年末恒例の「アルパカ通信幻冬舎部年末特別編」。今年2025年は、文芸の、書店界では、どんな1年だったでしょうか?ーーブックジャーナリスト・アルパカ内田さんと幻冬舎営業局のコグマ部長が、この1年を振り返ります。(全3回)
元書店員のアルパカ内田さんは、毎年何百というPOPを手書きで作るほどの本読み。当然、内田さんの元には、さすが、書店やイベントの情報もたくさん入ってくるようで、あちこち足を運んでいるようです。最新の動きについて、聞いてみました!
(構成:篠原知存)
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オリジナルイベントが盛況
アルパカ 紀伊國屋書店が国内一〇〇店舗を達成したのが話題になりましたね。二、三年前に「一〇〇周年に向けて一〇〇店舗を目指す」ってニュースが出た時は「そんなに増えるの?」と思っていましたが、到達しちゃいました。
コグマ グループ入りした京王線沿線を中心に展開する啓文堂書店が順次、紀伊國屋書店に店名変更されていますし、旭屋書店も紀伊國屋の子会社になっています。違う書店だと思っていた人にとっては、みんな紀伊國屋になるというのは驚きかもしれないですね。書店全体で見ると、全国的には書店数の減少傾向は続いてますし、売上額も低下しています。そんな中で、高輪ゲートウェイ駅前の大型書店「BUNKITSU TOKYO」の開業は一大ニュースでした。
アルパカ 僕も行ってみて震えました。〝文喫〟って、シェアラウンジとか有料の図書室というイメージでしたが、高輪のお店は一般客が入れる書店のゾーンがすごく広くて、一〇万冊の品揃えだそうです。店舗数も減って、独立系書店とか、シェア型書店とか、無人店舗とか、コストカットの傾向も強まっているなかで、超大型店舗の登場は業界を驚かせましたね。
コグマ とはいえ地方では引き続き閉店が目立っていて、体力が本当にもう限界に来ている印象があります。人件費が厳しいという声をよく聞きます。
アルパカ 京王井の頭線・浜田山駅前の本屋さん「サンブックス浜田山」が二〇二五年八月に閉店したのもショックでした。地域で愛されていた書店も消えていく。
コグマ 私たちも前向きになれるようなニュースを出していきたいですね。三省堂書店神保町本店のリニューアルオープンにも期待しています。
アルパカ 開店は二〇二六年三月ですね。以前は一階から六階まで書店でしたが、今度は三階までなので、いかにスペースを圧縮しながら魅力的な売場づくりをしてくれるか、注目しています。
コグマ 二〇二四年もこの企画で話題になりましたが、お祭りやイベントで本が売れるという現象はより顕著になっています。「神保町ブックフェスティバル」は残念ながら雨で中止されましたが、「KYOTO BOOK PARK」はすごく人を集めていました。「京都ブックサミット」として始まったイベントが二〇二五年は名前を変えて開かれて、出版社も七〇社ぐらい集まったそうですね。
アルパカ 回を重ねるごとに人気が高まっていて、ブースも増えてイベントも華やかになっています。僕もいくつかイベントをご一緒させてもらいましたが、阿部暁子さんや澤田瞳子さん、森見登美彦さんら、著名な作家さんも参加されていました。「京都本大賞」を万城目学さんが受賞したので、万城目さんと森見さんのツーショットが実現したというのは、ちょっとしたトピックでした。京都はいろいろな作家さんがいらっしゃいますし、物語の舞台にもなっている。本の文化が根付いていますね。
コグマ 京都は自治体も出版文化の振興に熱心ですね。文化庁も移転しましたし。
アルパカ そうですね。書店商業組合も一所懸命になっている感じがします。京都府内の書店と図書館でスタンプラリー企画をやっていて、それもいいですよね。
コグマ 書店の場合、番線印といって、書店を特定するコードが入った印鑑でスタンプするんですよね。本屋さんが出版社に注文するときに注文書に押すためのものです。たしかに面白いですね。
アルパカ 巡回開催している文学フリマも、とんでもないことになっています。同人誌やオリジナル作品を即売するイベントですが、二〇二五年一一月の東京はブースが三八〇〇ほど出ます。入場料一〇〇〇円(前売)でも入場規制がかかるぐらいの一大イベントに成長しています。素人さんが趣味で書いた本が並んでいて、お祭り感覚で楽しむというのが以前のイメージだったんですが、いまではプロの作家さんたちも参加していて、個人的に書いたものを一冊にして販売したり、大人気になっている。そこでしか手に入らないような小冊子やグッズはみんな欲しいですよね。新しい読者をつかむとか、ファンの方に恩返しをするとか、いわゆる「推し活」に対応する場所になってきている。
コグマ 漫画でいうコミケ(コミックマーケット)に通じるところがありませんか。
アルパカ その通りですよ。そもそも文芸書自体が専門書っぽくなっています。本を読んだり、本の話をする人が変わり者だと思われる。そういう時代になってきた。でもそれは悪いことではないと思っています。広く浅く売れた時代が終わって、狭いけど深く伝わる時代になったとも言えます。本を読まない人がたくさんいるのは寂しいですが、強制するものでもないですしね。好きなものに投げ銭をする、欲しいものにはお金を払うという人が増えるのはいいことですよ。そういう傾向も含めて、イベントがより注目されるようになってきましたね。
コグマ 文フリのような大きなものだけでなく、全国各地で、街ごとの小さなイベントも盛んになっています。
アルパカ 本屋さんと図書館の連携も進んでいます。図書館のせいで本が売れないと言われたりもしますが、図書館で本屋大賞の読書会をしたら、地元の本屋さんが来て、「帰りに買ってくださいね」と受賞作やノミネート作を並べて売っていました。そういうことが当たり前になってきた。
コグマ 宮崎市が一八歳以下の子供に一人五〇〇〇円分の図書カードを配付しましたけれど、それに合わせて書店も図書カードを使ったらポイントを二倍にしたりして盛り上げている。書店のワクワクする感じを子供に味わってもらうって、とてもいい取り組みだと思います。本屋さんに行って何を買おうかって探し歩くだけでも楽しいんですから。
アルパカ ほんとその通りですね。本を探したり選んだりすることの楽しさを知らないまま大人になっちゃう人が多いので、これからの読者である子供を本屋さんに引き込む努力は必要です。いろいろな形の、作家、書店、出版関係のイベントが増えてきた。この流れは広げていきたいですね。
コグマ 出版点数は相変わらず多いわけですけれど、二〇二五年の傾向として分厚くなっていませんか?
アルパカ たしかに。五〇〇ページ、六〇〇ページ超えてきますね。いろんな理由があると思うんですけど、コロナ禍で止まっていた大型企画が、ちょうど刊行されたりしているのかな。
(第3回へつづく)
アルパカ通信 幻冬舎部

元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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