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クロスロード凡説

2026.02.18 公開 ポスト

男の人が汗だくでお茶漬けを喉に流し込むCM辻皓平(ニッポンの社長)(お笑い芸人)

夏に食べるかき氷は涼しくて美味い。
信じられないくらい体感の体温が下がる気がして、汗がすっと引く気がする。
どの色でも同じ味という噂も飛び交うあのシロップの甘さも乾いた口の中に染み渡り、いくらでも食べられてしまう。一気に食べると頭がキーンとなるのも妙に癖になり、悪くない。

 

 

冬に食べる鍋は温かくて美味い。
まずはスープで冷えた身体が一気に温まり、野菜で栄養をふんだんに摂取することができ、肉や海鮮もヘルシーに味わえる。味も色々なレパートリーがある為、毎日でも飽きない。そして家族や友人等、複数人で囲って食べることでパーティ要素があり、仲が深まる。コストパフォーマンスも非常に高い。

 

 

 

と、AIから返ってくるような意味のない内容だが、まぁ夏に食べるかき氷、冬に食べる鍋というと一般的にこんな感じの印象で大きく間違ってはないと思う。

 

 

僕も例に漏れず夏には冷たいもの、冬には温かいものが美味しいという認識だった。
が、これを覆しかねない出来事が先日起きたのである。

 

 

まさに先週の話。仕事で山形に出向いた。

 

 

現場に着き稼働まで小一時間あったので昼御飯にご当地のものを頂こうと外をぶらぶらしていた。1月末なので雪が積もりあたりは真っ白。東京住みの僕としては非日常な景色だった。

 

 

白い息を吐きながら辿り着いたのは蕎麦屋。ネットで写真を見間違えラーメン屋かと思い着いてみると蕎麦屋だったのだ。

 

 

だが調べてみると、どうやら山形ではラーメンに負けずとも劣らず、蕎麦が有名らしい。お昼時でほぼ満席だったのだが、運良く一つ空いていた席に座ることができた。

 

 

店内は程良く暖房が効いていて暖かかったが、まだ先ほど外を歩いていた身体の冷えは残っていた。

 

 

荷物を置き、メニューを見ようとした時、隣の客の蕎麦を啜る音が聞こえ、ふと見ると50代くらいの人がざる蕎麦を食べていた。

 

 

僕は「こんなに寒いのに冷たい蕎麦か。確かにこの年代の人はざる蕎麦好きな人多いよな」くらいに思っていた。

 

 

そして何気なしに店内を見渡すと驚愕した。満席の客が皆、全員、冷たい蕎麦を食べていたのだ。

 

 

そして目の前には「名物・冷やし蕎麦」と貼り紙が。温まる気満々だった僕は狐につままれたような感覚に陥った。温かいきつね蕎麦を食べたかったのに(惜しい)。

 

 

『あったか~』と言いたい悔しい気持ちはあったが、初めて来た店ではその店の一番自信のあるメニューを注文するというポリシーがある為(ほんまに)、僕は『冷やし蕎麦で』と伝えた。

 

 

しばらくすると冷やし蕎麦が運ばれて来た。これも驚いたのだが、所謂ざる蕎麦やつけ蕎麦のように麺とつゆがセパレートではなく、温かい蕎麦と同じように麺が汁に浸っていて、その麺が冷たい、という料理だった。

 

 

京都、大阪、東京と僕の人生では馴染みのない蕎麦だった。
そしてその汁も透明で、なんとも不思議な見た目をしていた。今なら初めて鼻の高い外国人を見て天狗だと騒いだ日本人に寄り添える気がした。

 

 

温かい冷たい問題の前に単純に空腹だった僕はその冷たい蕎麦を口に運んだ。

 

 

これは……美味い……いや、かなり新しい美味さだ。

 

 

間違いなく、今まで人生で食べた蕎麦で一番美味い。
麺にコシがあり、汁が冷たいお陰でピシッと締まっている気がする。これは冷たい方を頼んで本当に良かった。

 

