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月9 101のラブストーリー

2016.12.27 更新 ツイート

第9回

女と男の粋な別れ方?――「月9」の初ヒロインの恋の行方は中川右介

「月9」が連続ドラマの頂点に立つまでの10年の軌跡と、恋愛とバブル経済に沸き、崩れ始める日本を描いた話題作『月9 101のラブストーリー』(中川右介著)からの試し読み第9回。

「月9」第一弾ドラマ『アナウンサーぷっつん物語』は、主人公の女性アナウンサー西沢由美子(岸本加世子)とキャスターの新城卓也(神田正輝)の恋愛模様——新城には同じ社内に早苗という恋人がいる——と、テレビ局の裏側を描いた業界ドラマ。現実の政治の世界でもマドンナ旋風が吹き荒れ、「女の時代」ともてはやされました。そして「月9」のヒロインの仕事と恋の結末は…。

 

 第一章 前史としての「業界ドラマ」——1987年

 

 より進む「虚実綯交(ないま)ぜ」

 四月二十六日日曜日、統一地方選挙の後半、市区町村の首長と議員の選挙が行なわれた。特徴としては、主婦が主婦であることを売り物にして立候補して当選したことだ。これを「マドンナ旋風」と呼んだ。この勢いは、二年後の参議院議員選挙、そして九〇年の総選挙にまで波及し、政治の世界でも「女の時代」が到来したかに見えた。

「女の時代」の象徴は、政界という小さな業界では前年(一九八六年)に社会党委員長となった土井たか子だったが、日本全体では松田聖子だった。

 この週のテレビ情報誌「ザテレビジョン」(角川書店)の表紙は松田聖子だった。神田正輝との結婚から二年が過ぎ、出産もした彼女が、新しいアルバムを出し、コンサート・ツアーを再開したのだ。松田聖子はそのプロモーションとしてテレビ番組にも積極的に出演していた。

 TBSの『ママはアイドル!』では、アイドル中山美穂が後藤久美子の継母になるので「ママ」なわけだが、松田聖子は本当のママであり、アイドルだった。やがて松田聖子は「ママドル」と呼ばれるようになり、多くの女性アイドルがこれに続くが、その頃には松田聖子自身は「ママドル」ではなく「永遠のアイドル」となっている。

 ともあれ、一九五九年生まれの山口百恵は完全に引退したが、一九六二年生まれの松田聖子は、結婚・出産後もアイドルであり続けることを選択し、それを実現したのである。二人は三歳しか離れていないが、まったく別の時代を生きていた。

 

 四月二十七日月曜日夜九時、『アナウンサーぷっつん物語』を見るつもりでフジテレビにチャンネルを合わせた視聴者は、一瞬、戸惑った。画面には三浦洋一と国生さゆりが映っているのだ。何やら深刻な様子だ。数秒の後、本木雅弘も映る。カメラが引くとそれが五月七日からスタートするドラマ『キスより簡単』を収録中のスタジオなのだと分かった。そこへ西沢由美子が取材に来ているのだ。

 この週の『MONDAY60』のテーマは「女が男を捨てる時」。早苗は、新城と由美子の関係を疑うようになり、「別れる」と言い出し、新城を戸惑わせた。一方、新城と早苗の関係を知った由美子は、不機嫌になり、新城に冷たくあたっていた。三人の関係はギスギスとしていき、早苗が由美子に平手打ちをした──というところで、この回は終わった。

 

 翌週はゴールデンウィークの只中となった。五月四日は月曜日だが、三日の憲法記念日の振替休日で休みだった。

 前週は、早苗が由美子をひっぱたいたところで終わっている。二人の関係はどうなるのか。さらには早苗と新城は別れるのか、由美子と新城の関係は進むのか、それを知りたくてフジテレビにチャンネルを合わせた人々は、ドラマの冒頭で、「早苗さんはロンドンへ行った」とアナウンサーたちの会話で知らされた。「急な話だった」というだけで、それ以上の説明はない。新城との破局でロンドンへ行ったのか、新しい仕事の声がかかって退社して行ったのか、由美子や新城がそれについてどう思っているのか、何の説明もない。ほんの数秒で、すでに早苗がフジテレビにいないということが示されるだけだ。

 この日は、ドラマとしては珍しい「生放送」だった。『MONDAY60』の放送がそのまま同時進行でドキュメンタリーとして描かれるのだ。そのことは新聞などで告知されている。視聴者は当然、生放送ゆえのアクシデント、「放送事故」を期待して見ていた。

