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広く弱くつながって生きる

2018.07.08 公開 ポスト

第四回

既存の価値観から自由になる阿部珠恵/佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト)

佐々木俊尚さんと阿部珠恵さんが、『新しい「人間関係」入門 ~結婚も仕事も、もっとゆるくていい?~』と題したトークイベントで、これからの新しい「人間関係」を切り口とした結婚や仕事、共同体の在り方について語りました。最終回は、質疑応答編です。
構成:新井大貴(箕輪編集室)

安定の定義が変わってきている

質問者 今後仕事はこういうふうになっていくんじゃないか、あるいは、今こういうふうな空気だよねというのがあったら教えてください。

阿部 仕事もどんどんゆるくなってきている感じはしますよね。私は一番初めの会社が転職支援の会社だったんですけど、2008年に入ったときは、35歳転職限界説というのがまことしやかに言われていました。けれど、今は全然そんなことないですよね。もう40代とかでも全然転職できる。そういう意味で、一つの会社に入ったからもうそこで終わり、という感覚を持っている人のほうが少なくなってきているんじゃないかなと思います。

佐々木 政府も副業禁止規定を外しましょうと言い始めてきて、実際に外すところが現れてきているよね。そうなるとこの先どういう人生になっていくのかというと、一つは安定はしなくなるよねという。

阿部 そうですね。何が安定なのかという感じになりますね。

佐々木 そうそう。安定の定義が変わるなと思っていて。よくあるんだけど、一個の会社に勤めているのが安定なのかというと、必ずしもそうじゃない。何故ならその会社が潰れた瞬間に終わるから。3つの会社に勤めてたら、例えば副業禁止規定がなくなって、今は正業の空いた時間にちょっと仕事するのが副業というイメージだと思うんだけど、ひょっとしたら10年後、20年後はもう正業が3つぐらいある状態になっていくと。週に2日働く仕事が3つあるとかね。そういうふうになってくると、1個の会社が仮に倒産しても、収入は3分の2に減るだけでゼロにはならないという。そっちのほうが安定性が高いというように、安定の定義が恐らく変わるであろうと。

阿部 そうですね。それこそさっきの恋愛の話じゃないですけど、よく江戸時代とかの小説とか読んでいると、この人たちほんとにその日暮らしだなみたいな働き方していますよね。仕事が今日来た、やった、みたいな。

佐々木 そうですね。幕末に日本に来たヨーロッパ人とかアメリカ人がいろいろな日記を書いていて、その断片を集めて一つの歴史学の本が昔書かれていてですね。渡辺京二さんという、九州在住の在野の歴史学者で有名な人が書いた『逝きし世の面影』という有名な本なんですけど、ここには「日本人は本当に働かない」という話が紹介されている(笑)。

阿部 本当ですか?(笑)

佐々木 朝来たらようやく職人が来て、作業が始まるかと思いきや、もうすでに半分ぐらい酔っ払っているみたいに書いてある。仕事しろよ、お前らみたいなね。実に日本人って不真面目で働かなくて、いつも明るい人たちだったと。今の日本みたいにこみんな暗い悲しい顔で、首から身分証明書ぶら下げて働いているのは一体いつの時代からか、みたいなね。それは近代になってからなんですよ。もともと日本人というのはその程度だったと考えればもうちょっと気楽に仕事して、朝から酔っ払っていてもいいんじゃないかなんて、個人的には思うんですけど。

阿部 そうですね。私もそんなような気がしています(笑)。

佐々木 ちなみに僕がいた新聞社は特殊な文化があって、仕事が夜もエンドレスなんです。締切が夜の1時ぐらいなので、それまで働くよねと。一方で昼間区切りがあって、夕刊の締切というのが11時から12時ぐらい。そうすると夕刊終わってから深夜の朝刊の締切まで丸12時間ある。そうするとずっと働き続けるのは無理なので、夕刊が終わると一気に解放されるんです。なので、新聞記者の多くは夕刊が終わると昼間から酒を飲んでる。

阿部 ほんとですか。それは今も?

