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私たちを取り巻く「生身の暴力」と「描かれる暴力」

2019.08.11 公開 ポスト

後編

アウトローオタクは、なぜ増えるのか? 『生身の暴力論』が教えてくれる暴力の愚かさと正体〔再掲〕久田将義/藤田香織

闇営業騒動が長くニュースをにぎわせていますが、裏社会とはどれだけ私たちの近くにあるものなのでしょうか? 2015年掲載ですが、今読むほうが、よりリアリティとその怖さに気づかされる記事をご紹介します。

*   *   *

過激な暴力と裏社会を小説のかたちで描いた『キングダム』と私たちの身近にある暴力と裏社会のリアルに迫った『生身の暴力論』。『キングダム』に描かれたフィクションの世界と、久田さんの知る現実の世界は、きわめて近い地続きのところにあるようだ。
(構成:須永貴子)


◆「先輩」「アニキ」は不良少年独特の心情

藤田香織(以下、藤田) 『キングダム』では、かつて暴走族だった子たちが、暴走族のままずっと関係を続けてきたわけじゃなく、それぞれに起業などをして浮き沈みを経て、30歳を過ぎたあたりからまた集まりだしたところに、現役の若い人たちが近寄ってくる。『生身の暴力論』でも“地元意識”について書いてらっしゃいましたけど、実際のところはどうなんでしょうか? そしてその地元意識は、何歳になっても逃れられない鎖や縛りなんですか?

久田将義(以下、久田) 生粋の不良少年は、世田谷でも浅草でも、50歳くらいになっても「先輩、先輩」と言いますし、なかなか関係が切れないですね。

藤田 地元からも出ていくのは難しい?

久田 不良少年独特の心情なんですよね。ヤクザが盃を交わすところまではいきませんが、似家族化しているところはあると思います。

藤田 アニキ感、舎弟感があると。

久田 あります。その関係性はライトになってきてますけど、酔っ払うと「アニキ」なんて言い出すのは、一般人にはわからない独特の感覚だと思います。


◆ネットに中にはアウトローオタクがたくさんいる

久田 『キングダム』でもネットの描写がありますが、ヤンキーや半グレが好きな“アウトローオタク”って特に地方にめちゃくちゃ多くて、ネットを通じてどんどん幻想が膨らんでいるんです。“昭和60年代最強”“●●王子”“●●●の帝王”とかキャッチコピーをつけて、本人に会ったこともない人が理想のイメージを作り上げちゃってるんですよ。ネット社会が幻想を作りやすい環境になっていると思います。

藤田 ちょっと遠いところにいるから、地方の子にとっては「東京すげえ」と思って終わる憧れで済むのかな。それこそ最初から「住んでる世界が違う」わけですもんね。

久田 地方都市に行ったら、「自分、○○君知ってるんですけど」とか、ネットに載っている情報を読んだだけで言っちゃう人はいます。地方の人たちはネットを読んでワクワクするんでしょうね。

藤田 もうちょっとした伝説に近い(笑)。

久田 たしかに都市伝説っぽいですね。

藤田 ヤンキーとかアウトローとか半グレは、時代によって少しずつ形態は違うものの、粛々と受け継がれてきた、いつまでたっても枯れないひとつのジャンルになっている気がします。

久田 サッカーファンも、やったことない人たちがめっちゃ詳しいじゃないですか(笑)。アウトローもそうなんです。

藤田 そっか(笑)。アイドルも、一度もライブに行ったことないのにすごく詳しい在宅ヲタがいっぱいいますしね。アウトローもサッカーもアイドルもネットがあれば幻想を抱かせることがきる。

久田 だから、『キングダム』で描かれるネットの使い方はすごく「今風だな」と思いました。ただ、リアルでは、僕はネットの情報は全然信じていないんです。長すぎて読んでいられないからほとんど読まないですし。でも、多くの人たちは見るだろうなと思うし、見ています。警察の人たちもたまに見ている。小説に準暴力団を中心に捜査している“特別捜査隊”が出てきて「リアルだな」「新野さんはよくご存知だな」と思いました。


◆男子のデビューは遅ければ遅いほどタチが悪い

藤田 久田さんの『生身の暴力論』に〈喫煙〉〈飲酒〉〈武器を使ったケンカ〉〈カツアゲ〉〈性交渉〉のうち3つをこなしたら“デビュー”で、遅いほうがダサい、最終的にアコギなひどいことをするのはデビューが遅かった人が多いと書いてあります。私の知っているデビューの概念と全然違っていて驚きました!  一般的には、それまで地味で、異性とつきあったこともない、真面目な子が進学や就職を機に、急にいろいろな意味で「やる気」を出してくることを〇〇デビューと呼んでいると思っていたので。

久田 女子界とは違うんでしょうね(笑)。

藤田 女子界というか、一般男子もそうだと思ってました。なので、すごく衝撃的で。

久田 ちょっとハードルは高くしました。特に、〈武器を使ったケンカ〉はハードルが高いですね(笑)。

藤田 私はこれまで殴られたことも、殴り合いの現場を見たこともないので、まったく暴力に耐性がないんです。以前、誘われてボクシングをリングサイドの席で観たとき、その「肉を打つ音」に震えが止まらず、「これをどう楽しんだらいいんだろう」って考えたことがあって。練習を積んだ人がリングに上がる、ルールのあるスポーツでもこんなに恐ろしいんだから、ルールのないケンカや暴力を見ちゃったら、足がすくむんだろうな、仲裁に入るなんて絶対に無理だろうな、という生々しい想像を初めてしました。ボクシングと暴力を同じに考えてはいけないと分かっていますが、ちょっと直視できないほど怖った。

