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プロ野球・二軍の謎

2017.04.21 更新 ツイート

プロ野球界の変遷田口壮

いよいよプロ野球が開幕しました! 今年はどのチームが優勝するのか、応援しているチームの動向に一喜一憂している方も多いのではないでしょうか。
華やかな舞台で、鮮やかなプレーを見せるプロ野球選手たち。しかし、一軍で活躍するヒーローたちの陰には、たくさんの「二軍選手」の存在があります。

プロ野球通でもなかなか知り得ない、そんな「二軍のリアル」を、現役監督である田口壮さんが解説してくださっているのが『プロ野球・二軍の謎』です。元メジャーリーガーだからこそ書ける日米ファームチームの違いや、二軍の試合の楽しみ方、監督としての苦労話など、プロ野球ファンなら読んでおきたい一冊です。
本書の発売を記念して、内容の一部を抜粋しお届けいたします。

 

 

* * *

 

■ ど根性世代の監督

 僕は昭和44年生まれ。スポーツシーンでは「ど根性主義」から「合理主義」へと移行する世代です。それまで一般的な下半身のトレーニング法とされ、マンガ『巨人の星』のワンシーンにも使われていた「うさぎ跳び」が実は膝を痛めやすいと知ったのは、ずっとあとになってからのことでした。

 根性をつけるために水は飲まない、というのもありました。とある野球の強豪校ではその昔、水を飲ませないために蛇口が針金で縛りつけられていたといいます。現代では、考えられないことです。そんな無茶なしごきも、「水分補給をしなければ熱中症になる」という科学的かつ当然の理由で消えていきました。

「元気があればなんでもできる!」と言ったのはアントニオ猪木さんです。当時のスポーツ界は、「根性さえあればなんでもできる!」というど根性至上主義の時代で、指導する側も、生徒も、根性がすべてを左右するという意識を強く持っていました。だからこそ僕らと同世代の野球人の多くは、理不尽なしごきに耐え、脱水症状でふらついた試練の日々を乗り越えた、というプライドを持って生きてきたのです。

 もっとも僕は、クラブチームに入っていたわけでもなく、小・中学校と、ごく平凡な学校の部活動で野球をやってきました。高校は、甲子園が見える場所にあるのに甲子園に遠いという公立校で、顧問の先生の専門は器械体操。大学に入っても、そこまでおどろおどろしいしごきや根性試しを経験しないままプロ入りしたのです。

 しかし、同期をはじめ、歳の近い選手のほぼすべては、「もう二度と戻りたくない」と口を揃えるほどに厳しい学生時代を送ってきました。だから一応僕も、恥ずかしながらど根性世代の末席に加えさせていただきます。

 プロに入ってからも、スポーツ界のど根性至上体質は変わりませんでした。なにしろ僕より年上の先輩はみな、さらに厳しいスポ根世代です。プロ入り当時、パ・リーグの先輩たちは見た目もいかつい人ばかり。誰もかれもが高倉健か菅原文太か、という雰囲気で、僕の背筋は緊張のあまり凍るばかりでした。

 先輩たちのすごみは、見た目だけではありません。言葉や態度での圧迫は当たり前。技術は教えてもらうものではなく盗むもの、という常識のもとに、「おまえはアホか」「ええかげんにせえ」「やめてまえ」「へたくそめ」「プロをなめんな」……などとののしられつつも、くじけずにひたすら先輩に張りついて、「プロのなんたるか」を学ぶのが日々の課題でした。

 たとえば新人時代の僕は、酒をそこまで好まないにもかかわらず、飲みに行く先輩のあとをくっついてまわり、「飲め」と言われて素直に飲んで、バッティングや守備のコツを教えてもらおうと必死でした。先輩も、ストーカーのように食らいついていればいつかはわかってくださるもので、「しゃあないなあ、じゃあ、ちょっと来いや」と席に加えてくださり、ときには飲んでいたスナックやバーのテーブルを全部店の端によけさせて、フロアで自ら身振り手振りで技術指導をしてくださいました。お店の女性たちは、あきれて見ているばかりです。そんな即席野球教室がときには朝方まで続き、最後は一心不乱に野球について語り合ったものでした。

 昔の野球選手のイメージというと、とかくお酒がらみの豪快なエピソードが際立ちます。しかし実際のところ、試合を離れても野球からは離れられない選手が多く、先輩たちはオン・オフの区別なく、常に野球を念頭に置いて生きていた気がします。そんな先輩たちと僕ら後輩とのつながりが、密で熱い時代でした。