佐々木 90年代の話だから、今はやってないと思うけど。そういう文化の中で育ったので、未だに昼になると、あ、酒飲もうかなってなる。ビジネスランチで、「あ、俺、ちょっとビール頼む」とか言うと、みんな「え?」という顔するのね。でも、そのぐらいでいいじゃないね。
 フランスとか行くと、パリの普通のレストランでランチを頼むとワインがついてきますよ。

阿部 いいですね、そういうのは。なんとなく私が今働きながら思っているのは、明日仕事がなくなってもまあ、どうにか頑張れば、とりあえずコンビニのバイトリーダーにはなれると思っているんですよ。

佐々木 リーダーがつくところがいいですね。

阿部 バイトは誰でもできるかもしれないですが、中でも私はリーダーぐらいにはなれるかもしれないという自信を常に持ち続けていきたいなと思って。

佐々木 すごいささやかで良い自信ですね(笑)。

阿部 それぐらいで生きていけるといいなという。

佐々木 まあ、でもだいたいなんとかなるんですよ。仕事観というと、みんなすごい真面目に考えすぎる。適当にやっときゃなんとかなるんじゃないの、というぐらいのが一番いいのかなと思うよ。

 昔の人って適当だったんです。僕、岐阜県の長良川のほとりで海の家をやってるおじちゃんを取材したことがあって。正確には川の家ですけどね。そのおじちゃんに「夏は海の家だけど、他の季節は何をしているんですか」って聞いたら、「とりあえず冬は競馬新聞売っとるわ」って。え、競馬新聞? みたいなね。さらに「秋はそうやなあ、あそこの観光地へ行って、まんじゅう売るのが仕事だ」とか言ってるの。いろいろな仕事をして何とか1年食いつなぐというのがわりに昔の個人事業主の生き方だったわけで。なんか、我々もそのぐらいに戻っていいんじゃないかと。夏は海の家やって、冬は競馬新聞やって、時にはコンビニのバイトリーダーもやって。そういう気楽なノリが欲しいなと個人的には思いますね。

コミュニティ形成のカギは「地元完結型」と「フラット」

質問者 郊外型のちょっと古い団地みたいな所をうまくコミュニティ化しようと思うと、どんなアイデアや、課題があるかというのをお聞かせいただけたらなと思います。

佐々木 郊外とか地方と言うと、必ず都会との環流というか、ぐるぐる回さなきゃいけないという先入観がすごくありすぎると思うんですよね。地方や郊外だけで完結するほうが実は健全なんじゃないかな。郊外にあるから都心から人を呼ばなきゃいけないとか、観光客を呼び寄せなきゃいけないとか、そういう発想はいらないんじゃないのと最近思うんです。
 今、地元の人が集まれる場所がないから集まってないわけで。例えば代々木上原のど真ん中にスポーンと広場をつくって、そこにカフェとか並べたら、絶対人がたくさん集まるのは間違いないよね。だから設計によってアーキテクチャ的に人が集まれるような雰囲気の場所をつくるというのは絶対可能なんですよね。
 そういう場所があれば、地元の人たちが勝手に集まってそこでお茶を飲んだり、会合をしたりとか、子育てしたりするようになるはずという。その地元完結型のコミュニティ感覚みたいなのをいかに育成するかということが多分カギじゃないかな。

阿部 私もそう思います。

佐々木 あと、どうしても若者だけで集めようとするんだけど、地方ってやっぱりコミュニティの構成メンバーとしてお年寄りも大事。ただね、往々にしてありがちなのは、70歳ぐらいのおじいさんが入るといきなりマウンティング始める。「どうじゃ、わしの言うこと聞いてるか」みたいなね。これをどう避けるかというのは一つ大きな課題なんだよね。

