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「埼玉」からみえる地方と消費のゆくえ

2015.03.19 公開 ポスト

後編

ダサいものが勝つ時代をどう受け止めるか中沢明子/速水健朗

自分の身の丈にあった“ちょうどいい買い物”をするのは難しいものです。中沢明子さんの著書『埼玉化する日本』(イースト・プレス)をめぐる対談前編は、『都市と消費とディズニーの夢』の著書もある速水健朗さんと「マス消費」「高感度消費」をキーワードに話題が広がりました。どちらかを選ぶのではない、両方を享受できる場はあるのでしょうか?

買い物好きが書く「消費論」があってもいい

速水 ほとんどの人たちは基本的に、都市に関するイメージの悪さが60年前のレベルから変わっていなくて、それはたぶん都市の広報活動がうまくいってないからなんですよ。今ってどんどん集積に向かっているので、本当は都市生活をみんな便利だと思っているんだけど、なんとなく都市化は悪だっていう感じ、後ろめたさもあるみたいな。

中沢 私としては、そういうハイコンテクストな、高感度で、常に時代の最先端の中に身を置くような中にずっと居続けるライフスタイルの疲れもあるんです。

速水 それにも疑問があって、ぜったい地方とか郊外に住んだほうが疲れる。都市だと少なくとも生活の単位って個人ですけど、地方だとすべてが地域の関係性にまみれますよ。人間関係が密であれば密であるほど、疲れるに決まっているじゃないですか。

中沢 ただ、埼玉はまったく密じゃないわけよ。それもちょうどいいわけ(笑)。

速水 逆に、僕はその環境ってさびしくなると思うんですよね。都会って、孤独だけど近距離に他人がいるわけですよ。僕ひとりで飲みに行くことが多いんですね。部屋で孤独は嫌だけど、常連がいる店も嫌みたいな。それって、僕が都市じゃなきゃだめだっていうことの象徴的な感じなんだけど。

中沢 それはそれで面倒くさいなあ(笑)。

速水 ひとりで家でサッカー観るよりは、誰か知らない人たちとカウンターで並んでサッカーを観たいみたいな距離感ですよ。都市のコミュニティって、そのくらいの距離感でいいと思うんですよ。お互い、家がどこかも知らない。たまに会話をしなくもないくらいとか。例えば、うちの両親は金沢の郊外に住んでいるんだけど、雪降るときに、東京の妹のところに子どもの面倒を見に来たりするんですよ。で、3日も家を空けとくと、雪かきしてないから雪が積もって、周囲の人が心配するんですよ。

中沢 家にいないことが分かるのね。

速水 凍死しているんじゃないかと思って、通報されちゃう。で、東京行く度に、「ちょっと2、3日空けますから」って、手ぶらなわけにはいかないからデパートでお土産を買ったりしている。超面倒くさいんですよ。

中沢 なかなか面倒くさいですね、うんうん(笑)。

速水 あんまり密とはいえないコミュニケーションだけど、でも郊外ではそういう状況は起こっている。一方都会で起こっていることというのは、みんな隣の人を知らないような空間だけど、ちょっと一歩出て、タクシーでワンメーターのところに行きつけのバーがあったりする。僕、本当にそこの都市型生活が一番疲れないと思っているんです。

中沢 なるほど。それもよく分かるんですが、この中でも狙いの一つというか、高感度消費に興味のある人たちというのが、けっこうな割合で、地域を盛り上げるとか、地域の文化を守りたいとかいう意識も高いわけですよ。商店街が滅びていくことに我慢ならない意識の高い人たちは、モールでは買わない。そういった人たちがけっこういると。で、そういう人たちが集まることによって、買い物する場所を商店街やせめて中心地の円環の中で作っていってもらわないと、本当に商店街がなくなってしまうという危機感があります。そういう人たちの頑張りにちょっと期待したいっていうのがあるんですよね。

速水 それも僕とたぶん立場が逆です。その担い手が商店街だというのは、ちょっとウソだなと思ったんですよ。意識高い消費者がいます、地元のために何かやりますっていうときに、ショッピングモールと商店街が地元にありました、どっちが話を聞いてくれますかと言ったら、ショッピングモールの方じゃないですか。僕が知っている限り、デベロッパーがいま一番関心を払っているのは、地域コミュニティとの対話ですよ。

中沢 でもさ、「私、テレビ観ないです」「テレビなんて家にないです」と言う人たちって、モールにあまり行かないでしょう? そういう人は「フード左翼」とも近いというか、ほとんどニアリーイコールだと思うんですよ。

速水 『埼玉化する日本』と僕の『都市と消費とディズニーの夢』の一番の違いは、ショッピングモールを利用している層の定義かもしれないです。僕はどっちかと言うと、中間層がショッピングモールの利用者だと思っていて、中沢さんはたぶんミドルクラスよりも下の人たちが使っていると思っている。

中沢 うーん。私はあらゆる階層がモール文化の利用者、担い手になっていると思っていますよ。ただ、イケてるショッピングモールとイケてないショッピングモールがある、と書いています。モールの中にも感度を特上、上、中、下と付けたいテナント構成のレベルがあって、どのモールを使っているかについては、やはり階層が関わってくるでしょうね。だから、そんなにはっきり書けないところですが。

