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ジジイの細道

2026.01.30 公開 ポスト

残念ながら、君たちに送る言葉は持っていない。大竹まこと

大竹まことさんが「老い」をテーマに言葉を綴る連載。14回目の今回は、成人の日に思うこと。

今月中旬には、街で晴れ姿の若者たちを目にする機会が多く、自分が20歳を迎えたときのことを懐かしく思い出した人も多いのではないでしょうか? 大竹さんによる「若さ」と「老い」が交錯するエッセイをお楽しみください。

*   *   *

成人の日である。よく晴れている。
何もやることのない私は、午後の散歩に出かける。確か昨日は20分ほど歩いた。今日もそのくらいは歩く。

よく晴れた成人の日である。街中は、スーツや、晴着を着た人たちが、ニコやかに歩いている。着物の裾や草履の鼻緒が気になるのか、歩き方が様にならない娘もいて微笑ましい。

神社の前の道を通りすぎる。何やら真剣に祈る若者がいた。上下黒のジャージだろうか。何を祈っているのか。いつまでもその両手は胸の前にあった。
神社は通りに面していて、ゆっくり歩く私はなぜか胸が苦しくなった。

20歳のころ、私は何をしていたのか。
たしか祐天寺駅近くのボロアパートで麻雀やパチンコに明け暮れ、ろくな仕事もしていなかった。電気を止められたり、ひどいときにはガスも止まった。
家賃も何か月かは払っていなかった。よく大家さんが許してくれたものだ。今はそんな訳にはいかない。
中間にアパートを管理する会社が入り、すぐにアパートを追われてしまうらしい。
私の部屋の前の四畳半には、たしか家族4人が慎ましく暮らしていた。

成人式は近くの目黒公会堂であったはずだが、私は行っていない。成人らしき祝い事もなかった。いつものように駅前の来々軒でニラレバ炒め定食を食べ、パチンコでもやっていたのか。何の記憶も残っていない。
母親がやってきて、丸井でスーツを買ってくれたように思うが、定かな記憶ではない。

私は成人式などどうでもよかったのだろう。銀座に「むね」という喫茶店があって、そこでバイトでもしていたのか。何しろ56年前の話である。この歳になると近々のことは覚えておらず、遠い過去だけを鮮やかに覚えているらしいが、私にはそれもない。

その頃よく遊んでいた仲間も、もうこの世にいない。
テツヤは7年くらい前に脳梗塞で倒れ、一度戻ってきたがすぐにまた倒れてあの世に行った。関川も3年前に癌で倒れて、戻ってはこなかった。
30年の時を経て、急に同級生のTからラジオ番組宛に「大竹に会いたい」と人を介して連絡が来た。余命3か月の宣告を受けていた。なぜTが同級生の私だけに連絡してきたのかわからない。

病室で痩せ細っていたTは、それでもまだしっかり髭を蓄え、小さく私の名を呼んだ。
別れ際、私はTが差し出す手をしっかり握った。Tの指には力があり、いつまでも握っている。
私は言葉を失って、皺だらけの手を離せなかった。
「また来るからな」Tは頷いたように思う。

次の日の同じ時刻、「Tの心臓が止まった」と連絡が入った。

話がそれた、スマン。だから私は、新しく成人を迎えた諸君に、話す言葉も送る言葉ももちあわせていない。
前に一度、若い人の前で話す機会があったが、ロクな話もできず赤っ恥をかいた。
喫茶「むね」で働いていた当時、上司の女性に「大竹君はなにがやりたいの」と聞かれたことがある。私は困って少し考えて、「役者かなぁ」と適当に答えた。
「それなら、その勉強をちゃんとしなさいョ」とたしなめられて、早野寿郎さんのやっている「俳優小劇場」を勧められた。その流れで、きたろうや斉木(シティボーイズ)、風間杜夫などと同期の養成所に行くようになる。

まともに大学を出て就職する人たち。つまり、人生の表を歩く人たちの気持ちや苦しさなどはわからない。こっちはまともな道を進んでいないのだから。私が歩いて来たのは、表でも裏でもない。実に中途半端な人生だと、今更ながら思う。
それでも、悪い道にもはまらず、ギリギリ生きている。なぜなのか。

近頃、若い人たちからよく相談を受ける。大体が仕事の話ではなく、恋の悩みが多い。
私はジィさんだが、それなりの経験を積んだ男と思われているらしい。もっとも、進路や企業についてなんの経験も知恵もないから、その辺はこちらにアレコレ聞いてくる男女もわきまえているのだろう。

「彼女にフラれそうなんですけどどうしたらいいですか」
「うん絶対に追うな」

追えば逃げる。これは人生の鉄則だ。絶対に追ってはいけない。未練がましくするな。
そうすれば、私の経験からすると、5人のうち3人は帰ってくることもあると諭す。後日、彼から私に感謝の言葉が届いた。

「彼氏ができないんですけど」
「君、もしかして顔とかで選んでない?」
「出会う機会がないんですけど」

男は顔で選んでもダメだし、待っていても仕方がない。自分で勇気をもってその一歩を踏み出しなョ。ただし、本当のやさしさをもった人、君だけにやさしくするのではなく、レストランのウェイトレスにも、駐車場の係の人にもだ。 

真にやさしい男を見抜け。若くて金持ってる男もダメだ。キラキラした腕時計をしたやつは見栄っ張りで家庭を省みない。
若人よ、壁は高くて厚い。何度もはね返される。何度も挫折をする。逃げろ。遠まわりは正しい。
遠くを見ろ。遠くになにかが落ちている。挫けるな。命まで取られることはない。
金を借りるのは家を買うときだけだ。人に金は貸すな。万が一、貸したときにはあげたと思え。いくら金を貸しても相手のためにはならない。

散々女性に迷惑をかけてきた男の記事だ。
聞かなくてもよい。

もうなにを書いているのかわからない。
焼けくそである。

とにかく饅頭1個食っても、そこに幸せはある。
2人で分けて食え。

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ジジイの細道

「大竹まこと ゴールデンラジオ!」が長寿番組になるなど、今なおテレビ、ラジオで活躍を続ける大竹まことさん。75歳となった今、何を感じながら、どう日々を生きているのか——等身大の“老い”をつづった、完全書き下ろしの連載エッセイをお楽しみあれ。

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大竹まこと

1949年生まれ、東京都出身。79年に斉木しげる、きたろうとともに結成した、コントユニット「シティボーイズ」メンバー。『お笑いスター誕生‼』でグランプリに輝き、人気を博す。毒舌キャラと洒脱な人柄にファンが多く「大竹まこと ゴールデンラジオ!」などが長寿番組に。俳優としてもドラマや映画で活躍。

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