澤の実力をこう話す。
「相澤は本当に強い。だって、去年も2区を走って最初から最後まで単独で押していった。今年の4区もそう。大学生でそんなこと出来る選手はいないですよ」
今年のMGCもワクワクするが、数年先、相澤が戦列に加わってくるのも楽しみだ。
東洋大のOBから、目が離せない。