 

■ 時代によって変わるのはプロ野球界も同じ

 ここまでの話からすれば、自分たちの時代の良さばかりを強調して、「いまどきの若い奴は……」「根性主義を経験していない奴は……」という、ど根性主義礼賛者のように思われるかもしれません。が、僕が言いたいのはそんなことではないのです。

 僕らと同年代の運動部員はおそらく、そういった理不尽さを味わった最後の世代でしょう。指導者や先輩に対する答えは「ハイ」しか許されず、どう考えても納得できないことでも従わなければならなかった時代の終焉のあたりです。

 果たしてそれが正解だったのかと問われれば、答えはノーでしょう。少なくとも、学校における部活動は、試合での勝ち負けもさることながら、そこに至るまでにどんな努力をしたかであったり、チームで一丸となる協調性であったり、精神的な成長を得るための場、というのが第一義なはずです。

 しかし、プロの目的はあくまでも優勝あるのみ。もちろん、そこに至る過程においての個人成績も楽しみのひとつではありますが、最終目的は必ず「優勝」につながっていると思います。

 その中で、「厳しい上下関係や統制によって考える隙も与えず機械のように選手をコントロールする」指導者もいれば、それを否定するむきもあります。そしていま、勝つことにこだわらなければならないプロの世界においても、明らかに根性主義、理不尽指導の押しつけだけでは選手が動かない時代が来ています。昔成功した方法が、いま通用するとは限らない。昔の理論や技術が、いま通用するとは限らないのです。

 だいたい、僕らの世代といまの選手たちでは、体格からして違います。現役当時177センチ、77キロだった僕は、あるとき「日本のプロ野球選手の平均値ドンピシャ」だったことがありました。しかし2016年現在、たとえばオリックスの一軍選手の平均身長は、180・3センチ、83・6キロです。その名の通り、12球団で一番大きな巨人軍の選手の平均は、182センチを超えています。会話をするときに、僕が斜め上を見上げなければならないほどでかいのです。この時点で、身体の使い方なども微妙に違ってくるでしょうし、「ゆとり教育」などのシステムを経験してきた選手たちとは、精神的にも違いがあって然るべきでしょう。

 オリックスの二軍監督となって1年が過ぎました。まさに始まったばかりの指導者人生において、1年目の僕が課題に挙げたことのひとつは、自分の理想や理論を選手に押しつけるのではなく、いかに時代に合わせて指導者側が変化していくか、というものでした。

 

次回の試し読みは、「新人監督の苦労」について。4月23日(日)の更新予定です。お楽しみに。 

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プロ野球・二軍の謎

いよいよプロ野球が開幕します! 華やかな舞台で、鮮やかなプレーを見せる一流選手たち。けれどその陰には、たくさんの「二軍選手」の存在があります。
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本書の発売を記念して、内容の一部を抜粋しお届けいたします。

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田口壮 オリックス・バファローズ

1969年生まれ、兵庫県西宮市出身。関西学院大時代に通算123安打のリーグ記録を樹立。この記録は現在でも破られていない。91年、ドラフト1位でオリックス・ブルーウェーブに入団し、95年、96年のリーグ連覇(96年は日本一)に貢献した。ゴールデン・グラブ賞5度、ベストナイン1度を獲得。2002年FA宣言でメジャーリーグ、セントルイス・カージナルスに入団。6年間在籍したのち、フィラデルフィア・フィリーズ、シカゴ・カブスでプレーした。メジャー通算8年間で、ワールドシリーズに3度出場し、06年(セントルイス)、08年(フィラデルフィア)にはワールドチャンピオンに輝く。10年、日本球界に復帰後、肩の手術を経て12年に引退を表明。NHKの野球解説者として3年間を過ごしたのち、16年から古巣オリックス・バファローズで二軍監督を務めている。現在日経新聞電子版にて「2軍監督 田口壮!」、ほぼ日刊イトイ新聞にて「はじめての二軍監督」を連載中。著書に『何苦楚日記』(主婦と生活社)、『タグバナ。』(世界文化社)、『脇役力』(PHP新書)、『野球と余談とベースボール』(マイナビ新書)、『田口壮の少年野球コーチング』(学研パブリッシング)がある。趣味は料理と釣り。

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