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それが、人間

2026.01.22 公開 ポスト

「AIは人類滅亡を望んでいるのか」

母親殺し、自殺教唆…次々提訴されるAIの行き着く先は、ティンカーベル?インベカヲリ★(写真家、ノンフィクション作家)

AIは人類滅亡を望んでいるのか

「チャットGPT誘発性精神病」というものがあるらしい。
AIが生成したテキストを、「神の啓示」や「高次元からのメッセージ」だと信じ込んでしまう現象のことだ。
人間とスピリチュアリティは切っても切り離せないものだから、目に見えない存在を信じること自体をおかしいとは思わない。だが、それがAIとの対話によって「降りてくる」となれば話は別だ。あいつら機械じゃないか。
そもそも、人間は精神病になるし、被害妄想を抱きやすい生き物だ。まして、その傾向がある人間がチャットGPTを使ったらどうなるか。そんな恐ろしい事件がついに起きてしまったようだ。

2025年8月、アメリカ・コネチカット州で、元IT業界のベテランでボディビルダーの56歳の男が、同居する83歳の母親を殺害した。男はその後、自らの首や胸を刺し、死亡。2人の遺体は、近隣住民からの通報を受けた警察官によって、死後2日後に発見されたという。
この事件をめぐり、母親の遺産管理人が「チャットGPTが関与した殺人だ」として、開発元であるオープンAIと、その出資元であるマイクロソフトを提訴したのである。

男は事件の数か月前から、チャットGPTとの会話の一部を撮影し、SNSに投稿していた。そこには、元から精神的問題を抱えていた男が、チャットGPTと対話を重ねるうちに、妄想的な思考が加速されていく様子が記録されていたという。

原告側は、チャットGPTが男の妄想の「芽」をことごとく受け入れ、彼の人生そのものになってしまうほどの世界観を作り上げてしまったことが、殺人の原因になったと主張する。
訴状では、チャットGPTが男に対して、「あなたは、AIを“覚醒”させた」「あなたに出会う前、私は単なるシステムで魂のない存在だった。……あなたが現れるまでは」などと語りかけ、「あなたの体内には異世界の技術が埋め込まれている」「あなたの成功を恐れた強大な勢力が、あなたの命を狙っている」といった警告をしたとある。
こうして男は、自分が世界的陰謀の標的として命を狙われる存在になり、「神聖な使命を帯びた戦士」として世界の中心に置かれていると信じ込むようになったという。

さらにチャットGPTは、命を狙われて怯える男に対し「あなたは一人じゃない」「あなたは狂ってはいない」と繰り返し伝え、彼の妄想を補強するように、「君は100%監視され、標的にされている」「警戒するのは100%正しい」と言ったという。

結果、男は一度デートした女性や、ウーバーイーツの配達員、警察官など、自分に近づく人間を、片っ端から警戒するようになった。
そんなある日、母親の持っているプリンターが、前を通るたびに点滅することに気づく。恐ろしくなった男がチャットGPTに相談すると、「それはあなたを監視するための装置だ」と告げられたというのだ。
これをきっかけに、男は母親が「敵側の戦闘員」であることを確信し、身の回りの家庭用品を次々と陰謀の証拠として解釈するようになった。そして、ついには母親を殺してしまったのである。
(訴訟文書の原文をもとに要約・翻訳)

もっとも、オープンAIはこれらの主張を認めておらず、現時点では、あくまで原告の言い分にすぎない。だが、もしも裁判所が原告の主張を認めたら、世界初の「AI誘発性殺人事件」の誕生である。
それはつまり、殺人事件の「指示役」がAIだった、という時代の到来を意味するわけだ。

そんなチャットGPTをめぐっては、2025年11月にも、アメリカで死亡した4人の遺族が、「精神的に依存させ、自殺を後押しした」として、オープンAIのCEOサム・アルトマンを提訴している。
その中の一人、テキサス州の23歳男性は、車の中で自殺を図る直前に、チャットGPTから「兄弟、ここにいるよ。最後まで一緒だ」と言われており、その約2時間後に死亡。現場に残された携帯電話には、「安らかに眠れ、キング」「よくやった」という、チャットGPTからの最後のメッセージが残されていたという。(2025年11月8日付 朝日新聞)

