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棺桶まで歩こう

2025.12.29 公開 ポスト

家族ぐらいは「がんばってるね」と言ってあげよう  緩和ケア医が見てきた、《生きる力》の守り方萬田緑平(在宅緩和ケア医)

不健康寿命が延び、ムダな延命治療によってつらく苦しい最期を迎えることへの恐怖が広がる今、「長生きしたくない」と口にする人が増えています。先行き不透明な超高齢化社会において、大きな支えとなるのが、元外科医で2000人以上を看取ってきた緩和ケア医・萬田緑平先生の最新刊『棺桶まで歩こう』です。

家で、自分らしく最期を迎えるために、何を選び、何を手放すべきか。本書から、一部をご紹介します。

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家族ぐらいはがんばっている姿を認めてあげよう

若くても歳をとっていても、スポーツに勉強に、仕事に、みんなそれぞれの限界までがんばっています。ただ、がんばれない人はいます。もう脳が「がんばれない」のです。一番つらいのは、がんばれない人にがんばる方法を教えてしまい、家族が患者に「ほら、萬田先生がやれって言ったでしょ」となってしまうケース。「みんなおんなじだけがんばる」ということはあり得ません。

年齢とともに気力が下がっていくのが当然なのですから、がんばれなくとも家族ぐらいは「よくがんばってるね」と認めてあげましょう。

入院している患者さんで、家族から「歩けるようになったら帰ってきていい」と言われるが、がんばれずに亡くなっていく人が多いのです。

だから家族に必ず伝えるのは、「がんばり方は教えますけど、絶対に強要しちゃいけませんよ」ということです。約束するけれど、たいてい家族はその約束を破ります。「やらせて」しまうのです。けれど、勉強もスポーツも仕事も、そしてリハビリも、やらされてうまくいくことはまずありません。できない人に教えるとつらいことになるので、その見極めには気を付けています。

みんな、がんばりたいけれど、がんばれないのです。誰しも勉強したい、だけど勉強できない。もっと仕事して給料をたくさんもらいたいけれど、できないのです。みんなが東大に行って、みんなが社長になるなどあり得ないのですから。

だからせめて親だけは、家族だけは、その人に「がんばってるね」と認めてあげましょう。「がんばっていない」ように見えるかもしれないけれど、それは他の「がんばってる人」を基準に見ているだけなのです。「がんばっていない」人でも、その人の中では十分がんばっているのかもしれません。

「おまえはよくがんばってるね」と、親ぐらいは認めてあげればいいのではと思いますが、どうもそうはいかない家族が多いのです。親のほうが「がんばれ、がんばれ。なんでもっとがんばれないんだ」となってしまう。

勉強、スポーツ、仕事、何でもそうですが、リハビリもそうです。リハビリの場合は、子どもや配偶者が「もっとがんばれ」になってしまう場合がほとんどです。

でもたいてい本人は、ぎりぎりまでがんばっているのです。それなのに「なんでがんばれないの」と、家族が言ってしまう。すると何よりも、心の状態がぐんと下がってしまうのです。これが一番よくありません。

家族ぐらいは「がんばってるね」と認めてあげればいい。がんばり方は違うけれど、「私はこれでいい」という心を応援してあげればいいのです。

なぜなら誰かの言う通りにしていたら、人生すべてうまくいくわけではないのですから──。基本は、「本人の好きなように」です。

背筋を伸ばしてかっこよく座れますか?

また、体幹の持久力も大事です。いくら足に筋肉がついても、体幹がフニャフニャではきちんと歩けません。

歳を重ねて身体が弱ってくると、疲れやすくなります。

しだいに「歩くと疲れる」「座っているのも疲れる」となり、横になっている時間が増える。すると、動かないからさらに身体が弱るという悪循環に陥り、ついには寝たきりになってしまいます。

そもそも「疲れる」のは身体全体の問題ではなく、体幹の筋肉の持久力が衰えていることが大きな理由です。人が座る、立つ、歩くためには、背筋を伸ばして座るための体幹の筋肉、身体を垂直に起こしておくための筋肉が必要なのです。

体幹の筋肉を鍛えるためには、何かにもたれたりせず、背筋を伸ばして座っている時間をできるだけ延ばすこと。筋肉をつけるには時間がかかりますが、持久力の回復はさらに時間がかかります。

20代、30代の若いうちから、歩く習慣をつけることも大事ですが、背筋を伸ばしてどれくらい座っていられるかを意識してみましょう。すぐ「疲れた」と言う人は要注意。背筋をピンとしていられれば、すぐに「疲れた」と言わない身体になる。何かに寄りかかってばかりいたら、すぐ疲れる身体になります。

何より、背筋がピシッとしているとかっこいい、美しいのです。今さら、目鼻立ちを美しくすることはできないけれど、背筋を伸ばすことはできます。ピシッとしていれば、それなりに美しく見えます。