速水 三浦展さんの『ファスト風土化する日本』は、「ショッピングモール=下流社会」という定義から始まっている本で……。

中沢 うん、そこは間違いですよね。十年以上前の本だから仕方ないけど。

速水 三浦さんはショッピングモールに「長崎屋」などのGMS(総合スーパー)を含めながら書いているんですけど、僕の思うショッピングモールは、むしろ三浦さんが直接たずさわってきたようなパルコとかに近いものなんです。本でも書きましたが世界的に見て、もっとも典型的な現代のショッピングモールって、六本木ヒルズです。

中沢 うん、そうだと思います。

速水 あとみんな、イオンを敵視しすぎている。イオンモールって、じつは2007年以降。それ以前の総合スーパーのジャスコとは別モノです。そもそも元は、ダイヤモンドシティですし、イオンモールって、モールの中でもそこそこアッパーな消費環境のはず。ちなみに、今のアフリカ、東南アジアで発展しているショッピングモールって、明らかにいわゆる富裕層のための場所ですしね。

中沢 そうです、高級ですね。

速水 そういう流れを汲んでいるショッピングモールという形態が、日本でだけ下流社会と結び付けられているという問題がまずある。だから社会学者の人とショッピングモールの話をしても、まず話が食い違う。

中沢 それ、私がショッピングモールの話をなぜ書いておきたかったかという理由の一つが、社会学者が書くのはいいとして、先生たち、ぜったい買い物好きじゃないでしょ?というのがあったからです。それゆえ、モールの「中身」についての考察がほとんどなかったと思います。だから、買い物好きから見たモール論があったっていいじゃないか、と。

速水 たぶんね、あの人たち一回もショッピングモール行ったことがないんですよ。

中沢 思想家の東浩紀さんは、ちゃんとよくショッピングモールに行ってらっしゃるけど、クロックスについて書くでしょう? 私は東さんにクロックス以外のことも書いてほしいんです。

速水 東さんは、世界のショッピングモールに共通するグローバルなブランドの象徴としてクロックスをあげていますね。ハワイでもデリーでもラスベガスでも、世界の観光都市にいるアッパーミドルが、皆高級品ではなく、クロックスを身につけているということが現代的な現象であると指摘しているんです。僕はそれに加えて、ボディショップが重要な気がする。ボディショップってフード左翼的な、エシカル消費(※環境や社会に配慮した工程・流通で製造された商品を選択し、そうでないものを選択しない)や自然志向のはしりであることをアピールしていますよね。それと世界中のモールにグローバルに出店していることが矛盾しないというところがある。

中沢 そうそう、厳密にいえば、エシカルじゃないはずですけどね。

速水 スターバックスと同じですよね。それを利用しているマーケティング的な。そういう自然、エコとか、ソトコト的なもの、クウネル的なものを消費する人たちが世界的に増えていて、ショッピングモールは、特に途上国では、そういう人たち向けの消費の施設として機能している。

中沢 速水さんとはこうして、ボディショップってエシカル消費マーケティングの一番の成功例で、だけど本当にエシカルなの?ぐらいの話までできるんですが、他のモールの話をされている先生たちとはできないなあって思うんです。
 初めて速水さんとお会いしたのは、モールに関するシンポジウムでご挨拶したんですよね。そのとき私と一緒に行った人に「なぜモールの話をしてるのに、女の人がいないの?」って訊ねたら、「女の人の意見は誰も聞きたくないからじゃない?」って言われて。でも、「なぜ買い物しそうもない人たちがモールの話をしてるの?」と、ずーっと思っていたんです。なので今回は、六本木ヒルズからイオンレイクタウンまで、実際に消費者として買い物している人間として書いておきたかったんです。それは、「なぜ男の人ばかりが消費やモールについて喋っているの?」という批判も多少込めています。

速水 なるほどね。男は「消費社会」は偽物だと思っているんですよ。多分、GAPとロンハーマンは見た目的に違いがわからないって言うのは、男の言い分の典型なんです。女性はむしろ、そんなの違うに決まっているじゃないって言うと思うんですね。「消費社会」は、日常の中にある当たり前の光景だから。そこは、もっと対決姿勢を打ち出していくべきだと思う。敵にしないような配慮が、すごくあるなあと思って。

中沢 あれ? 大勢を敵に回しましたね、ってよく言われるんだけど(笑)。

速水 けど敵に回すのも大事ですよ。そこでわかることは多いです。僕は、『都市と消費とディズニーの夢』を書いたことで、ショッピングモール業界の味方になった(笑)。そこで見せてくれるようになった業界の中身ってたくさんあります。あと商店街との関係についても、本音を見せてくれたり。あと『ラーメンと愛国』はもっとすごくて、僕、大手ラーメン店のグループから取材禁止を受けたんです。それ、すごいでしょ?

中沢 えええっ! 埼玉出入り禁止になるのかなあ、私、住んでいるのに(笑)。

 

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中沢明子

1969年東京都生まれ。ライター、出版ディレクター。女性誌、ビジネス誌など幅広い媒体でインタビュー、ルポルタージュ、書評を執筆。延べ1800人以上にインタビューし、雑誌批評にも定評がある。得意分野は消費、流行、小売、音楽。著書に『埼玉化する日本』(イースト・プレス)、『遠足型消費の時代』(古市憲寿氏との共著/朝日新書)など。

速水健朗

1973年石川県生まれ。ライター、編集者。コンピュータ誌の編集を経てフリーランスに。専門分野は、メディア論、都市論、ショッピングモール研究、団地研究など。『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『都市と消費とディズニーの夢』(角川oneテーマ21)、『1995年』(ちくま新書)ほか著書多数。朝日新聞読書面「売れてる本」担当、TBSラジオ「文化系トークラジオLife」メインパーソナリティ等、多方面で活躍中。

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