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  4. なぜ『ギャングース』は奇跡の漫画なのか?

 7万部を超えるベストセラーになっただけでなく、「新書大賞2015」でも堂々の5位にランクイン。平成日本の最底辺に初めて光を当てた衝撃のルポルタージュとして大きな話題を呼んでいる『最貧困女子』(幻冬舎新書)。その著者であるルポライターの鈴木大介さんは、『モーニング』(講談社)で連載中の人気漫画『ギャングース』のストーリー共同制作もなさっています。
『ギャングース』担当の関根永渚至(せきね・えなじ)さんは、日本で一番鈴木さんと一緒にいる時間が長い編集者であり、また、他社本でありながら『最貧困女子』を『モーニング』誌上や単行本『ギャングース』でも宣伝してくださるという、『最貧困女子』の最強応援団でもあります。
 そこで、関根さんにご登場いただき、漫画はどんなふうに作っているのか、鈴木大介さんとは一体どんな人なのかなど、お話をお聞きしました(全4回)。
               ――聞き手・小木田順子(幻冬舎新書編集者)、構成・長山清子(ライター)

◆すべてはルポ『家のない少年たち』との出会いから始まった

――関根さんが講談社に入社したのはいつですか。

関根 2006年です。最初の1年間は少女漫画雑誌の『別冊フレンド』編集部でした。少女漫画は常に恋愛を扱わなければいけない。これが苦手でした。案の定、全然使いものにならなくて、すぐクビになりました(笑)。次に『週刊現代』編集部に3年、そのあと『モーニング』です。

――『モーニング』に来られて何年目ですか。

関根 5年目ですね。

――もともとコミック志望で講談社に入られたんですか。

関根 志望の一つでした。私は理系出身なのですが、大学時代、映画監督の押井守さんの影響を受けて、フィクションを作るということに興味を持ったんです。押井さんの映画って、代表作の『攻殻機動隊』もそうですが、現実とバーチャルな世界の違いは人間にはわからないんだというテーマが、一貫して根底にあるように思います。つまり、現実というのも人間の限定的な認識力からすればフィクションの世界と変わらない、と言えるわけで、逆に言えばフィクションの世界の構築を極めれば現実に近づくのではないか。フィクションを作るということは、現実を把握するための最大の手段なんですよね。それが非常におもしろくて、フィクションを作る現場に携わりたいと思うようになりました。

――それで漫画の編集者を志したんですね。もともと漫画はお好きだったんですか?

関根 マニアというほどではありませんが、人並みには好きでした。漫画のアイデアの奇抜さや発想の柔軟さって、けっこう理系の世界に通じるものがありますから。

――漫画って文系の最たるものかと思っていましたが。

関根 文系の方はそう言われるんですけど、理系もほとんど、みんな漫画を読んでますよ。純粋におもしろいからだと思いますが、漫画の「必要最小限の絵や言葉で、物事の本質を表現していく」というあり方が、理系の思想や考え方に近く、問題に対してのブレイクスルーのしかた、アイディアで突破していくプロセスなどもかなり近いものがあるのではないかと感じます。

――だとしても、仕事として漫画の編集者を志すって、異色といえば異色ですよね。

関根 心ない人からは「道を間違えたんじゃないか」とも言われることもありますが(笑)、きわめて価値のある仕事だと感謝しながらやらせていただいています。

――関根さんがご担当の『ギャングース』とはどんな漫画か、ご説明いただけますでしょうか。

関根 『ギャングース』は『家のない少年たち』(太田出版)という鈴木大介さんのルポルタージュを原案にしています。日本にもずっと、住む家のないストリートチルドレンがいる。親に捨てられたり、実の親でなかったりして、虐待されて家を飛び出す。あるいは母親は一緒にいるけれど、つきあう相手が変わるたびに違う大人の男性が家のなかに入ってきて、なかなか家に居つけない。そういう出自の子どもたちが、ほとんど教育も受けず、住む家も大人の庇護もないなかで、どうやって自分たちだけで生き抜いているかを描いたノンフィクションです。それを読んで極めて衝撃と感銘を受けまして、漫画化できないかと思った。それが『ギャングース』です。

 具体的に言いますと、少年院で相部屋になった4人組がいる。みな親に恵まれなかった少年たちです。彼らは、相部屋になった瞬間に殴り合いのケンカを始める。殴り合うんだけど、彼らにとっては、それが初めて人と正面からコミュニケーションをとった、心を通わせた経験だったんです。それで、殴り合ってからは仲良くなって、少年院を出たら4人で生きていこうと決めた。

 だが世間に出たら、当面を生きていくにもお金が必要ですよね。でも手を差し伸べてくれるような身寄りもない。そこで彼らは、奪っても警察に被害届が出せないような、後ろ暗いことをして儲けている犯罪者の収益金を奪おうという計画を立てた。窃盗や強盗を指す隠語を「タタキ」と言うのですが、『ギャングース』は、そういう「タタキ」で生計を立てている少年たちを描いた作品です。漫画では主人公を3人組にしたのですが、ストーリーは実際にあった犯罪をもとにしていますから、「タタキ」の手口などが、ものすごくリアルに描かれています。

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『ギャングース』担当編集者が語る、ルポライター・鈴木大介の仕事

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関根永渚至

2006年講談社入社。『別冊フレンド』『週刊現代』を経て、現在『モーニング』編集部。
担当作品は……
■肥谷圭介×鈴木大介『ギャングース』(単行本1~7巻好評発売中)
■島田荘司×原点火『ミタライ――探偵御手洗潔の事件記録――』(単行本1~3巻好評発売中)
■カレー沢薫『クレムリン』(単行本1~7巻好評発売中)/『バイトのコーメイくん』(単行本1~2巻好評発売中)/『負ける技術』(モーニング公式サイトの伝説のWeb連載エッセイを書籍化)/『やわらかい。課長 起田総司』(単行本1巻好評発売中)/『人生の病理相談』Dモーニングにて好評連載中

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