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カウントダウン東京オリンピック

2018.08.11 公開 ポスト

山根明劇場に隠された日本スポーツ界の脆弱性。このままオリンピックを迎えていいのか?生島淳

iStock.com/allanswart

 日本ボクシング連盟の「騒動」。

 発端は、ボクシング界の改革派といわれる「日本ボクシングを再興する会」が告発状を提出したことから始まったが、その後は辞意を表明した山根明元会長による「山根劇場」が展開、テレビの情報番組が連日トップで扱うほどの騒ぎになってしまった。

 前会長がテレビカメラの前で奔放な言動を繰り返したため(自分のことを「山根明は……」と呼ぶなど)、ことの本質が見えづらくなったが、もともとの問題は次の3点にあった。

・ 日本スポーツ振興センターからの助成金の不正流用
・ 審判不正(俗に「奈良判定」と呼ばれる)
・ コーチ謝金の一部徴収

 助成金の不正流用に関しては、本来、成松大介選手に240万円が渡されるべきものであったが、連盟幹部が他の2選手に対して80万ずつ分けるように指示。会長、連盟側もこの件に関しては認めており、完全にアウト。

 しかし、当初出された「報告」という文章には、この分配も山根前会長の「親心から」という公私混同もはなはだしい弁明が並べられていたが、この文章は数十分で連盟の公式ブログから削除された。

 この一点を取ってみても、日本ボクシング連盟には「ガバナンス」機能がないことが明白である。

 2018年は、日本のスポーツ界にとって「ガバナンス元年」とでも呼ぶべき年になった。

 ボクシング連盟のごたごたは、もともと週刊誌でも報道されていた。その場合の主語は「村田諒太」であり、スターである村田を主語にしなければ、マスコミも扱わなかった。

 ところが、今年になってから、日本レスリング協会のパワハラ問題、5月には関西学院大学と日本大学のアメリカンフットボールの試合で、考えられないような悪質タックルが起き、それが組織的な問題だったことが白日の下に晒された。
 
 レスリング、アメフト、ボクシング。

 3つの問題に共通しているのは、「小さな組織における論理」の妥当性である。

 女子レスリングの世界は狭い。あなたの周りに、女子レスリングをやっていた友だちはいるだろうか? かなり、数は限られる。

 数々の金メダリストを育てた栄和人氏には、絶対的な権力が集中していた。だからこそ、自分の下を去った伊調馨選手を許せなかった。「栄体制」しか認めない排他性があらわになった。

 この問題はそれにとどまらず、栄氏が在籍していた至学館大学の学長が会見し、「そもそも伊調馨さんは選手なんですか?」などと発言、その不遜な態度が大きな波紋を呼んだ。

 小さな組織の脆弱性は、日大アメフト部、日本ボクシング連盟にも共通していた。

 対応が後手後手になった日大アメフト部の内田前監督は、世論に押される形で関西学院大学に謝罪にいき、しかも謝罪先の大学名を間違えていた。

 ライバルに対して、これほど失礼なことはない。

 ボクシングでは、山根前会長は「不正な判定を指示したことはない」と強弁していたが、不正を匂わせる前会長の声が録音されていた。

 いずれの組織も、これまで自分たちの地位を築き、守ってきた論理で「世の中」と戦おうとした。

 自分たちの論理で逃げ切れると考えていたのである。

 しかし、その発想自体がいかにも古く、外から見れば、簡単にその穴を突くことが出来る。

 なぜ、それに気づけないのだろうか? 周りも、それに気づいていたのではなかったのか?

 普段は、大きな批評に晒されることはない小さな組織で生きてきた人間が、一瞬にしてSNSやマスコミからの容赦ない攻勢に晒されたとき、彼らが生き残ってきた「処世術」は、「蟷螂(とうろう)の斧」でしかなかった。


 スポーツに関わる団体が、これほどまでに世論の攻勢に晒されたことは、1980年のモスクワ・オリンピックのボイコット以来のことかもしれない(いまの30代にとっては昔話だろう)。

 問題があぶり出された団体では、しかるべき方向に改革が進むと期待したいが、こうした声が表に出るようになったのも、

「このまま東京オリンピックを迎えては、まずいのではないか」
という関係者の危機意識の表れだと思う。

 あるいは、「良識派」の叫びというべきか。

 東京オリンピックまで、あと2年を切った。

 オリンピックを日本で開催することで、すでに様々な変化が起きているが、協会、連盟といいつつ、それがいかに脆弱な組織であるかが浮かび上がってきたわけだ。

 日本のスポーツの多くは、素人によって運営されてきたのである。

 あと、2年。

 競技団体にとっても、改革、進化のために残された時間は少なくなってきた。

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生島淳

1967年宮城県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、博報堂勤務を経て、スポーツライターへ。国内外を問わない取材、執筆活動のほか、ラジオパーソナリティとしても活躍。著書に『駅伝がマラソンをダメにした』(光文社新書)、『箱根駅伝』『箱根駅伝 新ブランド校の時代』(幻冬舎新書)、『ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話』(文芸春秋)、『箱根駅伝 ナイン・ストリーズ』(文春文庫)など多数ある。

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