逆に、いくら目鼻立ちがよくても、背中を丸めて「ああ疲れた」と歩いていたら、かっこわるいでしょう。

何歳の方だとしても、「長く歩けるように、長生きしたい」より、まずは「美しく、かっこよく、魅力的になりたい!」という目標が楽しくないでしょうか。そのためには、ピシッとしている時間が長ければ長いほどいい。

誰とも会わない生活をしているなら、どう見られようとどうでもいいかもしれません。けれど、ほとんどの人は、誰か他人と触れ合うし、家族もいるでしょう。子どもや孫がいたら、かっこいい「お父さん、お母さん」、かっこいい「おじいちゃん、おばあちゃん」のほうがずっといい。仕事の面でも、生活の面でも、魅力的なほうがいいに決まっています。

強がって、がんばって、かっこよく見られたいなら、「ピシッと背筋を伸ばそう!」。

大股でゆっくり、理想は速く歩こう

背筋がビシッと決まったら、できるだけゆっくり、大股で歩くことが大事です。外来でも、速く歩こうとする「ちょこちょこ歩き」の人には、「もっとゆっくり、もっとゆっくり」と言います。

「ちょこちょこ歩き」では、なぜいけないのか。歩幅と寿命は相関するのです。「ちょこちょこ歩きは歩けなくなる手前だから、棺桶に入る一歩手前。『棺桶歩き』だよ」と、僕は患者を脅かす……いやいや励まします。

なぜ「ちょこちょこ歩き」ではダメなのか。

一歩一歩、ゆっくり歩いてみてください。片足で立っている時間がほとんどで、両足が地面につくのは一瞬です。「歩く」ということは、片足ずつ、右、左と交互に体重を乗っけて進むわけです。だから、片足で立てない人、立つ力が弱い人は片足の時間を短くするために、「ちょこちょこ」っと歩くしかない。結果として、ちょこちょこ歩きの人は、ようやく立ち上がれるくらい、または立ち上がれない人が多いのです。

大股でゆっくり歩ける人には、さらに上の歩き方を指導します。お尻の筋肉を使って歩く歩き方です。これは、患者さんに指導するかたわら患者さんの家族、特に娘さんなどにもよく指導します。「かっこよく歩くともてるよ、スタイルも綺麗に見えるよ」と言っています。

僕の患者にはあまりいませんが、もちろん、一番難しいのは「大股で速く歩ける」。みなさん、できていますか。

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最期まで自分らしく生きたい方、また“親のこれから”を考えたい方は、幻冬舎新書『棺桶まで歩こう』をお読みください。

関連書籍

萬田緑平『棺桶まで歩こう』

歩けるうちは、人は死なない 長生きしたくないという高齢者が増えている。 不健康寿命が延び、ムダな延命治療によるつらく苦しい最期は恐ろしいと感じるからだ。 著者は2000人以上を看取った元外科医の緩和ケア医。 「歩けるうちは死にません」「抗がん剤をやめた方が長く生きる」「病院で体力の限界まで生かされるから苦しい」「認知症は長生きしたい人にとって勝ち組の証」「ひとり暮らしは、むしろ楽に死ねる」など「延命より満足を、治療より尊厳を」という選択を提唱。 医療との向き合い方を変えることで、家で人生を終えるという幸せが味わえるようになる! 2000人の幸せな最期を支えた「在宅」緩和ケア医が提言 病院に頼りすぎない“生ききる力”とは?

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棺桶まで歩こう

体力も気力も衰えを感じる高齢期。「長生きしたくない」と口にする人が増えています。
不健康寿命が延び、ムダな延命治療によって、つらく苦しい最期を迎えることへの恐怖が広がっているからです。そんな“老いの不安”に真正面から応えるのが、元外科医で2000人以上を看取ってきた緩和ケア医・萬田緑平先生の最新刊『棺桶まで歩こう』です。

家で、自分らしく最期を迎えるために――いま何を選び、何を手放すべきか。
本書から、一部をご紹介します。

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萬田緑平 在宅緩和ケア医

「緩和ケア 萬田診療所」院長。1964年生まれ。
群馬大学医学部卒業後、群馬大学医学部附属病院第一外科に勤務。手術、抗がん剤治療、胃ろう造設などを行う中で、医療のあり方に疑問を持つ。2008年から9年にわたり緩和ケア診療所に勤務し、在宅緩和ケア医として2000人以上の看取りに関わる。現在は、自ら開設した「緩和ケア 萬田診療所」の院長を務めながら、「最期まで目一杯生きる」と題した講演活動を日本全国で年間50回以上行っている。
著書に『穏やかな死に医療はいらない』(河出書房新社)、『家で死のう! 緩和ケア医による「死に方」の教科書』(三五館シンシャ)などがある。

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