 これまでもフジテレビのアナウンス部部長・露木茂が本人役で出演していたが、スタジオでのシーンはなかった。しかし、この日は、露木が『MONDAY60』のなかで「今日のニュース」を伝えるシーンがあり、実際の一九八七年五月四日の「今日のニュース」が伝えられた。それは、前日の五月三日に起きた朝日新聞阪神支局襲撃事件の続報であった。兵庫県西宮市の朝日新聞阪神支局に散弾銃を持った男が侵入し、二人の記者に向けて発砲し、そのひとりは四日に死亡した。二十九年後の二〇一六年になっても犯人は分かっていない。さらにプロ野球の結果も報じられた。

 由美子が局内を『MONDAY60』のスタジオへ向かって走っていると、タレントの渡辺徹と島田紳助に出会い、からまれた。二人は彼女を「岸本加世子」として扱い、岸本は抵抗してあくまで「由美子」を演じようとするのだが、一瞬、素に戻ってしまう。仕組まれた放送事故ではあったが、岸本は立ち直り、由美子として『MONDAY60』のスタジオへ着いた。

 

『アナウンサーぷっつん物語』は五月十一日の第六回が最終回となった。六回というのは短いが、低視聴率での打ち切りではなく、最初からの予定だった。実際、視聴率はよく、十月にはスペシャル版が作られたほどなのだ。

 それでも、最終回は収拾がつかなくなって強引に話をまとめたようでもある。前週は早苗が突然にロンドンへ行ってしまったが、今度は新城が新しい番組のためニューヨークへ行くことになるのだ。『MONDAY60』の特集のテーマは「男と女の粋な別れ方」である。

 新城が出発する日、最後の最後になって、由美子は決意し、すでにタクシーに乗っている新城を追いかけた。気づいた新城は下車して道路へ出て、二人は抱き合い、キス──しかし、それだけだ。二人は互いの気持ちは確認したが、新城は由美子に「ニューヨークへ来い」とも、「待っていてくれ」とも言わないし、由美子も「待っている」とも言わない──少なくとも、視聴者に見えるかたちでは、そういう会話はなかった。

 そして由美子は今日もアナウンサーの仕事をしている──というかたちでドラマ『アナウンサーぷっつん物語』は終わった。平均視聴率一七・九パーセント。ヒットしたと言っていい。だが、TBSの『ママはアイドル!』は二〇パーセントを超えていた。

 

※ 試し読み最終回へ続く。12月31日(土)公開予定です。

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関連書籍

中川右介『月9 101のラブストーリー』

一九八七年四月にフジテレビのドラマ枠となってから、都会を舞台にした若い男女の華やかな恋愛物語を徹底化させた“トレンディドラマ”で革命を起こし、爆発的なヒットを飛ばしてきた「月9」。 ヒロインの最新ファッションや人気スポット以上に、人々を熱中させたものは何だったのか? 私たちは何を投影し、共感したのか? 絶頂期の『ロンバケ』を含む三十九作品を中心に、「月9」が連続ドラマの頂点に立つまでの十年の軌跡をたどる。 ドラマこそ今を映すジャーナリズム。恋愛ドラマとバブル経済と日本の興亡が重なる壮大な歴史ノンフィクション。

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月9 101のラブストーリー

都会を舞台にした男女の華やかな恋愛物語を徹底化させたトレンディドラマで日本を席巻した「月9」。『東ラブ』 『ロンバケ』『101回目のプロポーズ』…絶頂期の39作品を中心に、「月9」が連ドラの頂点に至る軌跡をたどる。

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中川右介

1960年生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。出版社IPCの編集長として写真集を中心に美術書を編集、ソ連の出版社とも提携した。後、出版社アルファベータを設立し、代表取締役編集長に(2014年まで)。ドイツ、アメリカ等の出版社と提携し、音楽家や文学者の評伝や写真集を編集・出版。クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲、マンガなどの分野で旺盛な執筆活動を続ける。おもな著書に『十一代目團十郎と六代目歌右衛門』『坂東玉三郎』『カラヤンとフルトヴェングラー』(以上、幻冬舎新書)、『手塚治虫とトキワ荘』(集英社)、『サブカル勃興史』(角川新書)、『1968年』(朝日新書)などがある。

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