どうやったら売れるのか

私は睡眠時間が10時間はあるタイプで、睡眠過多には悩むものの、不眠症で悩んだことは一度もない。ただ、その睡眠中もぎっしり夢を見ているため、朝目が覚めると疲れていることがほとんどだ。夢の設定は細かく、ショートストーリーを連続で見ることも多いため、起きてるときと変わらないぐらい頭を使っている気がする。
そんな私が、金色に輝くヘラクレスオオカブトとミヤマクワガタを捕獲する夢を見たのは、今年1月28日のことだった。ぼんやりと目が覚めた私は、「富の象徴が昆虫かあ」と思ったのを覚えている。
過去には、金のしゃちほこが夢に出てきたこともあるし、エラーコインを拾う夢はしょっちゅう見ている。不思議なのは、単にお金を得る夢ではなく、穴のずれた50円玉や、ひとまわり大きい10円玉などを拾い、「これは高く売れる!」と大喜びする場面ばかり繰り返されることだ。同じ夢を、10回は見ていると思う。
ゆえにこのときも、ただの「昆虫の夢」ではなく、売って大儲けするタイプの夢に分類されたのだった。
ちなみに、ヘラクレスオオカブトとは、中米~南米北部に生息する、細長く尖ったツノを持つカブトムシで、日本でも高値で取引されている。

夢の中では、これがゴールドに輝いていた。
その金のヘラクレスを見たあと、私はそのまま二度寝し、今度はその昆虫を売るために、メルカリで売り方を調べている、という続編に突入した。
珍しくXにも書いたので、これが1月28日に見た夢であることは間違いない。

なぜ、日付にこだわるのかというと、その翌日にとんでもない事件が起きたからだ。
私が夢を見たのは28日。その翌29日、金の店頭小売価格が1グラム3万円を超え、史上最高値を記録したのである。さらに土日を挟んだ翌週2月2日には、今度は2万5287円まで急落。短期間で史上最高値から大幅下落という、ジェットコースター並みの乱高下を見せた。
この混乱を受けて、大阪取引所では金先物の売買を一時中断するサーキットブレーカーが、連日発動する事態となったのだ。
私の知人で、ある怪しい人物の一人は、この大幅下落を前に嬉々として金を買いに行ったが、大手貴金属店には大行列ができており、あえなく二流店で購入するはめになったらしい。行列をつくっていた人々が「売り」なのか「買い」なのかはわからないが、資産の置きどころをめぐって世界中の人が右往左往していることだけは間違いない。
それがどうした、と言うなかれ。
この動きをチャートで見てみると、ヘラクレスオオカブトのツノの形とシンクロしているのだ。

もっとも私は、金など持っていないし、買うつもりもない。そもそも大して興味もない。
つまりだ。この話の主題は、ひょっとして私は予知夢を見れるのではないか、という疑いなのである。
ひとつ問題があるとすれば、せっかく予知夢を見ても、その意味を解読できないことだろう。金のヘラクレスの夢を見て、翌日からの金価格のチャートを暗示しているなどと、一体だれが思おうか。
漫画家のたつき諒氏は、予知夢をもとにした漫画『私が見た未来』を出版し、3.11を言い当てたことで知られている。私もこの能力を使いこなせたら、予知夢を使って漫画を描けるのではないか。
大災害ではなく相場の予言とは、凄すぎじゃないか。
このように、私は常日頃「どうやったら売れるのか」ばかり考えている。アーティストで、ここまで商売のことばかり考えている人間も珍しいのではないか、と思うほどだ。
そもそも写真家で、ノンフィクション作家で、エッセイまで書いているのだから、こんなに面白いのになんで売れないんだよ! と常々不満を抱いている。
という話をすると、「いやインベさん、売れてるほうだよ」と言われることもあるが、いかんせん収入が少ないので、ちっとも売れてる気分にはなれないのである。
そんな切実な「売れる・売れない」問題について整体院でボヤいたところ、整体師から「それはね、スイッチがあるんですよ」と言われた。曰く、「インベさんは、自分で売れないようにしているように見える」のだという。
実はこれ、私もうすうす感じていることだった。
確かに今の私は、たいして忙しくもなく、毎日10時間スヤスヤ眠り、ギリギリ生活できるレベルとはいえ、興味のあることだけを仕事にしている。しかも、売れっ子でもない私に仕事を依頼する編集者は、情熱だけで生きているような人ばかりだ。結果、非常にストレスの少ない人生を送っている。
もしも、これが売れっ子だったら、商売っ気の強い編集者に囲まれ、あっという間に消費されてしまうことだろう。
と考えると、今の状況は私が無意識に選んでいるとも言える。
そもそも、私よりつまらない人間が売れていることなどしょっちゅうあるのだから、「売れる・売れない」に才能は関係ないのだ。自分が、「売れるぞ」というスイッチを入れさえすれば、状況はたちまち変わるに違いない。
例えば、ボンボンドロップシール。
ぷっくり膨らんだ樹脂製のシールで、本来は小学生女児をターゲットにした商品のはずだ。しかし、去年末あたりから、大人の女性たちのあいだで大ブレイクし、友だち同士でシール交換を楽しむという社会現象にまで発展しているというではないか。
商品開発者も、まさか大人によって買いしめられるなど、絶対思っていなかったはずだ。
だが、これが世の中なのである。
出版業界でも、「何が売れるかは予測不可能」とよく言われる。
予算をかけて気合を入れてつくった本が売れず、低予算でパッと作ったものが大ヒットすることがあるから、とにかく数を出すしかないというのだ。
そう考えると、私も戦略的に商売を考えるより、トンカチで頭をたたいて酩酊状態で本を作るぐらいのほうが、かえっていいのかもしれない。
もっとも、そんなことを言いながら、私は昔から来た仕事の半分ぐらいは断ってしまう習性がある。「来た仕事は全部受けよう」と決意したことは何度もあるのだが、結局のところ「いやあ、やりたくないなあ」と思ってしまうのだ。
そこだけは、妙に昭和の芸術家みたいなところがあり、自分でも困っている。
そもそも、私の周りの編集者ですら、「売ることは考えなくていい」とか「やりたいことだけやりなさい」とか言ってくる人ばかりなのだ。
「インベさんが今一番興味あることをやってください」というオファーが、これまでに何度あったことか。中には、私が企画を提案しても、「本当にそれはやりたいことなんですか?」と疑ってくる人もいる始末だ。
私がメジャー路線に走るなどとは、きっと誰も思っていないのだろう。
そういうわけなので、生活していくためにも今後は予知夢の解読に力を入れようと思う。
それが、人間

写真家・ノンフィクション作家のインベカヲリ★さんの新連載『それが、人間』がスタートします。大小様々なニュースや身近な出来事、現象から、「なぜ」を考察。
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