渋谷で30年近くワインとボサノヴァのバー、bar bossaを営む林伸次さん。昼間は文章を書き、夜はバーに立つ生活を長く続けていらっしゃいます。帰宅も遅いなか、普段の食事はどうとられているのでしょうか? 林さんの著書『世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。』の発売もあった2026年年明けの様子です。
1月2日
妻は実家に行ってるので、お昼に起きて、オムレツを作る。ちなみに僕、すごく料理が下手で、結婚後に僕も料理を作らなきゃと思って、焼きそばとかチャーハンとか見よう見まねで作ったのだけど、妻と娘から「美味しくない。作らなくていい」と言われ、作ってません。妻が実家に行く前に「ベーコン残ってるから使ってね」と言ってたので、玉ねぎとベーコンを1センチ角に切って、油で炒めて塩胡椒して、溶いた卵3個分をかけて、この形にして、ケチャップをかけたのだけど、玉ねぎに火が通ってなくて全然美味しくない。

渋谷へ行き、お店でnoteを書く。noteの社長の加藤貞顕さんが20年前からの常連で、僕、ずっと「noteっ子」で、今も毎日、noteを書いてます。
自宅に帰り、京王ストアに行くと、もうこれしか残ってなくて、こちらを、お店で残ったロワールのピノ・ノワールに合わせる。

1月3日
朝、妻から「渋谷に12時49分に着く」とLINEが来たので、大急ぎでお風呂に入って渋谷へ。
大学生の甥っ子が渋谷の、「君のハンバーグを食べたい」というお店でバイトをしているということで、妻の弟夫婦と、妻と僕と4人でそのお店でランチ。ごはんとお味噌汁をつけるのが基本で、ごはんはお代わり自由で、確かにごはんが進むハンバーグでお味噌汁もあう。ナイフとフォークがなくて、お箸のみ。要するに「君(彼女、あるいは彼)の、家に遊びに行ってハンバーグを食べる」という意味だと気づく。周りは外国人と若い人ばかり。

ちなみに最近よくあるスマホでQRコードを読み込む注文パターン。これ、最後に「チップ」を、0%、5%、10%、20%って決めるのがあって、妻が「5%にするよ」とチップを決定。このチップ制度で、全体のお店の売り上げで、どのくらいチップが入ってるのか知りたい。
1月4日
妻が友人からいただいた名古屋の紅白うどんを作ってくれる。

休日は妻と、お店のことや娘のことを話したり、僕の原稿のことを聞いてもらいながら10キロくらい歩くっていうのをいつもやってて、今日は西荻窪まで歩く。途中で目についた神社へ。僕の実家は一切宗教的なことには関わらない両親だったのだけど、妻は神社とかお寺とか、旧○○邸とか、古い建物とかが好きで、この神社で初詣をすることに。

他の人たちがこの輪をぐるぐる回ってて、そういう決まりみたいで、ふたりできゃっきゃ言いながらぐるぐる回る。
家に帰り、妻が、僕の実家(徳島です)から届いたシラスと小松菜のパスタと、春菊とブルーチーズとりんごのサラダと、豆腐とアボカドのサラダを作ってくれる。僕が「すごい。サラダがふたつもある」と言うと、「これ、私はサラダと思ってないから。私にとってサラダは主食なの」と妻。

1月5日
妻は、睫毛のエクステらしくて、僕だけ渋谷へ。吉そばでちくわ天そば。

ちなみに僕は徳島出身なので、学校の帰りにみんなでうどん屋に入って、100円で1玉のうどんを、自分たちで湯がいて、ネギと天かすとスープをかけて、っていうのをしてた、うどん文化圏育ちなんですね。
妻のお父さんが、東京に出てきて、「そうかあ。東京の人はお昼に蕎麦を食べるんだ」って知って、「郷には入れば郷に従え」と思って、毎日お蕎麦を食べるようにした、という話を聞いて、僕も蕎麦を食べることになりました。
ちなみに最初は、もりそばを食べてたのだけど、坪内祐三が、「暑い夏でも天ぷらがのった熱いそばを、立ち食いそば屋でかきこむのが本当の東京人」と書いてて、なるほどと思い、その日から天ぷらがのったそばを食べてます。
妻からこんなLINEが来る。

お店、初日なのに若い方や外国人の方がたくさん来店してすごく良い感じ。
家に帰ると、妻が大根のそぼろあんがけと筑前煮を作ってくれていたので、スペインのテンプラニーリョに合わせる。

1月6日
妻は今日は友だちと丸の内でランチらしいので、僕は渋谷のしぶそばできつねそば。

以前、渋谷の東急東横の中にしぶそばという駅蕎麦の名店があって、妻と毎日のように通ってたんだけど、ご存じ、今は渋谷駅は大改装中でなくなって、それが最近、道玄坂に戻ってきて、また通ってます。
お店、また忙しくする。
家に帰ると、妻が、りんごとクルミのサラダと、ピーマンのジャコ炒めと、鮭の塩焼きと、キノコと油揚げの炊き込みごはんを作ってくれていたので、スペインのテンプラニーリョに合わせる。

