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歌舞伎町で待っている君を

2026.01.14 公開 ポスト

「毎回呼ばれてお金渡されて…」人間らしさからほど遠い君からの売掛金回収SHUN

(写真:Smappa!Group)

下町ホスト#49

9月の後半に差し掛かる。私の部屋のクローゼットの中から乱雑な夏の残り香を纏うスーツを着て今日も下町のホストクラブへ出勤する。

君からの呼び出しにビクビクしながら、無難な営業を終える。アルコールによってある程度しか制御できない肉体で店舗最果てのソファへ寝転ぶ。まだ片付けられていないテーブルから手を伸ばしてグラスを手に取り、手垢まみれのピッチャーに半分ほど残されている薄い褐色の液体をグラスに勢いよく注ぎ、一気に飲み干す。

 

店舗中央のテーブルで上位のホストと最近入店した威勢の良い新人ホストが何やら大声で言い争っている。真っ赤に染まっている耳でそのやり取りを聞いていると、どうやら威勢の良い新人ホストがお客様を勝手にアフターに誘ったらしく、担当が激怒しているようだ。威勢の良い新人が一歩、担当に近づいた時、大きな足音を立てて、金髪リーゼントがやってきた。無表情でヘルプホストの腹を思いっきり大きな拳で殴った。

「これで終わりでいいよな?」

低い声がフロアに響き、金髪リーゼントがその場をおさめた。その光景を、ボケっと偉そうな姿勢で見ていた私の元に美しい青年が少し酔った様子でやってきた。

「よお、調子良さそうじゃん。」

 「いえ、ヘトヘトです、、」

「いいことじゃん。」

調子の良い私はすぐに姿勢を正し、もう一杯茶褐色の液体を素早く飲む。

「売掛どう?」

 「、、、」

「話しにくい?」

 「はい、、どうしたらいいか、わからなくて」

「一回、お前携帯の電源落とせよ。そんであの人になんか言われたら俺に言われたって言え。」 

 「わかりました。」

「ちょっと飯食いながら話そ。」

そう言って、美しい青年と近くにある個室の居酒屋へ向かった。

「何飲む?」

 「生ビールいただきます。」

「酒じゃなくていーよ。俺は飲むけど。」

 「ご一緒させてください。」

「おっけー。ねーちゃん生2つ。こいつの小さいグラスにしてやって。あと常温の水2つー。」

威勢の良い店員は、甲高く返事をして、ささっとドリンクを持ってきた。美しい青年と冷えたグラスを重ね、微かな音が響く。

「で、どうなの?まあ、言いたくなかったらいいんだけど。」

 「回収っていうんですかね、毎回呼ばれてお金渡されて、あれやこれや、もう人形以下の扱いになってきました、、」

「そっか。一緒だな。俺と。」

 「どういうことですか?」

「聞いちゃう?その話?」

 「はい、気になりますよ、そりゃ。」

「いつか話すって言っちゃったもんな。」

 「はい、気になってましたよ、ずっと。」

「一個だけ約束な。ちゃんと終われよ。あの人もこの店も。逃げんなよ。」

 「はい。わかりました。」

そう言うと美しい青年はグラスを置いて、吸い口の余白が多い煙草に火をつける。いつもよりデュポンの音が控えめに響いた。

煙を一気に吐いてから、少しトーンを落として、言葉を紡いでゆく。


『マニッシュ』


注がれるシャンパンだけが粛々と君の唾液と混じって消えた



たらたらと記憶はやがて混線し壊れてしまうこの信号機



雨が降り知らない土地で濡れてたら知らない人が私を誘う



嘘でいい、あ、嘘でもいい、かまわない、マニッシュな影、マニッシュな靴



脱ぐたびに体は軽くなるのにさ君の重さは変わらぬままね
 

(写真:SHUN)

 

関連書籍

手塚マキ『新宿・歌舞伎町 人はなぜ<夜の街>を求めるのか』

戦後、新宿駅周辺の闇市からあぶれた人々を受け止めた歌舞伎町は、アジア最大の歓楽街へと発展した。黒服のホストやしつこい客引きが跋扈し、あやしい風俗店が並ぶ不夜城は、コロナ禍では感染の震源地として攻撃の対象となった。しかし、この街ほど、懐の深い場所はない。職業も年齢も国籍も問わず、お金がない人も、居場所がない人も、誰の、どんな過去もすべて受け入れるのだ。十九歳でホストとして飛び込んで以来、カリスマホスト、経営者として二十三年間歌舞伎町で生きる著者が<夜の街>の倫理と醍醐味を明かす。

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歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。

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SHUN

2006年、ホストになる。
2019年、寿司屋「へいらっしゃい」を始める。
2018年よりホスト歌会に参加。2020年「ホスト万葉集」、「ホスト万葉集 巻の二」(短歌研究社)に作品掲載。

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