誰かに愛されていないと、不安だった。
だからいつも、次の恋へ、次の恋へと進んできたけれど、本当に欲しかったものは、そこにあったのだろうか。
恋にすがって生きてきたひまりが向き合う、本当の「幸せ」。
新刊『私以外、みんな幸せそうに見えた』より、第四話をお届けします。
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第四話 幸せになれない私
「みんなも一緒にライブ行く? てか行こ! 彼らの魅力を全身で浴びてほしいの! 絶対ハマるから! 歌もダンスも洗練されてるのは当然ながらファンサ神でMCも面白くて控えめに言って最高で──」
推しについて力説する新奈は、号泣していた去年の春とは別人みたいだ。
まさか新奈の口からアイドルの話を聞く日が来るとは思わなかった。新奈は基本的に二次元を敬遠していて(新奈いわく芸能人はほぼ二次元らしい)、私が昔アイドルにハマったとき「いやアイドル推したところで付き合えるわけじゃないんだから現実見なよ」と引かれたし、おすすめした漫画さえろくに読もうとしないくらいだったのに。
あまりの熱狂ぶりに椿は意識を手放したように無になり、穂乃果は微笑んだまま気絶しているみたいに微動だにしない。私はかろうじて新奈の推しグループが(どちらかといえば)好きなほうだからなんとか食らいついていたけれど、一時間にわたる熱弁にいよいよ疲労困憊していた。
私たち四人が再会してから約四年、なんだかんだで年に一、二回は集まっている。
今日は三月に行われた穂乃果の結婚式以来だから九ヵ月ぶりだ。年末に集合するのは恒例になっていた。
四年前はどこかぎこちなかった私たちも、すっかり学生時代のノリを取り戻していた。今までは気を遣って(正直に言えば、ちょっと見栄も張って)大人の女性らしいお洒落なお店ばかり探していたけれど、今日はチェーンの居酒屋でもつ鍋を囲んでいる。
「新奈、もういいから。わかったから。ライブは行かないけど」
死んだ魚の目をしていた椿がストップをかけると、穂乃果はほっとしたように息をついた。
「てかどうしたのほんと。新奈そういうタイプじゃないじゃん。むしろアイドルとかバカにしてなかった?」
「ちょっと椿、そんな遠い昔の話やめてよ。あの頃の私とは違うの。だって現実の男は夢見させてくんないじゃん」
「でも新奈、彼氏いるんじゃないの? ヒビキくんだっけ」
「は? やめてよ。あいつはない。絶対ない。ありえない」
「だってよくふたりで飲んでるじゃん」
「ただ家が近所でよく会うだけだよ。飲んでるときも喧嘩ばっかりしてるんだから。まあこの歳になったら遠慮なくなんでも言い合える関係って難しいし、ある意味貴重な存在ではあるかもね。ストレス発散にはなってる」
新奈はずっと前にウエディングプランナーを辞めていたそうだ。今は推し活資金を稼ぐためにバイトをかけもちしている。プランナーに戻りたくないのかと訊いたら、今のほうが自由で性に合ってるかもしれないと笑っていた。
「どうでもいいけど、とにかく新奈の話は一旦終わり。今日の主役はひまりなの」
椿の言う通り(主役のつもりはないけれど)、今日はみんなに報告したいことがあると事前に伝えていた。
みんなの視線が私に向く。緊張して背筋が伸びた。
「ぐちゃぐちゃになっちゃうから順番に話すね。実はちょうど一年くらい前に、彼にプロポーズされて」
「あーもうはいはい! 結婚すんのね! 報告あるって聞いたときからそうだと思ってた! おめでとう! いいなー現実でいい男見つけられた人は!」
推し活の話をしていたときとは別人みたいに新奈が鼻を鳴らし、ビールを一気に呷った。
「てかなんで一年も黙ってたの? 穂乃果の結婚式で会ったよね? まさか彼氏すらいない私と椿に言いにくかったとか?」
「ごめん、そういうわけじゃなくて。友達の結婚式で自分の話するのはちょっと気が引けたというか」
「別にいいじゃん、おめでたい話なんだから。あーあ、ひまりもついに結婚かあ。恋愛体質で男に泣かされてばっかだった子に限って、最終的にはいい男見つけてあっさり結婚するんだよ。この世の法則」
「男に泣かされてきたどうこうは置いといて、そもそもひまりって絶対幸せになれるタイプだもん。すっごい愛されて大切に育てられてきたオーラが溢れてるし」
まだプロポーズされたと話しただけなのに、椿まで先走っている。
「でも、確かに高校の頃は散々だったけど、大学時代の彼氏は話を聞く限りいい人だったよね」
穂乃果にまで「散々だった」と言われるなんて、みんなよほど私の恋愛事情に呆れていたのだろう。
とはいえ、みんないろいろと誤解しているようなので──大学時代の彼に関しては私がちゃんと説明しなかったせいなのだけど──この際、一から説明しようと思う。今の彼について話すにしても、大学まで遡らなければいけないから。
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私は幼い頃から少女漫画が大好きで、恋愛に憧れていた。ある日突然かっこいいヒーローと運命的な出会いを果たし、困難を乗り越えながら強い絆で結ばれていく。自分にもいつかそんな日が訪れるのだと信じ、運命の人を求めながら、私は絶えず誰かに恋をしていた。
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悩み抜いた末、彼女たちはどんな光を見つけ、どんな答えにたどり着くのでしょうか。続きはぜひ、『私以外、みんな幸せそうに見えた』でお楽しみください。
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忘れられない恋の続きは、ぜひ本書で。
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私以外、みんな幸せそうに見えた

忘れられない元彼を引きずる椿。裏切りが頭から離れず結婚をためらう穂乃果。誰かの「いちばん」になりたい新奈。学生時代の過ちを背負い、幸せを諦めようとするひまり。30歳を目前に焦りと不安で揺れ惑う4人の女性たち。あまりに違う「理想と現実の狭間」で、彼女たちが見つけた小さな光とは。20代のリアルを描いた、共感必至の恋愛ストーリー集。
本連載では、試し読みをお届けします。










