私は今、半年以上先の舞台作品の脚本を書いている。
半年先の作品を書き始めることは、私の感覚でいうと特段に早いわけではない。
稽古は本番の約1ヶ月前から始まるので、本当に最悪の最悪はそれまでに脱稿していれば、いろんな大人に迷惑をかけて怒られることになってしまうが何とかなる。いや、何とかいろんな大人がしてくれる。
私が人生で避けている物事ツートップは、人に怒られることとジビエ料理なので、稽古の1ヶ月前には脱稿するように心掛けている。心掛けなので、実際どうなっているのかというと、怒られかける時もある。
半年前に脚本を書き終え、まもなく本番を迎える舞台作品の稽古をしながら、同時に少し未来の上演に向けた書き物をしていると、自分が今いつのために働いているのか分からなくなる瞬間がある。
さらにこの業界のギャラの支払いは、仕事が終わってから数ヶ月後だ。
数ヶ月前に働いて得た報酬で買ったパソコンを使い、今、未来のために文字を打っているなと考え、時空の歪みに迷い込む。
どの職業でも過去に頑張った報酬を得て、未来のために今働いているのだろうが、脚本や演出の仕事は、より過去・現在・未来の流れを考えることが多いと思う。
登場人物の過去を想像して、今の葛藤を書いて、未来を創っていく。時の流れを操っている神様のような感覚になる。しかし実際は神様ではないので、過去と現在と未来の狭間で迷子になる。今この瞬間はいつの何なのだと、ボーッと、執筆中の作品には全く関係のないことを考える。
そして、今やらねばならぬ執筆が止まる…。それはもう恐ろしいほどにビタッと止まる…。
そう、この原稿はピタッと止まった私が、今何も書くことが思い浮かばないので、過去だの未来だの迷子だのと言って現実逃避をしている時間に書いている。
まずい。書かねば半年後に怒られてしまう。
しかし今、未来のために書けないのだから仕方がない。
今の私には無理だ。明日以降、未来の私が頑張ればいい。これは今の私と未来の私のなすりつけ合いだ。こういう時は未来の私は弱い。今の私が意思を押し通して決着させる。
そして私は今、順調にやれていることを考える。
私が今稽古をしている「偽たモノ」は8年前から宮下貴浩という役者とプロデュースをしている団体の舞台作品だ。私たち二人のことを“宮オム”なんて略称で呼んでいただけるようにもなってとても嬉しい。
都度その時に関わってくれた役者陣やスタッフ、事務所関係者、そして観劇していただいたお客様方、多くの人たちとの過去が今の現状をつくっているのだと、宮下さんの芝居を見ていて改めて思った。
そして関わってくれている人たちと、より良い未来に辿り着くために、今できることに精一杯向き合わないといけないとも思った。
あれ…。ということは、今目の前にある執筆から逃げてはいけない…。
不覚だ。昔を思い出して過去に感謝しながら、今まったりとした時間を過ごそうと思っていたのに、未来の自分になすりつけてはいけないと気づいてしまった。
仕方ない。書けるか分からないが、今、向き合ってみることにする。さようなら……。
私は演劇に沼っているの記事をもっと読む
私は演劇に沼っている

脚本家、演出家として活動中の私オム(わたしおむ)。昨年末に行われた「演劇ドラフトグランプリ2023」では、脚本・演出を担当した「こいの壕」が優勝し、いま注目を集めている演劇人の一人である。
21歳で大阪から上京し、ふとしたきっかけで足を踏み入れた演劇の世界にどっぷりハマってしまった私オムが、執筆と舞台稽古漬けの日々を綴る新連載スタート!
- バックナンバー
-
- 時空に迷い込んだ脚本家の言い訳
- 明け方にしか眠れない私、ゴルフを始める
- 悪気ない歯並びディスから始まった禁煙問題
- 呑みの場に誘われない理由を、優しさのせい...
- 先輩が買ってくれた、おかしいくらい縁起の...
- 「黙って見てろ」が最高の褒め言葉
- 過去共有し、今を共に生きる仲間と、未来を...
- 新鮮な舞台作品と稽古場。おじさんは若者か...
- ゴルチエに「国宝」にプロレス…エンタメを...
- トラウマを書くか否か、ひたすら悩む今年の...
- 脚本の締切に追われる私の逃避方法
- 自分の居場所を肯定できた時、人は幸せを感...
- 久しぶりの外出。舞台仲間との酒の席で自分...
- 愛犬との新しい生活。私の携帯の写真フォル...
- 青春の次は何時代?「青」の次を色で教えて...
- 銀杏BOYZ「漂流教室」を聴きながら、友...
- 「神様的な事柄」と私のちょうどいい距離感
- ドラマ「0.5D」が放送開始。人の手が加...
- 35歳の独身男、犬を飼いたい欲が爆発中
- 出演者との距離感とリスペクト
- もっと見る









