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寝ても覚めても食うことばかり

2020.04.16 更新 ツイート

第7回

まずいまぐろのうまい食べ方【再掲】牧野伊三夫

いつもと違う日々の過ごし方、長いおうち時間を少しでも心地よくする過去記事をあらためてご紹介します。丁寧に暮らし、心を守るヒントをあなたに。

*   *   *

 鮨屋のネタ箱に並んだ、しっとりとひかえめな赤色をしたまぐろを切ってもらって酒を飲む。まぐろは、なんと言っても赤身である。そしてときどき中トロ。

「大将、まぐろ、赤身。刺身で」

「はいよ」

「それから、これ。もう一本。カンカンに熱くして」  

 と徳利を持ちあげる。このような情景を思い浮かべると、いてもたってもいられなくなり、すべてを打ち捨てて鮨屋へ向かって駆け出していく。本当は、鮨屋は刺身などではなく、握りを注文してほしいという。それで、まぐろを握ってもらって酒を飲むこともあるが、これもまたうまい。僕は、冷たい鮨であたたかい燗酒を飲むのがたまらなく好きだ。どうやっても、東京の鮨屋のまぐろはうまいのである。  

 さて、家でまぐろを食べるとなるとこうはいかない。うまいまぐろは魚河岸から鮨屋や料亭へ流れて、なかなか一般家庭まではまわってこない。懇意にしている魚屋でもあればまだよいが、スーパーなどへ買いに行くと、本まぐろの他に、きはだまぐろ、びんちょうまぐろなど色々あって、産地や値段も様々、部位も赤身、中トロ、大トロと分けてあり、どれを買ったらよいかと迷う。ただ高いものを買えばうまいというわけではない。ちなみに僕は大トロなど大嫌いである。売り場の棚にへばりつくようにしてまぐろのサクを見つめ、よさそうなものを次々と手にとっては、ただただ迷う。たまに僕と同じように真剣に目を細めてサクを見つめている人がいて、ああ、この人もまぐろが好きなのだろうなと思う。  

 しかし、気合を入れて買ってきても、すじばっていたり、うまみが無かったりまずいのをつかんでしまうことがたびたびだ。年の瀬に奮発して買ってきたまぐろのサクを正月に切って食べてそうだったときの落胆は、相当のものである。そのまま刺身で食べるのをあきらめて、づけや茶漬けにしたところで、まずいものは、まずい。一切れ二切れ食べてこれはだめだと思ったら、酒と塩をふり、炭火で串焼きにして醤油とわさびで食べる。  

 あるいは、蓋つきの小鍋にごま油をひいてまぐろを並べ、豆鼓を小さくみじん切りにして酒でのばしたのと塩、コショウをふって酒蒸しにする。食べるときに刻んだ香菜や葱をのせて、少し醤油をたらす。和からしがあれば、なおよい。この酒蒸しはとてもうまい。そのまま刺身で食べてうまいのでも、こうやって火を入れて食べようかと思うくらいだ。

 もうひとつ、ねぎま鍋にするのもいい。鍋にそばだしをはり、砂糖とみりんを入れ、少々甘くしてブツ切りにした葱とまぐろを煮て食べる。これらは鮨屋では味わうことの出来ない我らが家庭の味である。

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牧野伊三夫 画家

1964年北九州市生まれ。画家。多摩美術大学卒業後、広告制作会社サン・アド入社。1992年、退社後に都内の画廊での個展を中心に活動を始める。美術同人誌「四月と十月」同人。「雲のうえ」(北九州市情報誌)、「飛騨」(飛騨産業広報誌)編集委員。著書に『今宵も酒場部』(共著・集英社)、『僕は、太陽をのむ』(港の人)。東京都在住。

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