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ジェンダー・ジャスティス

2026.04.13 公開 ポスト

男性に許される涙は「男泣き」だけ?弱さの否定が引き起こす心の問題…ハーバード大学精神科医の提言内田舞

男女間の不正義は、どこから生まれるのでしょうか? 3月25日に発売されたハーバード大学医師、内田舞氏による『ジェンダー・ジャスティス 社会の無意識が生み出す性と権力の構造』は、社会に潜む偏見、差別のメカニズムをあぶりだします。「第三章 なぜ悪意なく『加害者』が生まれるのか」は、「男らしさ」をめぐる問題。一部をご紹介します。

どのような男らしさが、誰を傷つけているのか

「男なら泣くな」「男ならそれくらいできて当然」「男は強くあらねばならない」「男はマッチョでなければならない」「男は一家の大黒柱にならなければ」「男は出世して成功しなければならない」「男は権力を持たねばならない」……。

一つひとつは何気ないフレーズかもしれませんが、幼い頃から繰り返し同じような言葉をかけられ、「男はこうでなくてはならない」という固定観念を植え付けられていきます。それは子どもたちの可能性を狭めるだけでなく、心理的に傷つけている場合もあるのです。それを〝有害な男らしさ(Toxic Masculinity)〞と呼びます。

この有害な男らしさは有害と認識されることなく、むしろこの男らしさを体現することが価値のあることとして文化の中に埋め込まれてしまっています。ですので、そのようなものを「求めさせられている」ことに気づかないうちにレールに乗ってしまっている男性も多いことでしょう。実際には、このような男らしさとはまったく違う生き方をしたほうがずっと幸せに生きられる男性はたくさんいるはずなのに。

日本の自殺率は世界的にもかなり高いほうですが、特に中年男性の突出した高さが統計に表れています。心の健康を害して精神科やカウンセリングに通っている人は女性のほうがずっと多い。しかし、自殺という最悪の事態になってしまうのは、中年男性が多い。その理由はこの有害な男らしさにあると感じています。

大黒柱は一本より二本あったほうが家は倒れにくくなるのに、男性は「一本の柱で支えなければならない」というプレッシャーを背負わされ、そのプレッシャーからは逃げられません。逃げれば「男らしくない」と責められる。さらに、悲しみや不安といった「弱い」というレッテルを貼られてしまう感情は、本来、人間であれば誰もが感じるものであるにもかかわらず、男性は「感じてはいけないもの」と思わされ、その感情に向き合うことすらできません。

誰かに助けを求めることは「男らしくない」と思い込み、心の健康を害してしまったときでもカウンセリングなどの精神的な助けを求めることもできない。休んで立ち止まることすら男性として美しくないとされます。

さらに、男性は涙を流すことも許されない。唯一許される「男泣き」は、一生懸命努力した末に勝ち取った誇りとともに泣くか、あるいは努力した末に敗れて悔しくて流す美しい涙でなければならないと限定されている……。
 
「弱さを見せるな」「感情をコントロールせよ」というメッセージを強く受け取りながら育った結果、他者の痛みや不快感に対して鈍感になり、同意や境界線を認識する力が低下することもあります。さらには自分自身のつらい思いを無視し、悲しさや不安を怒りや他者への支配で解消しようとする傾向もあるのです。この現象は性加害につながることもあれば、また男性が性加害を受けた場合にはそれを誰かに打ち明けることを困難にします。

ここで強調したいのは、男性性そのものを否定するのではなく、「どのような男らしさが、誰を傷つけているのか」を問い直すことの重要性です。

私たちは「強くあれ」「黙って耐えろ」「勝て」といった声に支配されるのではなく、他者とつながり、共感し、相手の意思を尊重する力を、男女問わず育てていく必要があります。有害な男らしさの構造を理解することは、性加害を減らすための根本的な一歩なのです。

関連書籍

内田舞『ジェンダー・ジャスティス 社会の無意識が生み出す性と権力の構造』

近年、次々と発覚する性加害事件。それらは、特別な人間による例外的な出来事なのだろうか。ジェンダー=男女の不均衡がいまだ根深い日本社会では、事件が起きると、女性の振る舞いを問題視する声さえある。しかしそこに深く関わるのは、加害者の悪意・無自覚だけではなく、社会に埋め込まれた偏見、メディアが再生産する固定観念、声を上げない組織文化だ。個人を断罪しても不正義は正されない。小児精神科医が自身の経験と心と脳のメカニズムから問題の構造を解き明かす。社会の見方と自らの意識を更新する一冊。

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ジェンダー・ジャスティス

2026年3月25日発売『ジェンダー・ジャスティス 社会の無意識が生み出す性と権力の構造』(内田舞著)について

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内田舞

小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長、3児の母。2007年北海道大学医学部卒業、2011年イェール大学精神科研修修了、2013年ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。
日本の医学部在学中に、米国医師国家試験に合格、研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。
著書に『まいにちメンタル危機の処方箋』(大和書房)、『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』(文春新書)、『REAPPRAISAL(リアプレイザル)』(実業之日本社)、『小児精神科医で3児の母が伝える子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと』(日経BP)、共著に『うつを生きる 精神科医と患者の対話』(文春新書)、『仕事をしながら母になる 「ひとりじゃないよ」心がラクになる思考のヒント』(KADOKAWA)などがある。

 

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