阿部 それ、難しい(笑)。ちょっと話はずれるんですけど、そのマウンティングをされた結果で、恋愛とか仕事とかの価値観が決まっちゃってるんじゃないかなという気がしているんですよね。

佐々木 ああ、なるほど。

阿部 やっぱ結婚は早目にしたほうがいいんじゃないかとか、仕事も真面目に働いたほうがいいんじゃないかみたいなのは、上の世代から色々言われたからこそ持ってしまっている価値観かもしれないです。

佐々木 今の30代ぐらいだと、多分親が団塊世代、60歳代だったりする。その世代って戦後の価値観にどっぷり浸っているから、女は専業主婦になんなきゃいけないとか、男は一国一城の主で家建てようみたいな、そういう固定観念の中で子供に接する。そうすると、ますます子供が抑圧される。そこからいかに自由になるかというのが重要ですね。
 

(終わり)

 

書籍紹介

佐々木俊尚『広く弱くつながって生きる』

新聞記者時代、著者の人間関係は深く、狭く、強かった。しかしフリーになり、リーマンショックと東日本大震災を経験して人とのつながり方を「浅く、広く、弱く」に変えた。その結果、組織特有の面倒臭さから解放され、世代を超えた面白い人たちと出会って世界が広がり、妻との関係も良好、小さいけど沢山の仕事が舞い込んできた。困難があっても「きっと誰かが少しだけでも助けてくれる」という安心感も手に入った。働き方や暮らし方が多様化した今、人間関係の悩みで消耗するのは勿体無い! 誰でも簡単に実践できる、人づきあいと単調な日々を好転させる方法。

阿部珠恵,茂原奈央美『結婚してもシェアハウス! 〜普通の婚活は、もうやめた〜』

現在、男女10人(夫婦2組含む)シェアハウスで暮らしている、アラサー独女のアベタマエ。シェアハウス生活を満喫しすぎて「もう結婚しなくてもいいのでは?」という持論をブログで展開したところ、Yahoo!ニュースのコメント欄で炎上。なので、ネットで結婚相手を募集してみました。条件は「結婚した後も、シェアハウスに一緒に住んでくれる人。そして子どもが産まれても、シェアハウスで一緒に育ててくれる人」。炎上した記事のおかげで(個性的な)ムコ殿候補がざっくざく。書類審査→グループディスカッション→1dayインターンシップを経て、ついに候補者から一人に絞る。そこからシェアハウス6畳一間の同棲生活がスタート。果たして、ネットで募集して数回しか会ったことのない男性と、結婚できるのか?!?! 幸せになりたいアラサー独女の、七転八倒の婚活記録。

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阿部珠恵

1985年、山口県下関市生まれ。東京都立大学人文学部社会学科卒業。 都心で働く楽しさを感じる一方で、地方出身者が都会で暮らす大変さを痛感し、会社の同期とシェアハウスを開始する。世の中の「暮らし方の常識」に疑問を抱き、都会でより楽しく生きるためのコミュニティの在り方を模索し始める。現在、家族が何組も住めて、一緒に子育てもできる、新しい形のシェアハウスを作るべく奮闘中。 著書に『シェアハウス わたしたちが他人と住む理由』(2012年、辰巳出版)。

佐々木俊尚 作家・ジャーナリスト

新聞記者時代、著者の人間関係は深く、狭く、強かった。しかしフリーになり、リーマンショックと東日本大震災を経験して人とのつながり方を「浅く、広く、弱く」に変えた。その結果、組織特有の面倒臭さから解放され、世代を超えた面白い人たちと出会って世界が広がり、妻との関係も良好、小さいけど沢山の仕事が舞い込んできた。困難があっても「きっと誰かが少しだけでも助けてくれる」という安心感も手に入った。働き方や暮らし方が多様化した今、人間関係の悩みで消耗するのは勿体無い! 誰でも簡単に実践できる、人づきあいと単調な日々を好転させる方法。

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