私の人生において誇れるものはあまりないのだけど、唯一誇れるものがあるとすれば、良き友を持ったことである。
高校の同級生の彼らは今年も、東京からはるばる新潟までキャンプをしに来てくれた。
来年も三人で集まってキャンプでもしたいよねと語ったのは、去年の夏だった。
友人のひとりである、おみずは誰もがうらやむ人生を送っている。
安定した大きな会社に勤め、幸せな家庭を築いている。人生安泰、この四文字は彼のために用意された言葉なのではないか。
私もおみずみたいな人生を歩みたかった、そう思う。
そして、もうひとりの友人である、田中は我が道を進む。
地に足をつけて働き、趣味も謳歌し、人生をたのしんでいる。好きなものがたくさんあり、それを追求する探究心にあふれ、彼の目からみる世界は色とりどりに輝いているのだろう。
私もモノトーンではない世界を見てみたかった。
日が落ち、肌寒くなってきた秋の夜。
タープの下で、田中が披露してくれたチヂミとサムギョプサルを箸でつつく。
田中の韓国料理を堪能していると、「数年前から会話の内容が変わったよね」と、おみず。
ふと俯瞰したようなことを言ったりするのがおみずである。「三十代って、結婚とか、転職とか、出産とか、人生を左右するような決断を切に迫られるよな」。
なるほど。実際に人生における大きな決断をしてきたおみずが発する、その言葉は重みが違う。
田中も結婚とか転職とか抽象的で正解のない問いに立ち向かい、その結果として今の人生を歩み、たのしんでいる。
かたや私は、なにも決めずに結婚はしたいし、でも夢も追いたいし、でもお金も稼がないとだし、うーうーうーと理想と現実の折り合いをつけられずに逃げ続けている。
その苦難を見抜いたのか、おみずが口を開く。
「俺の状況とか遠慮しないでさ、いつでも連絡してよ、なんでも話聞くからさ」。こんなことをさらっと言えてしまう友を持てたことに感謝である。その傍らで、田中は黙々とサムギョプサルをほおばっている。
お腹がふくれてきた頃、「そういえば、去年は食べ切れないほど肉を買って後悔したよね」「そうだった、そうだった」「もう高校生じゃないんだよな」と、去年のキャンプを思い出して、がははと大笑いする。
夜が濃くなり、いっそう月明かりが煌々としてきた時分、おのおのが就寝するテントへと入っていく。
来年も今回のキャンプでの出来事を話すのだろうか。そうして毎年毎年、思い出を重ねていけたらいいな。
たしかに私は理想の仕事も、幸せな家庭も、情熱をそそげる趣味も持っていない。
けれど、友と笑い合ったキャンプの思い出だけは持っている。
世の言う三十代が抱えるさまざまな問題によって、いつおみずと田中とキャンプへ行けなくなってもおかしくない。今年もキャンプへ行けたこと自体が奇跡なのかもしれない。
シュラフの中でふたりの耳には届かない声で、小さく「ありがとう」と呟く。
どうか来年もふたりとキャンプへ行けますように。
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