1年と少し前から東京と京都で2拠点生活をしている。
京都で借りたのは祇園にほど近い築98年の小さな町屋だ。今は、1ヶ月のうち1週間弱を京都で過ごしている。
京都に家を借りたいなとぼんやり夢想しはじめたのは昨年の2月頃。関西での仕事が増えてきて、毎度のホテル代がもったいないと考えるようになったからだ。
最初は夢みがちに思っていた2拠点生活が現実味を帯びてきたのは、桜の時期に京都のアパホテルが\\\\\\1泊8万円//////になっているのを見たあとのこと。ここまできたら家を借りたほうが安いかもと、真剣に物件を探し始め、実際に4ヶ所ほどマンションを内見した。
が、どの部屋も、なんだか気持ちが動かなかった。
また次の出張の時に探すかと思って東京に帰ろうと思った矢先、大手ではない街の不動産屋のサイトでその物件を見つけ、釘付けになった。
築98年の町屋! 2年後には、100歳の誕生日をお祝いできる。そんな経験、めったにできるものじゃない。せっかく京都に住むのなら、マンションじゃなくて、こんな物件もいいんじゃないかと思った。
フルリノベされていたので、内装写真が驚くほど綺麗だったのも魅力的だったし、これまで見てきたマンションよりもお家賃が安いのもよかった。
不動産屋に電話をかけて詳しい住所を聞いた。
「まだ前の人が入居中ですので、内覧は1ヶ月後にならないとできません」と言われたが、外観だけでもと、その日のうちに家を見に行った。
路地の奥にあるその家は、Googleマップでは全然見つけられず、近くを何度もウロウロしていたら不審者に思われたのか近所の人に声をかけられた。
「なんか、探してるん?」
私がケータイで不動産屋さんのサイトを見せると、「ああ、それならうちの裏」と、おばちゃんは路地の奥の家を指差した。
「そうか。あそこの新婚さん、引越ししはるんやね」と、少し寂しそうだ。
こじんまりとした外観の古い2階建の建物。
窓は南向き。祇園が近いとは思えないくらい、静かな場所だ。
玄関先のポストにとても綺麗な文字で「ヤマトさんへ。すぐに戻りますので、置き配してくださいませ」と張り紙がされている。
道を教えてくれたおばちゃんは「あんたが次に借りる人?」と聞いてくる。「いえ、まだ、今日は物件を見にきただけです」と答えると、おばちゃんはぐいっと前のめりになった。
ここがどんなに静かで治安がよくて住みやすい場所か、ご近所さんはもうみんな何十年ものお付き合いで変な人はおらんのよと力説する。
京都人はいけずとか言うけれど、ここらへんの人は、そんなこと全然ないんよ、安心して引越しておいでと言うから笑ってしまった。
駅まで戻るタクシーの中で、不動産屋に申し込みをした。「内見する前にですか?」と聞かれたから、「はい」と答える。東京に戻ってすぐに、必要書類を送って審査をしてもらった。
数日後、不動産屋から「審査が通りました」と連絡があった。
大家さんは大阪の人だという。
私のウィキペディアを見てくれたらしく「『ホンマでっか!? TV」に出てる人なんですね。そんな人に借りてもらえるなんて嬉しいです」と話してくれたそうだ。
マッチングアプリの時には身バレの原因になったウィキペディアだが、今回はありがたや、ウィキペディア。
ホンマでっかには一度しか出演していないけれど、さんまさん、ありがとう。あなたのおかげで、家が借りられました。
1ヶ月後、前の居住者が引越したあと、中を見せてもらった。
清掃業者を入れなくても良いくらいに、部屋は綺麗に使われていた。
ポストに貼られた端正な文字を思い出す。次は、私がお世話になります。家に頭を下げて、鍵をもらえる日を待った。

さて、北海道で8ヶ所、大学の時に上京して以来東京で8ヶ所住んで、今回の京都は17ヶ所目の棲家になる。
引越し慣れはしているつもりだったのだけれど、今回ばかりは勝手が違った。
2拠点って、「家具を移動させる」のではなくて、ほぼ全部の家具を「買い揃える」なのね!
これが、非常に楽しかった。
「これまであるものをなんとか新しい家の動線に合わせて配置する」のではなく「この家に合うものを選んで買う」ことが、こんなにも楽しいことなのか。
最初に1枚、小さな絵を買った。
そして、その絵を囲むような気持ちで家具を入れる。
るんるんした気持ちで、でも予算はそんなにないので、必要最低限。広くはないのだから、絶対モノは増やさないぞと決めて。

これまでも、長期出張の時は、母親が息子を見てくれていた。
が、ホテルではなく、拠点となる家を持って、その場所で一人の時間を過ごすのはまったく別の心持ちがすることに気づいた。
振り返れば、ずっと誰かと暮らしてきたのだ。
最初は、家族と。大学時代は寮のような場所で同じ大学の先輩たちと。社会人になってからは、弟と2人暮らし。そして、結婚して夫①→再婚して夫②と2人暮らし。子どもが生まれて10年ほど3人暮らしもしたが、夫②がいなくなった(生きてます)今は、息子と2人暮らし。
これまで50年間、一度も「一人暮らし」をしないまま、この歳になっていた。
24歳で結婚してからは「自分一人のためのご飯」をつくったことがないまま、四半世紀を生きた。
キッチンがある。冷蔵庫もある。食器もある。自分のためだけのご飯を、作る。
初めての経験だ。
出張中にはオフの日も、ある。
人の気配がない部屋で一人きり本を読むなんて、いつぶりだろうか。
これは、なんだか、この先の人生のための練習のようだと感じた。
遠くない将来、息子は家を出ていくだろう。
その時、私は「一人暮らし」のほうがデフォルトになる。
私以外に食べる人がいないご飯を作るとき、私は自分を大切にできるだろうか。
私以外に住む人がいない家で過ごすとき、私はこの場所を愛せるだろうか。
そんなことを考えながら、京都での時間を過ごしている。
*
なーんて、内省ぶった文章になったが、実際の京都古民家2拠点生活は、ドタバタの連続だ。
・水道開通を忘れ、お寺のお手洗いを借りて初日をしのいだり
・「引越しのご挨拶は、お隣と表の2軒だけで大丈夫ですよ」と言われたけれど、当然、そんなことはなかったり
・いけずな人はおらんから、と言われたご近所づきあい。もちろん、そんなことはなかったり
・熱心に勧誘してくれたおばちゃんは、想像以上にアクの強い(素敵な)方だったり
・買い物に行った先で「町内会費はどうしはります?」と言われてうろたえたり
・一軒家の場合、ゴミ捨てどうすればいいんだと頭を悩ませたり
・屋根裏にいかにネズミを走らせないかについてレクチャーされたり
・お隣に飲食店がオープンし、家が揺れるほどの爆音が発生したり
・騒音対策業者さんと大家さんとすっかり飲み友達になったり
・あ、築98年は結構適当です。よくわからんくらい古いんでと言われたり
合理性だけでは進まない。でも人情だけですべて片付くわけでもない京都ライフ。
陰翳礼讃とはほど遠い、だけど全方向にライトアップされた東京とも違う京都ライフ。
思ってたんと違ったー! がてんこ盛りの2拠点生活については、次回、詳しく書きます。
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50代を迎え討つ!

美容ライター&コラムニストの佐藤友美(さとゆみ)が、きたるべき50代を、なるべく明るく楽しく最小限の痛手で迎え入れるために、尊敬する先輩や頼もしい識者の方々に話を伺いながら右往左往するコラム。