1月7日
朝、起きてランニング。続けられそう。
妻と渋谷へ。福田屋で、妻はせりとじそば。僕はおかめそば。福田屋は渋谷の老舗名店なんだけど、最近はお昼だけしか営業しなくなって、ずっと続けて欲しいお店ナンバーワン。

妻がお店のお花を活けてくれて帰る。僕は銀行へピン札の両替に行く。bar bossa、お釣りはピン札を用意していて、それってもうすごく古いんだけど、そういう古いことって残しておいた方が良い気がしていて、意地になって銀行に通い続けています。でも今日は両替機でずっとねばっている人がいて、嫌になって離脱。
こういう心がカサカサしたときは中古レコードを見ることにしていて、ディスクユニオンとHMVへ。1985年にブラジルで、架空の映画のサントラを作ったというアルバムが再発されていて購入。架空の空港のBGMのレコードとか、架空のホテルのエレベーターのBGMのレコードとかって企画、すごく好きでして。

お店、また外国人が多い日。最近ご存じ、渋谷はすごく外国人が多くて。どうやってうちのお店に来るのかと思ったら、あるとき「ロンリープラネット(地球の歩き方みたいな英語の本)に出てる」と言われたことがあって。
家に帰ると、妻が、蓮根とゴボウのつくねと、ブロッコリーの塩昆布あえと、ササミと三つ葉の柚子胡椒あえを作ってくれていたので、スペインのテンプラニーリョに合わせる。

1月8日
今日は、『世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。』の文庫版の発売日で、SNSとかいろいろ告知。
今回は円城塔さんに解説を書いていただいていて、その文章があまりにも良くて、担当編集者の竹村優子さんが「涙を流した」と言っていて、妻も「あなたの本よりも良い」と言っていて、僕も正直そう感じていて、その件をnoteに書いたのでアップ。ちなみに取材をお願いしますという件も書いてます。是非。

僕、ジェンダーのこととか、性のこととかを書きたくて、僕に、どんなことが書けるだろう、みんなどんなことが読みたいのだろう、とリサーチしたところ、やっぱりみんな「セックスのことを知りたい」ということで、ある女性に、お昼にお店に来てもらい、1時間半、セックスについてインタビューする。すごく濃い充実した話が聞ける。
最近、AIで文字起こしをする方法を常連の方に教えてもらって、それでAIにいろんな文章を作ってもらうのだけど、その女性が、すごく言葉を選んでいる雰囲気とか、ためらっている感じとかが出ない。やっぱり自分で耳で聞き直して文字起こししなおそうと思う。
お店、夜がすごく寒くていまひとつ。仕方ない。
家に帰ると、妻が、鯛のソテーとラタトゥーユを作ってくれていたので、スペインのテンプラニーリョに合わせる。

1月9日
朝、36才の娘がリビングですごくかしこまった声で誰かと話している声で目を覚ます。転職でオンライン面接を受けているところと判明。
図書館へ。僕、小さい頃から図書館っ子なのですが、杉並区はオンラインで杉並区内の図書館にある蔵書を検索して、予約したら、歩いて1分の近所の図書館に集めてくれて、そこで借りれるんですね。今、世界のお酒と食事みたいな本を企画していて、それの資料本。僕、大学は中退なんだけど、こういう本を読むたびに、文化人類学を勉強してみたかったなあ、フィールドワークとかやってみたかったなあと思う。でも今、渋谷のバーでフィールドワークしてるのかも。

渋谷の嵯峨谷でちくわ天そば。嵯峨谷って、たくさんの立ち食い蕎麦チェーン店が出尽くしたあとの、最近の後発のチェーン店なんですね。だから蕎麦粉10割とか、天ぷら揚げたてとか、わかめ無料とか、すごく考えられてて。今、実は僕、蕎麦屋をすごくやってみたくて。東京人にとって、蕎麦屋ってハードボイルドなんです。バーと似てるんです。
ちなみに僕は、東京中の蕎麦屋を行脚したいのだけど、官僚の娘で世田谷育ちの妻が、「わざわざ電車に乗って蕎麦屋に行くのは田舎者の証拠。蕎麦は、『お腹すいたなあ。蕎麦でも食べようか』と思って、目についた蕎麦屋に入るもの」と言うので、行きたい蕎麦屋に行けないのが悲しい。

お店いそがしくする。友人が吉祥寺のブックファーストで僕の『世界はひとりの』の文庫本があったと写真を送ってくれる。すごく目立ってる。このデザインでやっぱり大正解だった気がする。

家に帰ると、妻が、水菜と油揚げと椎茸の煮浸しと、大根と鶏肉の煮物と、小松菜とセロリのジャコ炒めを作ってくれていたので、スペインのテンプラニーリョに合わせる。

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