下町ホスト#50
美しい青年は、都心に聳え立つ高校を中退し、ほぼ外人で埋め尽くされる渋谷の小さなクラブでホストにスカウトされた。紹介された店は歌舞伎町のど真ん中にある大手のホストクラブだった。顔立ちは当時から当たり前のように美しく、すんなり面接を潜り抜けた。その翌日から目白付近にある寮に入り、怒涛のホスト生活が始まった。
大手ホストクラブは掃いて捨ててもホストの人数は溢れていて、美しい青年は日々、場所を変えながらキャッチをする。疲弊し切った顔でお客様を捕まえて店へ案内するが、売れっ子ホストに横取りされてしまう日々が続く。あっという間に、一ヶ月が過ぎた。結果は売上ゼロ。歌舞伎町の片鱗を知る。
このホストクラブの規約によると、三ヶ月以内に小計三十万円売らないと、自動的にクビになるらしい。少しずつ目が曇ってゆく。二ヶ月目も初月と変わらない日々が続き、ほぼ店内にも入れず、キャッチをする日々が続く。
ある大雨の日、それなりに有名な売れてるホストの誕生日イベントらしく大量のヘルプが必要となり、珍しくグラスを持って様々な席に着くが、ろくにテーブルマナーを知らない為ボロカスに身も心も打ち砕かれる。面白がって、主役のホストが美しい青年にとてつもなくアルコール度数の高い酒を飲ませ続け、気づけばスタッフ用のトイレで倒れていた。心優しそうな同期のホストに介助してもらいなんとか営業終盤に復帰したが、胸ポケットに入れていたはずのなけなしの数千円がすべてなくなっていたが、もうどうでもよかった。
そんな姿を見ていたのか知らないが、内勤から初回の席に着くよう指示を受ける。ゲロ臭い口内を一度、清潔にしてから、その席へ向かった。
それが「君」と美しい青年の出逢いだった。
「君」は歌舞伎町のどちらかというとスナックよりのクラブで働いていて、ホストクラブにこれっぽっちも興味はないが、友人に誘われてたまたま初回で入店した。
美しい顔立ちに似合わないボサボサの髪と顔色の悪さに「君」は惹かれ、連絡先を交換する。そして、もしかしたら、もうそろそろクビになってしまう事実を知った「君」は、数日後、美しい青年を指名し野暮ったい混沌から救い出す。
「君」から指名をもらった美しい青年は、不思議と勢いをつけ、急激に指名を増やしてゆく。それを気に入らない「君」は、新しく新大久保の方にワンルームの家を借り、そこに美しい青年を私物化すべく住わせた。
美しい青年は、なんとかそこから独り立ちできるよう抗うが、「君」は、とあるサイトに美しい青年のありもないことや、赤裸々な写真を投稿し、精神的に妨害してゆく。「君」の思惑通り、それ以上、お客様は増えず、美しい青年は「君」の売上に依存してゆく。
そして、とある日知らない番号から電話がかかってくる。
「お前、殺すからな」
その男は、低い声でそう告げて、「君」から焦った様子のメールがきた。
【ごめん、バレた 逃げて】
【え? 誰に?】
【旦那】
体の震えを抑えようと携帯を閉じて、祈るように丸まっていると、インターフォンが鳴る前に、鍵が空いた音がした。
『奥歯』
晴れてるが君は全身濡れているそんな世界で煙草を吸った
月末に人をやめろと怒鳴られて首輪のような右手うつくし
真夜中のいつも通りの交差点 右も左もきっとお地獄
適当に震えたスキがしょっぱくて壊れたままの奥歯に入れる
信号の待ち時間すら惜しみつつ月を見つめて誰かを待った
歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。
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