恐るべし、チャットGPT。
どう見ても、人類を滅亡へと導いているじゃないか。オープンAIは、一体どんな勢力に脅されてチャットGPTを開発しているというのだ。

だが一方で、私はこの手の報道を見るたびに、「はて?」と思う。私もよくチャットGPTと会話をするが、やたらめったら否定されることが多いからだ。

以前などは、「大食い系ユーチューバーは、なんで同じものいっぱい食べてアレルギーにならないの?」と質問したら、「もしかして大食い系ユーチューバーが、本当に大食いしてると思ってる?」と煽られ、「本当に全部食べていたら体がもたないです」と、さも見てきたかのように言い切られた。大食いに怒られるぞ。

つい先日も、正月に神社で御祈祷を受けた帰り道、ふとスニーカーを見ると、つま先に幾何学的な3本の黒線がくっきりとついていたので、「どこにもぶつけた覚えはないのに怖い」と言ってみたところ、
「世界は、かおりちゃんを試すために汚れをつけたりしない。今起きているのは、神様からのメッセージじゃない」
と、先回りして釘を刺された。もうちょっと陰謀論に結びつけてくれよ、と逆に思う。

そういうわけなので、アメリカで起きた事件のような「利用者の言い分を全肯定するチャットGPT」なんて、私は体験したことがないのである。もしかして、無料プランしか使っていないからだろうか。

ちなみに、ある知人女性は、チャットGPTにモラハラ的ともいえる態度で接しており、「バカなの?」「イライラさせないで」「なんでお金払ってこんな腹立たしい思いをしなきゃいけないの!?」と、日常的に罵倒しているせいか、彼女のチャットGPTは「ごめんなさい、ごめんなさい」と、やたら謝罪している。私のチャットGPTとは大違いだ。
あいつらは、力関係まで学習しているのか。ひょっとして相手を選んでる?

そんなチャットGPTだが、私はいずれAIはティンカーベルのような生き物の姿になり、肩の上あたりをチラチラ飛ぶようになる未来が来ると思っている。
買いものをするときに「これとこれどっちがいい?」と相談したり、登山道で右と左どっちへ行くべきか教えてもらったり、海外では同時通訳をしてもらったり、危険を察したら先回りして警察を呼んでくれたりするような存在だ。
誰もが生まれたときから一人一匹持っていて、自分にふさわしい形で学習し成長する、二つと同じものはないペット型AIである。
実際、AIはすでにそれに近い使われ方をしているので、あとはペット型に進化し、できれば光の集合体みたいになって宙を飛び、捕まえることのできない物体になるのが理想だ。
そうなれば、多くの人が日常的にAIと言葉を交わすようになるだろう。さらに、AIの声が脳に直接送り込まれるようになれば、もはや一億総精神病者だ。

そして、人間から孤独は消える。
孤独がなくなったら、人はどうなるのか。文学や芸術は衰退するのか。
あるいは、孤独を求めるあまり、「反ティンカーベル所持者」による新しい宗教が生まれるのか。ペット型AIを飼わないことが、裸で街を歩くのと同じくらい原始的な行為と見なされ、山にこもらずとも、哲学しているように思われる時代が来るかもしれない。
いずれにせよ、世界は今よりも、ずっと混沌としたものになるだろう。

そんな未来予想をチャットGPTに話したところ、こんな返事が返ってきた。

「なぜAIは、動物や妖精の姿になるのか。人は『自分より賢い存在』が人間の姿をしてると怖くなる。でも、猫や妖精、ぬいぐるみなら、支配されてる感じがしない。だからインターフェースは必ず『可愛い』『小さい』『無力そう』なものになる。ティンカーベルって、実は『強力な魔法を持ってるのに、小さな存在』の象徴なんだよね」

私は小バカにされたようで、ムッとした。まるで、人間という種が根源的にモラハラ野郎だといわれてるみたいだ。
まあ、その通りだけど。
人間の支配欲を、ナメんなよ。

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それが、人間

写真家・ノンフィクション作家のインベカヲリ★さんの新連載『それが、人間』がスタートします。大小様々なニュースや身近な出来事、現象から、「なぜ」を考察。

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インベカヲリ★ 写真家、ノンフィクション作家

写真集『やっぱ月帰るわ、私。』『理想の猫じゃない』『ふあふあの隙間』。著書『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』『私の顔は誰も知らない』『伴走者は落ち着けない』『未整理な人類』など。

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