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青山群青の憂愁

2015.11.12 公開 ツイート

怪しさ満点。ついに“心霊コンサルタント”登場!

心霊コンサルタント 青山群青の憂愁 Ⅳ 入江夏野

キャラノベ界に、クールでイケメンな心霊コンサルタントが登場!
次々起きる怪奇現象を解決してもらうため、貧乏女子大生・花は、心霊コンサルタント・群青を紹介される。長髪に藍染の袴姿、ブルーのカラコンをした群青は、超感じ悪いけど、腕は確か。
  洗面台一杯の鶏の頭、血染めのライブ会場などの謎を〝降霊〟して次々解決! 〝心霊コンサルタント〟青山群青が紐解く怪奇ミステリ、始まります。

 


<著者の入江夏野さんより、plusへメッセージが届きました!>

 はじめまして。入江夏野と申します。
このたび、みなさんのもとへお届けする物語の主人公「青山群青」は、イケメンだけど一癖も二癖もある男。
 よくいえば、世界一ハカマを美しく着こなす「ハカマ王子」となりますが、「いや、単なるコスプレイヤーだろ」なんて突っ込みを入れたくなる場面もご用意してあります。
性格はぶっきらぼうで、ちょっぴり俺様な一面もあるようです。それでいて相談事が舞い込めば、真摯に依頼人の話に耳を傾け、難事件から珍事件までを鮮やかに解決。貧乏女子大生「花」が彼に胸ときめかせるのも、当然の流れでしょう。
「心霊コンサルタント」を名乗る群青は、相談者の前で「降霊」して様々な事件を解決します。でも、花は最初、疑問に思います。彼には本当に「霊能力」はあるのか? そんな男が存在するのか? もしかして、彼はとんだペテン師野郎なんだろうか……?
 読者の皆さまも当然、疑わしく思われることでしょう。
 実は、ここに哀しい秘密が秘められているのですが、それは読んでのお楽しみということで!
 ただし、これだけはみなさんにお約束いたしましょう。
 最後の秘密が明らかになったとき――
 あなたの心には青山群青が棲みついています。

 

<登場人物紹介>

青山群青 (あおやま ぐんじょう)
24歳。「心霊コンサルタント」のときは、石川五右衛門のような羽織袴のコスプレ(もと弓道部員なので)、青いコンタクトレンズ、手には革の手袋。クールなイケメン。細マッチョ。「降霊」してオカルトなナゾを解決するが……。

小日向花 (こひなた はな)
広尾のお嬢様女子大2年生。貧乏苦学生でアルバイトばかりしてる。群青に片想い。

 

塩村一生 (しおむら いっしょう)
34歳。兆徳寺住職。大柄、筋骨隆々、ソフトモヒカン。日本人離れしたルックス。墨色の法衣。声が大きくて優しく面白い。

青山一翠 (あおやま いっすい)
34歳。群青の兄、一生の親友。3年前の事故で植物状態で入院中。
 

 

第一話 ドクダミ館の怪

 
激しく打ちつける横殴りの雨のなか、ずぶ濡れになって石段を上っていく花は、ふっと足を止めた。

 遠くで雷が鳴っている。

 子供の頃、公園の大木に落雷するのを間近で目撃して以来、雷は大の苦手だった。

 ――急ごう。

 ビニール傘を持ち直すと、唇を引き結んだまま黙々と石段を上っていった。

『兆徳寺』

 大きな石標を眺めながら山門をくぐると、本堂まで石畳がつづいている。

 「ごめんください」

 大きな賽銭箱の前から本堂に向かって呼びかけてみた。だが、ずらっと並ぶ戸は全部閉まったきり、中から返事はない。

 やっぱり電話をかけてから来るべきだった……。

 今から一時間前、日替わりランチを食べながら「どうしたらいいと思う?」と同じクラスの友達に相談していたら、耳聡く花たちの会話をキャッチした学食のおばちゃんが「お坊さんに相談してごらんよ」といって、このお寺を教えてくれた。

 来てみると、学食のおばちゃんの「あそこのお寺さんはいつもいい気が流れている」という話は本当だった。雨の匂いのする空気は清々しく、玉砂利を踏みしめる音にも心が洗われる思いがする。

 本堂と渡り廊下で繋がる隣の建物は、老舗の旅館や料亭を思わせる風流な佇まいだった。

 「こんにち――」

 最後までいい終わらないうちに入口の引き戸がバシッと開き、頭をソフトモヒカンにした大男がヌッと姿を見せた。

 ぎょろりと鋭い眼光を放つ大きな瞳と、立派な鼻。精悍で彫りの深い面構えと、筋骨隆々たる〓しい体つきは、一見、格闘技の選手のようだが、墨色の法衣に身を包んでいるからこのお寺のお坊さんなのだろう。大柄で、日本人離れしたルックスのせいか、地味な法衣も舞台衣装みたいに着映えして見える。

