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礼はいらないよ

2026.01.23 公開 ポスト

「なぜ今、解散総選挙?」高市首相の説明を聞いても理由はわからないダースレイダー(ラッパー・トラックメイカー)

(写真:Wikimedia Commons)

円安加速、統一教会、中国との関係…問題は残り続ける

 

かつての正月はのんびりしたもので、実家に戻っておせちや雑煮を食べたり駅伝を見たり初詣に行ったり。初七日あたりで少し気合を入れてみるかと思ったり、思わなかったり。この前提があったからこそ2024年1月1日の能登半島地震は大変ショッキングだった。僕は家族と川越の雑貨屋でお箸を見ていて、大きな揺れを感じた。周りにいた人たちも驚いていたが震源が能登と知り、さらに心配になったものだ。

あれから2年。世はすっかり乱世になった。トランプ政権が正月早々にベネズエラに侵攻しマドゥロ大統領を拉致したニュースは時代の前提が変わったことを如実に示す出来事だろう。その後もグリーンランドやメキシコ、キューバと話題は転がり続けるし、イスラエル軍はパレスチナ人を殺し続けている。

SNSの景色もすっかり乱世仕様だ。大晦日から元旦にかけてもXでは敵味方の陣営に分かれた罵り合いは続いていた。これは日常がすっかりフラットになり、社会として休日という感覚を共有することが出来ていないからだろう。紅白歌合戦などかろうじて残っているコンテンツも社会全体で共有されるものではなくなっている。

そもそも気候変動がいよいよ進行してきた結果、四季も曖昧になってきているのも日々のフラット化に寄与していると思う。元旦もシンと冷えるというよりなんだか生暖かかったと思う。世の中の”確からしさ”はどんどん消失していっている。

ちょうどこの原稿を書いている時に高市首相の記者会見が始まった。1月23日国会の冒頭で解散する宣言をしている。昨年の公明党の連立離脱も政局の確らしさを失わせたが、日本維新の会が連立に加わることで臨時国会で補正予算を通すことも出来た。物価高対策が何よりも大事だと繰り返していた高市首相がなぜ今、解散総選挙を打つのか? 説明を聞いていても”なぜ今なのか”の明確な答えは出てこない。

報道からは国会が始まってからの予算委員会での野党の追及を避けるためという説明がある。積極財政に不安を抱く市場による円安加速はどうするのか。韓国で尹元大統領の捜査の中で出てきた統一教会のTM報告書に自民党の議員が290名も出てくることをどう説明するのか。公明党が離れた理由でもある政治資金問題はどうするのか。連立相手の維新の国保逃れの実態はどうなっているのか。

そして、高市首相の存立危機事態発言に端を発した中国との関係悪化は、いよいよレアアースの輸出規制に繋がりそうだ。ここで並べた問題は選挙をやったところで何一つ解決しない。だが選挙で勝てばこうした問題に対する国民の審判がなされたと説明はするだろう。そして問題は残り続け、今後次の問題への呼び水となっていくだろう。どんな連鎖が起こるかも予測できない。確らしさはもう存在しない。

2月の総選挙だ。これも極めて異例だという。僕自身の思い出を紐解けば大学受験の時の正念場中の正念場だ。センター試験(当時)を終えて私立大、そして国立の入試。今は18歳から選挙権があるが受験生にとっては自身の人生の選択だ。もちろん国政選挙も人生の選択に繋がるのだが、わざわざ重ねないでも良いではないか。中学、高校の受験をする子を持つ家庭もこの時期は大変だ。そして北海道、東北、北陸の雪国はどうなるか。雪が降る中で街頭演説をするのだろうか。家を出ないでTikTokやYouTubeの切り抜き動画で判断しろとでも言うのか。

そして想像はまた能登に戻る。

石破政権は発足してすぐに、これまた熟議の国会にすると言っていた本人がすぐさま解散総選挙に打って出た。僕は時事芸人プチ鹿島さんと一緒に能登の選挙の取材に出かけた。正月の地震に続き夏には豪雨災害が重なってインフラはまだガタガタだった。珠洲市から輪島市に繋がる道路はどれも遮断されたままだった。珠洲市では水道が破損したままで水が出ない地域があり、クリーニングカーが巡回していた。トイレは限られた場所でしか使用できない。避難所で出会った二人の高齢女性は近くにある営業していないホテルの浴場が開放されているからと入浴に向かう途中だった。

「今選挙と言われてもねえ。自分たちの生活がどうなるか全くわからないからね。投票はしましたけどね」

岸田元首相は七尾市での応援演説でこんな話をしていた。

「なんで今選挙をやるかと聞かれます。選挙は政治家を元気にするんです。皆さんの元気をください!」

あれから一年ちょっとしか経っていない。あの時政治家が吸い上げた元気はもう切れてしまったのか。雪の積もる能登であの避難所で会った女性たちはどんな気持ちで高市首相の話を聞いているのだろう。

関連書籍

ダースレイダー『武器としてのヒップホップ』

ヒップホップは逆転現象だ。病、貧困、劣等感……。パワーの絶対値だけを力に変える! 自らも脳梗塞、余命5年の宣告をヒップホップによって救われた、博学の現役ラッパーが鮮やかに紐解く、その哲学、使い道。/構造の外に出ろ! それしか選択肢がないと思うから構造が続く。 ならば別の選択肢を思い付け。 「言葉を演奏する」という途方もない選択肢に気付いたヒップホップは「外の選択肢」を示し続ける。 まさに社会のハッキング。 現役ラッパーがアジテートする! ――宮台真司(社会学者) / 混乱こそ当たり前の世の中で「お前は誰だ?」に答えるために"新しい動き"を身につける。 ――植本一子(写真家) / あるものを使い倒せ。 楽器がないなら武器を取れ。進歩と踊る足を止めない為に。 イズムの<差異>より、同じ世界の<裏表>を繋ぐリズムを感じろ。 ――荘子it (Dos Monos) / この本を読み、全ては表裏一体だと気付いた私は向かう"確かな未知へ"。 ――なみちえ(ラッパー) / ヒップホップの教科書はいっぱいある。 でもヒップホップ精神(スピリット)の教科書はこの一冊でいい。 ――都築響一(編集者)

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礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

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ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

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