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本屋の時間

2026.02.15 公開 ポスト

第185回

本を読む姿辻山良雄

中野真典=絵「無有」

先日まで店のギャラリーでは、本屋Title10周年記念展「本のある風景」を開催していた。

10名の作家に、「本のある風景」という言葉から連想する作品を描いていただく企画で、作品は本にも収録するため、昨年の初秋には既に手元にあった。だからそれ以降何度もくり返し見て、よく知っているはずだったが、展示の前日すべての作品を壁に掛け終え、ぐるり空間を見渡してみると、それらの絵がひと繋がりの作品のようにも見えてきて、新たに生まれた一つの空間としての力に思わず息をのんだ。絵も本と同じで、別の絵と並べられたときにはじめて生まれる〈響き〉があるのだ。

展示を見た人たちからも、会場全体が祝祭感に包まれていたという言葉を数多く聞いた。それは階下にいても感じたことだが、わたしが何より心打たれたのは、それぞれは別の場所で別の人によって描かれた絵であるにもかかわらず、まるで示し合わせたかのように、作中の人物が同じポーズをとっていたことだった。

アンドレ・ケルテスという写真家に、人が熱心に本や新聞などを読んでいる瞬間を捉えた『読む時間』という写真集がある。読んでいる人たちの姿勢は大抵が前かがみ。その少し前屈した格好は、彼らの興味やなりたい自分に向かって、積極的に体を傾けているようにも見える。それと同じように絵に描かれた人物たちもみな、大切なものをそっと両手で包み込むように、熱心に本を読んでいる――そうした姿に思いがけず触れ、わたしは希望のようなものを感じたのだった。

しかし一冊の本は、誰にでも開かれているという訳ではない。

荒井良二さんがつくったのは、その中にたくさんの絵が描かれた小さな手製の本を、そのままキャンバスに貼り付け、カラフルな色で塗りこめた立体作品だ。本はピンクの紐で軽く閉じられており、中を見ることはできない。荒井さんが店に作品を持って来られた際、「中は(お客さんに)見せなくてもいいよね」と言われ、その時は真意がわからぬまま了承した。しかし本とはそれを開いた人にだけ、その秘密を小さな声で語りかけてくれるメディアでもある。それを考えれば、みなが自由に開くことができない本があっても不思議ではないだろう。大切なわたしだけの本(、、、、、、、)だから、それを開くときの姿は、自然と慎ましい、ひっそりとしたものになるのだ。

一冊の本は、それを読むわたしにだけ語りかけてくるが、それを読むときの姿は、年齢や性別、居住地や思想信条の違いを超えてみな同じ。そう口にしたところで、目の前の複雑な現実が変わるわけではないが、本の仕事に携わる人間として大切にしておきたいイメージだと思った。

10周年に関しては、もう少しさらっと流した方がスマートな印象で終わったかもしれない。しかし今回は展示に限らず、アニバーサリーブックを作り、巾着を作り、バッグまで作るなど、自分でもちょっとやりすぎかなと思うくらい興行感が出てしまった。しかしそれをきっかけに、久しぶりに店まで来てくれる人も多かったから、やはり物事を長く続ける上で、節目というものは意味のあることなのだと思う。開店や閉店でなくても人を呼び込むことができたから、店の地力を知る意味でもよかった。

思えばこの10年は、「いま」という瞬間の連続を夢中で生きてきただけであった。そしてそのことはこれからも変わらないだろう。

「いま」が「いま」を押し出し、その「いま」もすぐに過去となる。そうした「いま」の綱渡りを、これからも続けていく。

 

今回のおすすめ本

『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』本屋Title=編

10年目にしてはじめて自主制作したアニバーサリーブック。本が出入りし人が行き交う様子を記録に収めた、これぞTitleという一冊。

本屋Titleのみでの限定販売。在庫僅少です。

 

◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBSHOPでもどうぞ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