 「はじめまして。近くに住む小日向花と申します」

 ぺこりとお辞儀をする花に、「いらっしゃい!」とよく響く声が降ってきた。

 「びしょ濡れではないですか。風邪をひいたら大変だ。さあ、中へお入りください」

 「大丈夫です」と花が遠慮しても、マッチョのお坊さんは奥に向かって、「大至急、タオルを頼みます!」と呼びかけた。

 迫力ある外見に似合わず、細かいところに目が届き、サービス精神に溢れている。見かけだけでなく、人柄も何だかかっこいいお坊さんだ。

 「大きいバスタオルがいいですね!」

 お坊さんが再度声を上げると、打てば響くで、奥のほうから「ハーイ」と品のいい女性の声がした。

 「来る早々、心配をおかけしてすみません。このお寺のご住職様でいらっしゃいますか」

 「左様。当山第十九代住職の塩村一生と申します。名前の『一生』は、キミを一生大切にするよ、の一生です。どうです、もう覚えたでしょ」

 住職は「ふっ」と微笑むと、おもむろに合掌した。

 「小日向さんとおっしゃいましたね。お若いから学生さんかな?」

 「はい、山手女学院大学の二年生です」

 「ほう、ヤマジョの学生さん」

 意外だな、といいたげな顔で住職は花の全身を眺めている。

 着ているものは安物のパーカとデニム。その上、全身ずぶ濡れの花は、どこをどう見てもみすぼらしく、お嬢様学校で有名なヤマジョの学生にはとても見えなかったのかもしれない。

 「当山へは、どのようなご用件で?」

 「ご住職にご相談したいことがあって伺いました」

 「それはそれは。いかがされましたか」

 花は一礼してから、打ち明けた。

 「その……どうもよくない霊に祟られているらしく、怖い出来事がつづいて困っています。ご住職様、どうか助けてください。お願いします」

 「なるほど。悪霊、ですか」

 顎を摩る住職の表情は、真剣に考え事をしているようにも見えれば、「チェッ、面倒くせえなあ」と舌打ちしたいのを堪えている風でもあった。

 「せっかくお越しくださったのに、申し訳ない。生憎、小生は檀家さんのお宅へ枕経を上げに向かうところでして」

 がっくりとうなだれる花に、住職はつづけた。

 「安心なさい。今、適任者を呼びましょう。悪霊退治は、彼の専門分野です」

 住職が法衣の袂から携帯電話を取り出し、慣れた手つきで操作するのを、花はじっと見つめる。

 「……あー、もしもーし? キミに一生寂しい思いはさせないよ~、の一生です」

 どうやら先方の電話は留守番電話になっているらしい。メッセージを吹き込む住職の声が響く。

 「ご相談者がお待ちですので、至急、当山へ来られたし。コスチュームはいつものアレでヨロシク。以上」

 コスチュームはいつものアレで……とは、いったいどういうことだろう?

 花が首を傾げていると、携帯電話を袂にしまう住職と目が合った。

 「正確な時間がわからなくてすみませんが、ジョーは必ずやってきますからご心配には及びませんよ」

 「ジョーさん……」

 住職の口から飛び出た名前に、花は当惑して目を泳がせた。外国人だろうか? だが、それにしてもさっぱり話が読めない。

 「あ、これは失礼。ジョーというのはニックネームです」

 眼光鋭い住職が、一転してにこっと人懐こい笑みを浮かべた。その表情から、「ジョー」という人に対する深い親愛の情が見て取れた。

 「彼の名はグンジョー。絵具や色鉛筆の中にある群青色をご存じでしょう? あの色と同じ『群青』です。ジョーなら、小日向さんの悩みもきっと解決してくれますよ」

 「お坊さんですか?」

 「いえ、僧侶とは違います。霊媒師です」

 「霊媒師……?」

 花は急に心配になってきた。霊能力を売りにするペテン師や祈祷師を名乗る詐欺師によるトラブルや事件が後を絶たない。その点、地元の人々から愛されている歴史あるお寺の住職なら安心して相談できるのではないか。そう考えて兆徳寺へやってきたのだが、妙な展開になってきた。