久田 スポーツだけど暴力性を帯びてますものね。怖いですよね。

藤田 頭では想像は出来ても、「殴る」「殴られる」という実感を知らない人も、世の中には意外と多いと思うんです。実社会でもしも自分が一発でも殴られたら、戦意喪失するんじゃないかと。歯向かうことも抵抗することもできない気がします。傷害事件や、性的暴力の被害に遭った人に「逃げればよかったじゃん」って言う人がいるけれど、一発殴られたら抵抗できなくなる人も少なくないと思いますよ。

久田 著書で“暴力は弱者に対する卑怯な手段”と定義付けしましたけど、だからこそ、女性に対する暴力はダメだと主張してるつもりです。

藤田 デビュー論に戻ると、久田さんがいうところのデビューをしないままお酒も煙草もやらずに、優等生っぽく真面目に生きてヒエラルキーの上のほうにいたのに、社会に出てみたら思い通りにならなくて、鬱屈やストレスがたまって、身の回りの人に暴力を振るう人っていますよね? デビューしないまま、急にキレる人。

久田 います。統計をとったわけじゃないですけど、デビューしていない人のほうが急にキレる傾向にあるんじゃないかなと思います。一種の仮説ですが。

藤田 いろいろな小説を読んでいても、暴力的な人の暴力よりも、真面目な優等生タイプが何かをきっかけにキレてDVが始まる傾向が強いんです。逆に、女性から夫や恋人へのDV小説も増えている。現実社会でもそういう傾向があるのでしょうか。私は何も知らず、のほほんと生きてるけど(笑)。

久田 別に僕はデビューを勧めているわけではないですし、デビューしなくてもいいと思います。ただ、おっしゃったように、40過ぎてからデビューしちゃうと、コントロールができなくて悲惨なことになっちゃう気がします。暴力事件にしろ、女性沙汰にしろ、トラブルが起きたときに悲惨になる傾向が強い気がするんですよね。

藤田 恋愛慣れしてない人がストーカーになっちゃうような?

久田 そういう傾向は、取材経験のなかで肌感である気がするんですよね。暴走族上がりで奥さんにDVするヤツもたまにいるけれど、そんなに悲惨なことにはならない。するなら早めにデビューしたほうがいいんじゃないか、という問題提起です。


◆『生身の暴力論』と『キングダム』をセットで読むと、より楽しめる

藤田 久田さんの『生身の暴力論』をサブテキストにすると、『キングダム』に描かれていることがすごく理解できるんです。自宅襲撃の意味とか、

久田 現実の裏社会では、自宅は絶対にダメです。サンクチュアリですから、そこに侵入された「殺しに行く」ってみんな言いますね。

藤田 それにしても真嶋はねぇ、ちょっと公に言うのが憚られるほどカッコいい(笑)。なんでしょうね、ダメ男に惹かれるのとはまた違う、「落ちるなキケン!」って書いてあるのに、引きこまれる魅力がありました。

久田 本当ですか(笑)?

藤田 もちろん、小説の主人公としてですよ(笑)。実際に会ったら、自分のなかの危険センサーが鳴りまくると思いますが。

久田 そうですよね。でも確かに、途中から真嶋はどんどんかっこ良くなりましたね。

担当編集 最初は、岸川が主人公で、真嶋を傍目で見ながら「こういう暴力の世界に生きる人は愚かである」を見つめたいというところから始まりました。でも、その正体を暴くつもりだったのに、書き続けていくうちに真嶋に乗っ取られて、物語自体が愚かな暴力に飲み込まれていきました。

藤田 真嶋みたいな人は、実生活で見たことがないし、小説のダークヒーローだからかっこいい。続編を期待させる終わり方もよかったですし。真嶋には、もっと彼を知りたい、その話を読みたい、と思わせるだけの力があると感じました。

久田 実際も頭のいいやつほどうまいこと潜伏して絶対に捕まりませんからね。ぜひその後を書いてほしいです。
(おわり)

関連書籍

新野剛志『キングダム』

岸川昇は、リストラにあい失業中。偶然再会した中学の同級生、真嶋は「武蔵野連合」のナンバー2になっていた。真嶋に誘われ行った六本木のクラブでは有名人たちが酒と暴力と女に塗れ……。そんな中、泥酔し暴れる俳優に真嶋が「自分で顔をナイフで切れ」と迫る――。絶叫と嬌声と怒号。欲望を呑み込み巨大化するキングダム。頂点に君臨する真嶋は何者か。

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久田将義

久田 将義 1967年東京都生まれ。編集者。法政大学社会学部卒業後、産経メディックス入社。『ダークサイドJAPAN』『ノンフィクスナックルズ』『実話ナックルズ』(以上、ミリオン出版)、月刊『選択』(選択出版)、『週刊朝日』(現・朝日新聞出版)などの編集を手掛ける。著書に『トラブルなう』『関東連合~六本木アウトローの正体~』『生身の暴力論』など。

藤田香織

1968年三重県生まれ。書評家。著書に『だらしな日記 食事と読書と体脂肪の因果関係を考察する』『やっぱりだらしな日記+だらしなマンション購入記』『ホンのお楽しみ』。近著は書評家の杉江松恋氏と1年半かけて東海道を踏破した汗と涙の記録(!?)『東海道でしょう』。

Twitter: @daranekos
Instagram: @dalanekos

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