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今月のできたて本

2017.10.25 公開 ツイート

「ラストレシピ 麒麟の舌の記憶」映画公開間近!!

事実の面白さが創作の源泉 田中経一

11月3日(金・祝)公開予定の二宮和也さん主演映画『ラストレシピ 麒麟の舌の記憶』原作者が語る創作の源泉とは。

   *

ーー本日25日発売で新作『キッチンコロシアム』も上梓されました。小説の舞台は田中さんが手がけられたTV番組「料理の鉄人」。リアル鉄人の道場六三郎さんや陳建一さん、坂井宏行さんからもお墨付きをいただいてます。

「料理の鉄人」は当初は「竃<かまど>の鉄人」という名前だったんです。ところがフジテレビの編成の方より、「竃」という漢字がラテ欄(新聞などに掲載されるラジオ・テレビの放送予定)に載せられない(漢字が読めない)ということで、そこから番組名が「料理の鉄人」に変わりました。なので、小説の中では「竃の鉄人」という番組名を復活させ、そして道場さんや陳さん、坂井さんに似た3名の鉄人にもご登場いただきました。枠組みは番組をベースにしてますけれど、お話自体は全くのオリジナルで考えました。

ーー田中さんの小説はどこまで事実でどこからフィクションなのか、読んでいてなかなかわからないのですが。

『キッチンコロシアム』の主役の一人はホームレス料理人なんですが、彼の存在は完全にフィクションです。「料理の鉄人」という番組をやりながら、「ホームレス料理人が鉄人に挑戦したら面白いのに」といつも思ってたんです。だから小説を書こうとしたとき、橋の下に住み、残飯でとびきり美味しい料理を作ってしまう男の姿がすぐに思い浮かびました。同時期に魯山人のことを調べてまして、実は魯山人には「物を捨てない」という料理美学があったことも知って。そうしたことも今回の『キッチンコロシアム』に存分に盛り込みました。

ーー11月3日(金・祝)に映画が公開される『ラストレシピ 麒麟の舌の記憶』には、「最後の料理人」が登場しますが、実在人物ですか。

 僕はTV屋としてのスタートが「カノッサの屈辱」という番組で、あれってまず事実があって、年表を作るところから作業が始まるんです。そこにダジャレなんかを入れ込みながら、どうしたらストーリー仕立てにできるかを考えるんですけど、小説を書く作業も、考えてみると、それと同じことをやってます。まず情報を徹底的に調べる。『ラストレシピ』だったら当時の満州のことを必死に調べました。建物なんかも写真が残っているから、そうした事実の点と点をつなげて、そのなかに主人公を投げ込んだらどんな風に行動するかを考える。「最後の料理人」のヒントとなったのは天皇の料理番だった秋山徳蔵さんです。アイディアの一部になりました。

 テレビ屋で、しかも僕はドラマ畑じゃなくてバラエティやドキュメンタリーをやってきた人間なので、事実が面白いとどうしたって食いついてしまうんですよ。えーこんなことあったんだって。それが小説を書く動機にもなっているように思います。

ーー最近文庫も出されましたね。『生激撮!』、こちらはテレビ業界のヒリヒリ感、ドキドキ感を大きなスケールで描いてらっしゃいます。

 あの話はほぼほぼフィクションです。僕がよく知るテレビ業界で、こんな陰謀を考えついた人がいたらどうなるだろう? というのが発想です。テレビで働く人たちの行動はよく知る世界なので、いつも以上に早く書き上げました。警察のガサ現場を生中継する番組なんて、実際にやれるもんならやってみたいですね。

ーー『生激撮!』の主人公は異能のTV屋、しかし私生活はハチャメチャなダメ男です。『ラストレシピ』の二宮さん扮する主人公も少し変わった人でした。……田中さんが描く登場人物は翳りが魅力的に見えます。

 人間って、ダメなところがないとかわいくないじゃないですか。番組を作っているときは、出てる人をいかにかわいく見せられるかを考えるんです。ダメなところをカミングアウトできる人ほど、愛される。小説を書いても、どうしても、そういう人物を描いてしまうんです。自分がその人を好きでいたいんですよね。『キッチンコロシアム』のホームレス料理人も、才能溢れる人物だけど、どうしても弱さまで描いてしまいました。

ーー2014年に『ラストレシピ』で小説家デビューされから実はすでに6作を書き上げてらっしゃって、そのうち2作は刊行準備中です。このたび文庫になったのが『生激撮!』、そして第4作にあたる『キッチンコロシアム』……どういう順番で読むのがよいでしょうか。著者としてのオススメがあれば教えてください。

 僕に小説を書くことを勧めてくれたのは秋元康さんなのですが、秋元さんは僕の顔を見るたびに「ひたすら書け」って言ってくるんです。

 それでのんびりしようと思いながら、一作を書き終えると、つい次の作品をぼちぼち始めてしまって。先ほど話に出た魯山人についてもたくさん調べるうちに、いつのまにか小説として動き出してしまった。あとは刊行を待つばかりです。

 そうですね。美食シリーズというジャンルでいうと、『ラストレシピ』『キッチンコロシアム』そしてこのあと出す(魯山人を扱った)『愛を乞う皿』は連続して読んでいただくと面白いかと思います。少しずつつながりを感じていただけるといいですね。

 あとはテレビ業界(『生激撮!』)や芸能界(これから刊行予定)、ホテル業界(『龍宮の鍵』)を描いてますので、興味のある分野から読んでいただければと思います。

 

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田中経一

1962年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、テレビ業界へ。その後、フリーの演出家として独立。フジテレビ「カノッサの屈辱」「料理の鉄人」「ハンマープライス」「クイズ$ミリオネア」「有吉弘行のダレトク!?」やテレビ朝日「愛のエプロン」など数々のテレビ番組の演出を手がけ、多くの受賞歴を持つ。現在はテレビ番組制作会社㈱ホームラン製作所を経営し、テレビ番組や食に関するイベント等を演出している。2014年、『麒麟の舌を持つ男』で小説家デビュー。

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