辻山良雄さんの著書『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』のために、写真家・齋藤陽道さんが三日間にわたり撮り下ろした“荻窪写真”。本書に掲載しきれなかった未収録作品510枚が今回、待望の写真集になりました。

 

◯2026年2月6日(金)~ 2026年2月24日(火) 本屋Title2階ギャラリー

タケウマ絵本原画展
『パタパタどうぶつえん』出版記念

『パタパタどうぶつえん』(岡田善敬 作/タケウマ 絵/ブロンズ新社刊)の出版を記念して、原画展を開催いたします。原画の展示をはじめ、お二人の書籍やグッズの販売、タケウマさんの複製原画の販売も行います。ぜひ足をお運びください。


◯2026年2月27日(金)~  2026年3月16日(月) 本屋Title2階ギャラリー

FOGGY
花松あゆみ 個展

霧やもやをテーマにした新作の版画展。霧に包まれた幻想的な風景や、ぼんやりと現れたり消えたりする幻のようなものをイメージして描きました。今回の展示では、版を分けて奥行きを出し、輪郭をぼかして刷ったりするなど、あらたな制作方法にもチャレンジしています。
版画の展示・販売のほかに、これまで作ってきた手製本やポストカードなども並びます。ぜひご覧いただけましたらうれしいです。


◯2026年3月12日(木) 19時30分スタート/21時頃終了予定 Title1階特設スペース

これまでの本屋、これからの本屋
『本のある場所を訪ねて』刊行記念 南陀楼綾繁トークイベント

編集者・ライターとして35年以上にわたり出版の現場に携わってきた南陀楼綾繁さんの新刊『本のある場所を訪ねて』(教育評論社)が発売になりました。2019~2025年にかけて各地の書店や出版社を訪ね歩き、そこで働く人たちの声や営みを記録した1冊です。
本書の刊行を記念して、「これまでの本屋、これからの本屋」と題した対談を行います。
かつてはチェーン店の書店員、そしてこの10年は本屋Titleを営んできた店主の辻山を相手に、本屋とはどのような場所であり得るのか、そしてこれからどう変わっていくのかを語り合います。

 

【『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』が発売中です】

本屋Titleは2026年1月10日で10周年を迎えました。この度10年の記録をまとめたアニバーサリーブック『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』が発売になりました。

各年ごとのエッセイに、展示やイベント、店で起こった出来事を詳細にまとめた年表、10年分の「毎日のほん」から1000冊を収録した保存版。

Titleゆかりの方々による寄稿や作品、店主夫妻へのインタビューも。Titleのみでの販売となります。ぜひこの機会に店までお越しください。
 

書誌情報

『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』

Title=編 / 発行・発売 株式会社タイトル企画
256頁 /A5変形判ソフトカバー/ 2026年1月10日発売 / 800部限定 1,980円(税込)

 

◯【寄稿】

店は残っていた 辻山良雄 
webちくま「本は本屋にある リレーエッセイ」(2025年6月6日更新)

 

◯【お知らせ】

養生としての〈わたし〉語り|〈わたし〉になるための読書(8)
「MySCUE(マイスキュー)」 辻山良雄

今回は、話すこと、そしてそれを通じて自分自身を考えさせられる3冊の本を紹介します。

 

NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。

偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。

関連書籍

辻山良雄『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』

まともに思えることだけやればいい。 荻窪の書店店主が考えた、よく働き、よく生きること。 「一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。 それは本に託した、われわれ自身の小さな声だ――」 本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは。 効率、拡大、利便性……いまだ高速回転し続ける世界へ響く抵抗宣言エッセイ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

新刊書店Titleのある東京荻窪。「ある日のTitleまわりをイメージしながら撮影していただくといいかもしれません」。店主辻山のひと言から『小さな声、光る棚』のために撮影された510枚。齋藤陽道が見た街の息づかい、光、時間のすべてが体感できる電子写真集。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

バックナンバー

辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

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