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青山群青の憂愁

2015.11.14 公開 ポスト

「何でもかんでも霊のせいにするな」って…じゃあ誰の仕業なの!?

心霊コンサルタント 青山群青の憂愁 Ⅴ入江夏野

 「七緒さんの霊が彷徨っているのは、成仏できていないからですもの、だ?」

 群青は厭味たっぷりに花の口真似をした。それがまたそっくりだから憎らしい。

 「ま、君の希望はわかった。私は君の借りている一〇一号室で、二度と怪奇現象が起こらないようにすればいいわけだ」

 「引き受けていただけますか」

 「仕方ない。ただし、まだいくつか聞いておきたいことがある」

 彼は事務的な口調に戻って尋ねてきた。

 「さっきの話に、横浜市役所勤務の男性が出てきたが」

 「ああ、山岸さんですね」

 「そう、山岸さん。彼はいつ頃から裏のマンションに住んでいるんだ」

 「さあ、それはちょっと。私が去年越してきたときには、もう裏の広尾喜望レジデンスにお住まいでした」

 花は身を乗り出した。

 「今度の幽霊事件に、山岸さんが関係しているんですか?」

 あんなに礼儀正しく清潔感に溢れる山岸さんがそんなまさか、と思う反面、美穂子さんから、彼には気をつけろ、と釘を刺されている。確かに、昨晩、玄関前に彼がいたのはいささか妙だった。本人はジョギングの帰りといっていたけれど、最後まで花と目を合わそうとしなかった点が、気になるといえば気になる。

 「山岸さんは、アルバイト先のファミレスによく来てくれて、毎回沢山お料理を注文してくれるお得意様の一人です。いつも物静かで態度が紳士的ですから、アルバイトの女の子たちにも好かれています」

 「彼は私に会いたくて、うちのファミレスによく来るんだわ――。君は、こんな風に考えてちょっと自惚れてるんだろ」

 群青の鋭い突っ込みにたじろぎながら、花は真っ赤になって否定した。

 「そんなこと、ぜんぜん思ってませんからっ」

 「図星だったか」

 反撃する前に、群青が次の質問を繰り出してきた。

 「一〇一号室の間取りを教えてくれ」

 「八畳の洋間に、四畳半のキッチンがついた1Kです。玄関を入ると洋間があって、その奥にキッチンとお風呂場、それにトイレがあります」

 「キッチンに勝手口は?」

 「ありません。でも窓ならあります」

 部屋の様子に思いを巡らせているのか、群青は腕組みをして天を見上げている。

 「キッチンの窓に、面格子は?」

 「面格子?」

 おうむ返しに聞き返す花の額に、群青の冷やかな眼差しが突き刺さった。

 「窓の外側に取り付ける格子状の部材のことだ。防犯対策になる」

 「あ、それなら付いています」

 「押入れ、もしくは作り付けのクロゼットはある?」

 「八畳間に、作り付けのクロゼットがあります」

 持ち物が少なく、中はがらんとしている。

 「床下収納は?」

 「キッチンにあります。でも使っていませんけど」

 「なぜ?」

 「なぜって、しまうような調理器具や食料品がないからです」

 「料理をしないのか」

 そうです、といえば、彼は呆れるだろうか。女の子なら料理するのは当たり前、と考える男の人には「子供はみんな天使」というのと同じ強者の驕りが感じられて、花は好きになれない。第一、花は料理ができないわけではない。料理をするような時間がないだけだ。

 「私の場合、夜はバイト先でまかないご飯が出ますから、夕食は作らずに済みます」

 カレーでもハンバーグでも、自分で作るほうが圧倒的に美味しいのは百も承知だ。だが、仕送りの少ない苦学生の身では、レトルトで凌ぐほうがずっと安上がりで助かる。

 「生きるのに、一杯一杯ってわけか。……そうだな。自分でパンを焼いたり季節の花を生けたりするのは、余裕のある暮らしをしていないとなかなかできることじゃない」

 群青の言葉に、花はしみじみとうなずいた。口調は素っ気ないが、自分のことを理解してくれた気がして嬉しかった。

 仕送りでは足りない分の生活費を自力で稼ぐ一方、花は東京の大学、それも超がつくお嬢様大学に入学することを許してくれた両親のためにも良い成績を取らなくちゃと、勉強も必死に頑張っている。バイトと勉強に明け暮れる日々は充実している反面、ときどきくたびれて身体がガス欠を起こすと、急に何もかもが虚しくなり、バイトも学業も放り出したくなることがあった。

 百均でひまわりの造花を眺めていたときが、まさにそうだった。黄色い造花を部屋に飾れば、何の楽しみもない無味乾燥な毎日に少しは彩りを与えることができるかも、と考えたのだ。だが結局、造花は諦め、そのカネで食パン一斤を買って帰ってきた。

 「部屋を調べる必要がある。それもできるだけ早くだ」

 群青が提案してきた。

 「君は今夜、秩父の親戚か、友達の家に泊まってこい」

 「まさか先生? 私の部屋を一人で調べるというんですか?」

 驚いて確認すると、群青は、そんなの当たり前だろ、といいたげな顔でうなずいた。

 「君に扮して、今夜、五十嵐フラットの一〇一号室に泊まる」

 「私に扮して?」

 「七緒さんにご登場願うには、そうするのがいい。君の望みは、成仏できずに彷徨っている七緒さんの霊に消えてもらうこと。そうだったよな?」

 群青はくっと顎を上げて尋ねてきた。目つきは相変わらず鋭く、冷たい。言葉にしても、嫌なら別にいいんだぜ、と冷淡に突き放すような響きが感じられる。花は「やっぱり他の人に頼みます」といって断りたい衝動に駆られた。

 ――だが、待て。落ち着け。

 よく解釈すれば、これくらいクールな性格でないと、心霊コンサルタントという難しい仕事は務まらないのかもしれない。なにしろ、彼が仕事で相手にするのは死んだ人間の魂だ。

 「よろしくお願いします」

 昨晩のような怖い思いをするのは二度と御免だ。

 もはや手段は選んでなどいられなかった。

 

 

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青山群青の憂愁

次々起きる怪奇現象を解決してもらうため、貧乏女子大生・花は、心霊コンサルタント・群青を紹介される。長髪に藍染の袴姿、ブルーのカラコンをした群青は、超感じ悪いけど、腕は確か。洗面台一杯の鶏の頭、血染めのライブ会場などの謎を〝降霊〟して次々解決! クールでイケメンの〝心霊コンサルタント〟が紐解く怪奇ミステリ、始まります。 

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入江夏野

東京都生まれ。会社員生活を経てジュニア小説家となる。1996年、別名義で某ミステリ新人賞を受賞。本作は入江夏野名義での初作品。

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