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彼方からの手紙

2026.03.28 公開 ポスト

知能高き好奇心な生物よ清水ミチコ/光浦靖子

ああ、あのイルカの件ですか。つーか、水の中ってそんなに聞こえるんですね。私的にはスノーケルを咥えた状態で「くうぇ、くうぇ、くうぇ(イルカさんたち、こっちに来てちょうだい)」と、独り言を、祈りを呟いていただけなんですがね。

「野生のイルカと泳げる」こんな素敵な文言に誘われて参加したツアーですよね。確か1月で、曇り空でしたよね。いくらハワイとはいえ、天気の悪い1月の海水は冷たく、冷え性の私の唇はすぐに紫色に、水中でも上がった後でもずっとガタガタしておりました。ガイドに「水、冷たいね」と言うと、「は? 何いってんの? あったかいでしょ」とまともに受け取ってもらえなかったのを覚えています。

 

ここカナダに来て知るのですが、日本人、というかアジア人は他の人たちに比べ寒暖差に弱いです。つーか、アジア人以外が強すぎます。特に寒さ。日本人は夏の滝に打たれることだって「滝行」と呼び、苦行の一つとして捉えてますが、こっちでは夏場、雪解け水が流れ込む、足が30秒で痛くなる冷たい川や滝で、何の躊躇もなく、何時間も浸かって遊んでますからね。だからガイドにとっては本当にあったかいんでしょう。

あ、話をイルカツアーに戻します。そもそも野生のイルカがどのような大きさで、どのくらい近くを泳ぐのか全く知らされず、「飛び込め! 今だー!!」と冷たい海にボートから放り出されたのですが、ガイドが「あそこだー!!」と水中を指差すのですが、他の客たちが何か歓声めいたものをあげているのですが、私にはさっぱりわかりませんでした。私の視力が悪いからか? 指示語に対して嫌悪感すら持ってるほどの方向音痴だからか? 何にも見えませんでした。
 
このツアーに「行こうよ!」と言い出したのは私でしたが、大人数の海ツアーは嫌いです。残念なことにこのツアーも大人数でした。私は海が大好きで、スノーケルも、スキューバダイビングも経験は豊富なのですが、何でか知らんがいつまで経っても泳ぎが下手です。マジで、バタ足が全く進みません。フィンをつけても全くです。だから大人数のツアーだと、いつも最後になるというか、みんなに追いつけないんですね。私が追いついた頃にはもう別スポットを目指している、そんな感じです。性格上、人と争うのが死ぬほど嫌いなので、偶然いいポジションにいても人がぶつかってきたら(海ツアーに参加する人間はだいたい泳ぎが下手。そして我先にという人が多い)人に譲ります。で、またしんがりになります。

ガイドが「あっちだ」「こっちだ」「ここだ」と指さすたびに頑張って、自分なりの超高速バタ足で近づき眼を凝らすのですが、何も見えません。ただ深い紺色が海が見えるだけです。

一通り客がイルカを見たようで、「はいはい、ノルマ達成」といった顔でガイドが水中に浮かんでいました。私はガイドに近づき「私、まだイルカを見れてない」と告げると、ムッとされました。「あそこ」と指さされても何も見えません。「あそこだよ」「どこ?」「あそこ」「どこ?」そして「あそこにいるだろうが」と後頭部を掴まれ水中に顔を突っ込まれました。な、なんて失礼、ん? ・・・・あ、あれか? 思ったよりもずっとずっと下の方に、黒い細いものが5、6体、群れで泳いでいました。動きが早くしゅんと、すぐに視界から消えました。水面からは随分離れていたので小さく見えたのか、そもそも野生のイルカの体が小さいのか、イルカというよりただ地味な黒い魚みたいでした。

天気が良くない。水温が低い。ガイドが雑。ハワイ名物、常夏と癒しはどこに? ハワイまで来てこの思い出じゃ悲しすぎる。そう思って、奇跡が起きないかな、私のところにイルカがスッ、と近寄ってきてくれないかな、と祈ったのでした。イルカを見たいがために人を押し除ける他の客とは違い、絶対に人と争わない私から出ている平和の粒子を、その高き知能を持った生物は感じ取ってくれるのではないか。ナウシカと同じ髪型をした女の発する歌声に、その好奇心旺盛な生物はアンサーソングを返してくれるのではないか。それが「くうぇ、くうぇ、くうぇ」でした。イルカの声はよく知りませんよ。上品そうなオットセイの声がイルカかなぁ、と、想像で発してみました。まさか、イルカじゃなくて清水さんが食いついてきてたとは。確かに清水さん知能高いですもんね。好奇心旺盛ですもんね。あ、バカにしてないですよ。いいことですよ。好奇心旺盛はボケないんですって。


しかし、不思議です。私の声を褒めてくれるのは清水さんだけですよ。どっちかっていうと、私のこの特徴ある声を「なんかムカつく」と人は言います。でも、清水さんみたいな声のプロに、玄人に褒められると嬉しいです。あ、、、でも、玄人ウケってかっこいいですけど、「わかる人だけわかればいい」って言い切っちゃうと、少数の熱狂的なファンに支えらてなんとかバイトなしで、いや、ギリ食べてゆけない芸人の負け惜しみにもなりかねないですね。万人ウケと玄人ウケ、どの配分がかっこいいんでしょう。急に実名を出しますが、やっぱ、浅野忠信さんが一番かっこいくないですか? 清水さんは誰が一番かっこいい配分だと思います?

【靖子の近況】

古いレストランの中には古い電車があり、その中でも食事できます。YouTubeにあげてます。見てね。
それから、『ようやくカナダに行きまして』『ようやくカレッジに行きまして』(ともに文藝春秋)が発売中。オーディブルもあります。本人朗読してます。

関連書籍

清水ミチコ『カニカマ人生論』

すぐに「気負け」して泣いてしまう少女の頃の笑えて切ない思い出。永六輔さん、タモリさんはじめたくさんの大切な人たちとの巡り逢い。自分の弱さやセコさにぶち当たりながらも、日常の些細な面白みを慈しみつつ、「若い頃よりクヨクヨしなくなった」と思えるようになるまでの様々な出来事。武道館を沸かせる国民の叔母(自称)の、自伝エッセイ。

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彼方からの手紙

清水ミチコさんと光浦靖子さんが月1回手紙を送りあうリレーエッセイ

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

光浦靖子

1971年生まれ。愛知県出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。テレビやラジオで活躍する一方、手芸作家、文筆家としても活動。著書に『ようやくカレッジに行きまして』『ようやくカナダに行きまして』『50歳になりまして』『お前より私のほうが繊細だぞ!』『傷なめクラブ』など多数。2021年8月よりカナダに留学。現在は、就労ビザを取得し、カナダで生活を続けている。(写真:山崎智世)

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