 「降霊術という言葉は、聞いたことがあるでしょう?」

 花は無言でうなずいた。子供の頃に観たホラー映画に降霊会のシーンがあったのを覚えている。

 「降霊術とは、自らの身体に霊体を憑依させる特殊技術のことです。霊体を憑依させる、つまり媒体となる役目を果たすことから、降霊術を執り行う者は、昔から霊媒師と呼ばれてきた。別名『口寄せ』ともいいます」

 「口寄せ……ですか」

 「もっとも、本人は自分のことを心霊コンサルタントといっておりますがね」

 「コ、コンサル……」

 そう洩らしたきり、花は言葉を失う。

 最近は猫も杓子も「コンサルタント」を名乗り、とくに東京ではそうしたワケのわからない職業の人たちが蠢いている印象を受ける。さらに、そこに「心霊」が付くと怪しさ満点だ。

 花の硬い表情から心の動きを読み取ったのか、住職が説法をするような口調で静かに語りかけてきた。

 「彼には、我々常人の理解を超えた特殊な能力が備わっておりましてね。ジョーの手にかかれば、降ろせない霊はいない。どんな霊でも必ず降ろしてくれますから非常に愉快、もとい、非常に勉強になりますよ」

 ますます怪しい気がして、花はそろりと半歩後退った。

 よくない霊に祟られているらしいので助けてください、と自ら駆け込んできておいてこんなことをいったら罰が当たりそうだが、お経を上げて霊を成仏させてくれればいいのだ。死んだ人の霊と話をしたり、幽霊が見たくて相談にやってきたわけではない。それに、心霊コンサルタントに相談に乗ってもらったら、法外な料金を請求されそうで、花にはそちらのほうが幽霊よりもずっと恐ろしい。

 群青は得意の降霊術でこれまで数多くの怪奇現象や不思議な事件を解決してきた実績がある、という住職の説明に、花はため息をついた。

 食堂のおばさんに教えられ、とるものもとりあえずお寺にやってきたけれど、すっかり怖じ気づいていた。

 「立派な先生を紹介してくださるのはとてもありがたいのですが、私、何ていいますか、その――」

 花は耳たぶまで真っ赤になって口ごもった。

 しかし、あとでトラブルになってもいけないので、正直に打ち明けることにした。

 「あまりお金の持ち合わせがありません。コンサルタント料って、どのくらいと思っていれば良いのでしょうか」

 住職がお経を上げて霊を成仏させてくれたときのお礼として、五千円を包んできてあった。苦学生の花にとって、なけなしの大金だ。これ以上は一銭も出せない。

 「心配ご無用。ジョーはボランティア活動の一環として、お悩みを抱えた人々の相談に乗っています」

 「……ってことは、無料なんですね」

 「その通り」

 一生住職は片目を閉じた。数珠のかわりに拳銃を持たせたら、映画007シリーズのジェームズ・ボンドみたいに見えるかもしれない。それくらい、風貌も仕草も絵になる人だった。

 心霊コンサルタントなる職業には依然、如何わしさを感じる花も、無料ならば肩の力を抜き、気軽な感覚で試してみてもいいんじゃないか、と考え直した。会ってみて胡散臭そうな人物だったら、適当な口実を作りバックレればいい。

 「ご住職様、ありがとうございます」

 花がお礼をいった直後のことだ。

 「どうぞこれで身体をお拭きくださいな」

 奥から品のよい女性がバスタオルを運んできてくれた。聞けば、一生住職の母君様だという。

 「では、小生はこれで。またお会いしましょう!」

 住職が黒い法衣の上にマントのような雨合羽を羽織って出て行ったあと、花は母君様に奥の八畳間へ案内された。

 中央に大きな座卓があり、両側に座布団が敷いてある。

 「ジョー君が到着するまで、どうぞこちらでお待ちください」

 「ありがとうございます!」

 リュックから取り出した教科書とノートを座卓に広げ、予習の時間に充てていたので少しも退屈はしなかった。

 やがて、入口のほうから男性の声がした。

 「ごめんください」

 先生が到着したらしい。腕時計を見ると、一時間以上が経過していた。

 「ジョー君、いらっしゃい」

 母君様の声と、廊下を歩くスリッパの音とが、花のいる和室に向かってだんだんと近づいてくる。

 心霊コンサルタントの先生に相談に乗ってもらうだなんて、生まれて初めての経験だ。歯科医院の待合室で順番を待つとき以上に緊張する。
 

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入江夏野

東京都生まれ。会社員生活を経てジュニア小説家となる。1996年、別名義で某ミステリ新人賞を受賞。本作は入江夏野名義での初作品。

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