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宇宙は何でできているのか

2018.11.10 公開 / 2020.11.13 更新 ツイート

【追悼・小柴昌俊先生】たった11個の「ニュートリノ」で人類は宇宙に近づいた(再掲) 村山斉

小柴昌俊先生がお亡くなりになりました。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

小柴先生は1987年に宇宙から飛来するニュートリノの観測に成功し、2002年にノーベル物理学賞を受賞されました。ニュートリノとは、物質を構成する最小単位である素粒子のひとつです。存在が予言されたのは1930年。予言したのはパウリという物理学者ですが、質量がゼロ(もしくは観測できないほど小さい)、そして、ほかの物質と出会っても反応せず素通りしてしまうので、「絶対に発見できないだろう」と言っていました。しかし1950年代、ニュートリノは実験室で初めて観測されます。それに続いて、宇宙から飛来するニュートリノを初めて観測したのが、小柴先生が率いる「カミオカンデ」のプロジェクトでした。

カミオカンデはどんなふうにニュートリノをキャッチしたのでしょうか。村山斉さんの『宇宙は何でできているのか』から、抜粋してお届けします。

*   *   *
 

幸運だった「カミオカンデ」実験

宇宙から飛んできたニュートリノを世界で初めて捕まえたのは、日本の「カミオカンデ」という観測装置でした。岐阜県神岡鉱山の地下1000メートルの深さにつくられたカミオカンデは、3000トンもの水を蓄えたタンクと、1000本の光電子増倍管からなる巨大な装置です。

(写真:スーパーカミオカンデの模型(PIXTA))

 

ニュートリノは宇宙から大量に降り注いでいます。私たちの体は1秒間に何十兆個もニュートリノを浴びていますが、ほかの物質とはほとんど衝突せずにスルスルと通り抜けてしまうので、見つけるのは至難の業です。しかしカミオカンデは、1987年2月、大量に蓄えた水中の電子と衝突したニュートリノを検出しましたその数はたった11個でしたが、それだけでも「大量」と言えるのが、ニュートリノの扱いにくいところです。

カミオカンデがキャッチした11個のニュートリノは、大マゼラン星雲で起きた超新星爆発によって生じたものでした。この超新星爆発は、銀河全体よりも明るくなるほどの光を放ちましたが、その光のエネルギーは、爆発によって生じた全エネルギーの1%にすぎません。爆発で出たエネルギーの99%を占めていたのがニュートリノです。それほど多くのニュートリノが放出されたからこそ、カミオカンデはそのうちの11個を捕まえることができました。そして、超新星爆発で大量のニュートリノが生じたことは、その星が地球や太陽と同じ「原子」でできていることを物語っています。

この功績によって、小柴さんはノーベル賞を受賞しました。ちなみに、爆発した超新星は地球から16万光年も離れています。したがって、光速で進むニュートリノも、16万年かけてカミオカンデにたどり着きました。その日は、小柴さんが定年退官を迎えるわずか1カ月前だったというのですから、驚くべき強運の持ち主です。

また、あの発見の数カ月前に、カミオカンデでは蓄えた水をきれいにする作業を行いました。水が汚れていると、光電子増倍管にたくさんのノイズが入ってしまい、どれがニュートリノなのかわかりません。この作業をやっていなければ、ノーベル賞もなかったでしょう。

さらに、当時あの施設には「あいつがいるとなぜか実験がうまくいかない」と非科学的な中傷を受ける大学院生がいたらしいのですが、ニュートリノを捕捉したときはたまたま不在だったとか(笑)。あの大発見は、さまざまな幸運に恵まれていたわけです。

変わりつつある「宇宙像」

それがなければ、次の一大プロジェクトである「スーパーカミオカンデ」の予算もつかなかったでしょう。カミオカンデの貯水量は3000トンでしたが、スーパーカミオカンデは5万トン。壁面の光電子増倍管も1万1200本に増えました。こんど超新星爆発が起きれば、一度に何千個ものニュートリノをキャッチできるでしょう。

 

(写真:iStock.com/Pitris)

それだけではなく、大量に降り注ぐニュートリノが突然スッと来なくなる瞬間も観測できるかもしれません。実は、いまスーパーカミオカンデが最大のターゲットの1つにしているのが、その現象です。爆発を起こした超新星が潰れて、そこにブラックホールが生まれると、発生したニュートリノはそこから出られなくなってしまいます。ですから、ニュートリノが来なくなる瞬間をとらえれば、そこでブラックホールが誕生したことがわかるのです。

それがいつになるのかはわかりませんが、スーパーカミオカンデは別のテーマで、すでに大きな成果を挙げました。お化けのようなニュートリノに、実はほんの少しだけ質量があることを、観測によって明らかにしたのです。

その意味はこの講義の最後のほうでお話しすることにしますが、ここからは実に驚くべき事実が判明しました。宇宙に存在するニュートリノをすべて集めると、宇宙にあるすべての星とほぼ同じ質量になるというのです。この発見は、1998年のこと。この十数年のあいだに、私たちの「宇宙像」が大きく変わりつつあることが、この話だけでもよくわかるのではないでしょうか。

村山斉『宇宙は何でできているのか』

すべての星と原子を足しても宇宙全体の重さのほんの4%。 では残り96%は何なのか? 物質を作る最小単位の粒子である素粒子。誕生直後の宇宙は、素粒子が原子にならない状態でバラバラに飛び交う、高温高圧の火の玉だった。だから、素粒子の種類や素粒子に働く力の法則が分かれば宇宙の成り立ちが分かるし、逆に、宇宙の現象を観測することで素粒子の謎も明らかになる。本書は、素粒子物理学の基本中の基本をやさしくかみくだきながら、「宇宙はどう始まったのか」「私たちはなぜ存在するのか」「宇宙はこれからどうなるのか」という人類永遠の疑問に挑む、限りなく小さくて大きな物語。

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宇宙は何でできているのか

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村山斉

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)教授、カリフォルニア大学バークレー校マックアダムス冠教授。1964年東京都生まれ。91年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。東北大学助手等を経て2000年よりカリフォルニア大学バークレー校教授。02年、西宮湯川記念賞受賞。07年から18年10月までカブリIPMUの初代機構長。専門は素粒子論・宇宙論。世界の科学者と協調して研究を進めるとともに、市民講座などでも積極的に活動。『宇宙は何でできているのか』(幻冬舎新書)、『宇宙は本当にひとつなのか』(ブルーバックス)、『宇宙を創る実験』(編著、集英社新書)、翻訳絵本『そうたいせいりろん for babies』(サンマーク出版)など著書多数。

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