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宇宙は何でできているのか

2018.11.10 更新

たった11個の「ニュートリノ」で人類は宇宙に近づいた村山斉

 宇宙はどう始まったのか、私たちはなぜ存在するのか、宇宙はこれからどうなるのか――。そんな人類永遠の疑問にやさしく答えてくれる本が、物理学者、村山斉さんの『宇宙は何でできているのか』です。発売たちまち話題となり、2011年には、1年間に刊行されたすべての新書から最高の一冊を選ぶ「新書大賞」を受賞。現在もロングセラーとなっています。今回は、本書の一部を公開します。

幸運だった「カミオカンデ」実験

 宇宙から飛んできたニュートリノを世界で初めて捕まえたのは、日本の「カミオカンデ」という観測装置でした。岐阜県神岡鉱山の地下1000メートルの深さにつくられたカミオカンデは、3000トンもの水を蓄えたタンクと、1000本の光電子増倍管からなる巨大な装置です。

iStock.com/Pitris

 ニュートリノは宇宙から大量に降り注いでいます。私たちの体は1秒間に何十兆個もニュートリノを浴びていますが、ほかの物質とはほとんど衝突せずにスルスルと通り抜けてしまうので、見つけるのは至難の業です。しかしカミオカンデは、1987年2月、大量に蓄えた水中の電子と衝突したニュートリノを検出しました。その数はたった11個でしたが、それだけでも「大量」と言えるのが、ニュートリノの扱いにくいところです。

 カミオカンデがキャッチした11個のニュートリノは、大マゼラン星雲で起きた超新星爆発によって生じたものでした。この超新星爆発は、銀河全体よりも明るくなるほどの光を放ちましたが、その光のエネルギーは、爆発によって生じた全エネルギーの1%にすぎません。爆発で出たエネルギーの99%を占めていたのがニュートリノです。それほど多くのニュートリノが放出されたからこそ、カミオカンデはそのうちの11個を捕まえることができました。そして、超新星爆発で大量のニュートリノが生じたことは、その星が地球や太陽と同じ「原子」でできていることを物語っています。

 この功績によって、小柴さんはノーベル賞を受賞しました。ちなみに、爆発した超新星は地球から16万光年も離れています。したがって、光速で進むニュートリノも、16万年かけてカミオカンデにたどり着きました。その日は、小柴さんが定年退官を迎えるわずか1カ月前だったというのですから、驚くべき強運の持ち主です。

 また、あの発見の数カ月前に、カミオカンデでは蓄えた水をきれいにする作業を行いました。水が汚れていると、光電子増倍管にたくさんのノイズが入ってしまい、どれがニュートリノなのかわかりません。この作業をやっていなければ、ノーベル賞もなかったでしょう。

 さらに、当時あの施設には「あいつがいるとなぜか実験がうまくいかない」と非科学的な中傷を受ける大学院生がいたらしいのですが、ニュートリノを捕捉したときはたまたま不在だったとか(笑)。あの大発見は、さまざまな幸運に恵まれていたわけです。

変わりつつある「宇宙像」

 それがなければ、次の一大プロジェクトである「スーパーカミオカンデ」の予算もつかなかったでしょう。カミオカンデの貯水量は3000トンでしたが、スーパーカミオカンデは5万トン。壁面の光電子増倍管も1万1200本に増えました。こんど超新星爆発が起きれば、一度に何千個ものニュートリノをキャッチできるでしょう。

iStock.com/natasaadzic

 それだけではなく、大量に降り注ぐニュートリノが突然スッと来なくなる瞬間も観測できるかもしれません。実は、いまスーパーカミオカンデが最大のターゲットの1つにしているのが、その現象です。爆発を起こした超新星が潰れて、そこにブラックホールが生まれると、発生したニュートリノはそこから出られなくなってしまいます。ですから、ニュートリノが来なくなる瞬間をとらえれば、そこでブラックホールが誕生したことがわかるのです。

 それがいつになるのかはわかりませんが、スーパーカミオカンデは別のテーマで、すでに大きな成果を挙げました。お化けのようなニュートリノに、実はほんの少しだけ質量があることを、観測によって明らかにしたのです。

 その意味はこの講義の最後のほうでお話しすることにしますが、ここからは実に驚くべき事実が判明しました。宇宙に存在するニュートリノをすべて集めると、宇宙にあるすべての星とほぼ同じ質量になるというのです。この発見は、1998年のこと。この十数年のあいだに、私たちの「宇宙像」が大きく変わりつつあることが、この話だけでもよくわかるのではないでしょうか。

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村山斉

1964年生まれ。86年、東京大学卒業。91年、同大学大学院博士課程修了。専門は素粒子物理学。東北大学助手等を経て2000年よりカリフォルニア大学バークレイ校教授。02年、西宮湯川記念賞受賞。07年、文部科学省が世界トップレベルの研究拠点として発足させた東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)の初代機構長に就任。主な研究テーマは超対称性理論、ニュートリノ、初期宇宙、加速器実験の現象論など。世界第一線級の科学者と協調して宇宙研究を進めるとともに、研究成果を社会に還元するために、市民講座や科学教室などで積極的に講演活動を行っている。

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