おひとりさまブームで増え続ける独身人口。しかし“身元保証人”がいない高齢者は、入院だけでなく、施設への入居を断られることも多いそう。
さらに認知機能の低下で金銭管理が怪しくなり、果ては無縁仏になるケースも……。
「おひとりさま高齢者」問題研究の第一人者、沢村香苗さんが上梓した幻冬舎新書『老後ひとり難民』より、一部を抜粋してお届けします。
* * *
2000年まで「介護」の概念は一般的ではなかった
「老後ひとり難民」の問題を考えていくための前提として、今の高齢者を支える「公的制度」について確認しておきましょう。
高齢者を支える公的制度として誰もが真っ先に思いつくのは、介護保険制度でしょう。
健康保険や年金保険、雇用保険、労災保険などと並ぶ社会保険の一つとして介護保険がスタートしたのは、2000年のことでした。
皆さんは、介護保険制度が導入された当時、「介護」という言葉自体が“新しい概念”だったことをご存じでしょうか。
かつての日本では、寝たきりの高齢者などは、主に家族が世話をするか病院に入院し続けるケースが多かったのです。
いわゆる「老人ホーム」はありましたが、イメージが悪く、「そういった施設にだけは入りたくない」と考える人も少なくありませんでした。
しかし、治療の必要がない患者が長期間入院し続ける「社会的入院」は、医療費増大の要因の一つとして無視できなくなっていました。
また、高齢化の進展にともない、ケアが必要な人を家族だけで支えるのが難しいケースも顕在化してきました。
こうした状況を受け、医療とは異なる「介護」という枠組みが作られ、介護を必要とする高齢者を支える仕組みとして介護保険制度が導入されたのです。

保険料を払っているのに「介護保険を使いたくない」という人たち
介護保険については、健康保険や年金保険と比べると、誤ったイメージを持つ人も少なくないように思います。
そもそも社会保険とは、加入者が保険料を支払うことで、病気やケガをしたとき、高齢になって収入を得るのが難しくなったとき、介護が必要になったときなどのような「困る場面」で必要な給付を受けられるというものです。
たとえば健康保険なら、原則として健康保険に加入している人は保険料を支払っており、医療機関にかかった際の費用の一部(通常は7割)を保険から給付してもらえます。窓口で負担するのは3割です。
年金保険であれば、20歳以上60歳未満のすべての人が国民年金に加入して保険料を支払っており、老後は基礎年金を受給することができます。
保険料を払っているのですから、「健康保険は使いたくない」という人や「年金は要らない」という人はいないでしょう。
ところが介護保険となると、「介護保険を使いたくない」という人がいるのです。
介護については「誰かのお世話になる」というイメージがあるためか、「人の世話になるのは申し訳ない」「介護を受けるなんて恥ずかしい」といった気持ちになってしまうのかもしれません。
しかし、私たちは40歳から介護保険料を支払っています。健康保険や年金保険を使うのと同じように、介護保険を使うのは当たり前のことです。
病気になったりケガをしたとき、病院で健康保険を使って医療のプロフェッショナルから治療などを受けるのと同様、介護が必要になった場合は、介護保険を使って介護のプロフェッショナルから介護サービスを受けるものなのだということを知っておいたほうがいいでしょう。

介護保険を使うと、こんなサービスが受けられる
では、介護保険では具体的にどのような給付が受けられるのでしょうか。
実は、制度が設計された当時はさまざまな議論がありました。たとえば、年金保険で年金が給付されるように、介護が必要になった際に介護費用を現金で給付するというのも一つの考え方でしょう。
実際の日本の介護保険では、現金を給付するのではなく、民間事業者による介護サービスを給付する仕組みが採用されました。利用者は、所得にもよりますが、原則として1割負担で介護サービスを利用できるのです。
介護保険で受けられる給付には、大きく分けて(1)居宅サービス、(2)地域密着型サービス、(3)施設サービス、(4)介護予防サービスがあります。
(1)の居宅サービスには、福祉用具の貸与・購入、訪問介護(ホームヘルプ)、訪問入浴介護、訪問看護、通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デイケア)、短期入所生活介護(ショートステイ)などがあります。
たとえば訪問介護では、ヘルパーが自宅を訪問し、食事や入浴、排せつなどの身体介護や、掃除、洗濯、調理などの生活援助を行います。
通所介護では、デイサービスセンターなどの施設に通い、入浴、食事、レクリエーションなどのサービスを受けられます。
(2)の地域密着型サービスには、「小規模多機能型居宅介護」や「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」などがあります。小規模多機能型居宅介護は、通い、訪問、泊まりを組み合わせたサービスを、住み慣れた地域で受けられるのが特徴です。
認知症対応型共同生活介護は、認知症の方が少人数で共同生活をしながら、家庭的な環境のなかで介護サービスを受けられます。
(3)の施設サービスには、「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」や「介護老人保健施設(老健)」、「介護医療院」などがあります。
特別養護老人ホームは、常時介護が必要で、自宅では介護が難しい方が入所する施設です。介護老人保健施設は、病状が安定し、リハビリに重点を置いたケアが必要な方が入所する施設です。介護医療院は、長期の医療と介護が必要な方が入所し、日常的な医学管理や看取り・ターミナルケア(緩和ケア)を受けられる施設です。
(4)の介護予防サービスは、要支援1、2と認定された方を対象に、居宅サービスや地域密着型サービスの“介護予防版”が提供されます。たとえば、介護予防訪問介護、介護予防通所リハビリテーション、介護予防小規模多機能型居宅介護などがあります。

これらのサービスが1割の費用負担で受けられるというのは、介護が必要な方にとって大きな支えになります。
「1割負担といっても、頻繁に使うようになったら払えるだろうか」という心配もあるかもしれませんが、利用者負担には上限が設けられています。これを「高額介護サービス費」といい、所得に応じて上限額が設定されています。上限額を超えた分は、あとで払い戻されます。
また、施設サービスを利用する場合は食費と居住費(滞在費)は自己負担となりますが、低所得者に対しては食費・居住費の補助制度もあります。
介護保険サービスの利用者負担は、利用者の負担能力に応じて設定されており、過度な負担にならないよう配慮されているのです。
* * *
「老後ひとり難民」に起こりがちなトラブルを回避する方法と、どうすれば安心して老後を送れるのかについて詳しく知りたい方は、幻冬舎新書『老後ひとり難民』をお読みください。












