小説『タイム・アフター・タイム』の魅力やニュースをお届けする「TAT通信」。Vol.2では編集の舞台裏をご紹介します。
吉田修一さんから全原稿を拝受したのは2025年12月8日。日経新聞の連載終了より、4カ月も前のことでした。メールには「最後の三章を一気に書き上げて」の一言が。
原稿を書いているところを見たことはないのですが、ラストへ向かって一気に物語を書き上げた吉田さんの姿が目に浮かぶようでした。
原稿を読み終えて涙腺崩壊した私は、しばらく余韻から抜け出せませんでした。様々な記憶が五感をともなって溢れ出てくるのです。そしてそれは、最初の読者となった営業部の反応も同じでした。
メンバー全員が原稿を読んで臨んだ2026年最初の会議で、こんな言葉が飛び出したのです。
「素晴らしかった。これは売らなきゃダメだ。絶対売る!」
この作品を、なんと呼ぶ?
5月末発売が決まり、校正作業、装丁打ち合わせ、そして販売戦略会議などを駆け足で進めていったのですが、その中で出てきたのが「この作品を、なんと呼ぶ?」という問いでした。
「恋愛小説です。プルーフにも、そう書きましたよ」と私。
「これだけの大作なのに、軽くないか?」と営業担当役員K。会議室の空気が固まりました。
「恋愛小説と言い切ると引く読者も多いと書店さんが心配してます」とは〝TAT拡販担当〞の任についた営業S。
「むぅ……」と唸る私。
映画には「一文で説明できる作品は強い」という考え方があります。
スティーヴン・スピルバーグは「25語以内で説明できる映画はいい映画になる」と語り、映画会社の名経営者バリー・ディラーも「映画は30秒のCMで売れ、一文で説明できるべき」と言いました。
つまり「□□□の◯◯小説!」という一言は、とても大事。
ちなみにプルーフとは、発売前に書店員さんへお渡しする簡易製本した見本のこと。仕入れや売り場づくりの参考にしていただく大切な販促ツールです。
本作のプルーフはすでに300冊配布しており、好意的な感想が届き始めた頃――つまり編集作業が大詰めに差し掛かった時期のことでした。
書店員さんに、聞いてみよう!
4月1日の夜、KとSと私は、都内某所で某書店員T氏とテーブルを囲んでいました。
「たしかに恋愛小説という言葉に飽きている読者は多いです。男性読者は手に取りづらくなるかも。それから、なぜ並製(ソフトカバー)にしたんですか? 作品が軽くなるというか、大作感が薄れる気がしますよ」
意外なところに鋭い指摘が入りました。T氏が仕掛けてベストセラーにしてきた本の90%以上がハードカバーだったとも聞いて、思わず「むむぅ……」と唸る幻冬舎の3名。
軽くしたいのは本の重量であって、作品価値ではないのです。そして店頭での佇まいは非常に重要で、それをどう作るのか――。
この夜をきっかけに並製は上製に変更しました。
その後も、多くの書店員さんとお会いしご相談しながら進めた初のマーケティング編集! 書籍を読者に届ける現場からのご意見は新鮮な驚きに満ちていて、刺激的な時間でした。
こうしてギリギリまで販売会議を重ね、帯のコピーやあらすじ、カバービジュアル、そして◯◯小説について激論を交わす日々が続いたのです。その議論の末にたどり着いた答えは……いま店頭に並んでいる書籍でお確かめください。
あなたが『タイム・アフター・タイム』を一文で表すとしたら、どんな言葉になるでしょうか。