 

そしてある真意に気づく。ちゃんと、「美味しい」が先に来た。

 

 

寒かったお陰で、「美味しさ」を味わうことができた。

 

 

これはどういうことかというと、
もし温かい蕎麦を頼んでいたらと、想像してみてほしい。

 

 

あなたが寒い土地、
雪の積もる中で蕎麦屋に入り、
温かい蕎麦を食べた一口目、「はぁ~温かい」と最初に思うに違いない。

 

 

その後、二つ目の感情として、
「美味しい」
と思うはずだ。

 

 

だが、身体が冷えた中で冷たいものを食べることで、
「美味しい」
という感情が一番に来たのだ。

 

 

このことを踏まえると、寒い季節の温かい蕎麦やうどん、鍋などは「暖を取る」ということがかなり大きな割合を占めているのではないだろうか。冷静に味そのものを味わえているかというと疑問が残る。

 

 

「温かくて美味しい」という、「温かくて」の部分が、優しい先生が言う『ここテストに出るぞー』のように最低限取れる点数になっている。

 

 

思い出してほしい。彼女や母親と夏にラーメンを食べたことはあまり無いはずだ。

 

 

冷たいものが良い、涼しいものが良い、と言われたことがあるはずだ。夏に汗を流してラーメンを食べたいのは、本当にラーメンの好きな人だけなのである。逆に、そこまで好きでもないラーメンは暑い季節には美味しくないのだ。

 

 

「冷たい」、「涼しい」という加算がされていないからである。
美味しい食べ物に興味のない人ほど、中華屋に入ると冷やし中華等の季節限定メニューを頼んでいるはずである。

 

 

これを踏まえて僕が今回辿り着いたのは、「熱いものだけど夏に食べても美味しい。冷たいものだけど冬に食べても美味しい。が本当に美味しいものなのではないのか。」ということである。まさに山形で食べた冷たい蕎麦である。

 

 

となると、CMの内容も改めるべきだろう。

 

 

汗をかいてアイスを食べたり冷たいドリンクを飲んだりするのではなく、本当に味が美味しいことを伝える為なら、極寒で凍え死にそうな中でアイスを食べて、「オー! デリシャス!」と言うべきなのだ。

 

 

サウナの中でおっさん3~4人で鍋をつついて食べて「ほんまに美味い! 熱くても箸が止まりまへんで!」と叫ぶべきなのだ。(関西弁かどうかは置いといて)

 

 

そこで一つ思い出したのだが、
子供の頃に見てた、男の人が汗だくでお茶漬けを喉に流し込むCM、
おそらくあれがシンプルに美味しさのみを伝える正しいCMなのではないだろうか。

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クロスロード凡説

「ネタにはしてこなかった。でも、なぜか心に引っかかっていた。」
そんな出来事を、リアルとフィクションの間で、書き起こす。

始まりはリアル、着地はフィクションの新感覚エッセイ。
“日常のひっかかり”から、縦横無尽にフィクションがクロスしていく。

「コント」や「漫才」では収まらない深掘りと、妄想・言い訳・勝手な解釈が加わった「凡」説は、二転三転の末、伝説のストーリーへ……!?

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辻皓平(ニッポンの社長) お笑い芸人

1986年、京都府生まれ。

お笑いコンビ「ニッポンの社長」として、コントと漫才の“二刀流”で独自の笑いを追求。
漫才&コント二刀流No.1決定戦「ダブルインパクト」初代王者。
コント日本一を決める「キングオブコント」では、2020年から5年連続で決勝進出を果たす。

本コラムでは、日常の出来事に自由な解釈や言い訳、妄想を重ねながら、舞台とはまた違った角度で物語を綴る。
コントと漫才、どちらのネタも手がける著者が、言葉を操る“三刀流”として、文章の世界に挑む。

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