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あぁ、だから一人はいやなんだ。

2025.12.15 公開 ポスト

第260回 ハーモニカ<後編>いとうあさこ

それにしても今回のハーモニカ、ホント「思っていたのと違う」事多し。そもそも知っているハーモニカじゃなかったところは前回聞いていただきましたが、意外に盲点なのが、重さ。重いんです、クロマチック。まあ本当に重いとなるとバスですけどね。だって1.5㎏もあるそうで。しかも低音のものって、めっちゃ吹かないと音が出ない。1.5㎏の楽器を持って、腹筋フルパワーで息を入れていく。ものすごい仕事量です。そんなバス担当のゆいPとまひるからしたら、「クロマチック? 小指で持てますわ」だと思います。でもね、“思ったより”重い。量ってみました。“すみれ組”のハーモニカ、61g。今回のクロマチックハーモニカ、360g。1.5㎏を前にしたら、ではありますが、そんなわけで“思ったより”重いんです。更に大変なのが、マイクも持って演奏すること。右手はレバーを押すのでハーモニカ専門ですが、左手。親指と人差し指でハーモニカを支え、残りの3本指でマイクの丸いところを握る。しかもマイクの向きもハーモニカの、私からしたら“向こう側”に直角に当てなくてはならない。上から見たら“T”の字になっている感じ。その位置にキープするのも大変で。あ、マイクも“重い”ですから、ええ。手汗もかいて滑るだろうし、スタンドマイクに近づけて吹くじゃダメか聞いたけど、“かっこよさ”なども含め、そのスタイルで、と。「途中で投げ捨てたくなる可能性ありますよ」とオカリナ。うん、だね。

そんなこんなでとにかく練習あるのみ。私の練習場所はもっぱら各局の楽屋か車の中。一度、トランプ大統領が来日中のこと。文化放送のラジオ後、芝公園から高速に乗ろうと思いまして。この頃、警備の為に入口が半分閉鎖されている所も多く、ここもそうだった。でも入口にいたお巡りさんが「どうぞ」と合図していたのでスーッとゲート入ったのが運のツキ。ゲートの先がカーブになっていて、全然見えてなかったのですが、車が詰まっていた。少しずつ動くでもなく、どこかで完全に止めているようでビクともしない。10分経っても動かず。まだ本線に入っていなかった前のタクシーからは乗客が下りてきたりもしている。危ないから絶対ダメな行為だけど、こんなに止められたらこういう人も出てくるか。というかさっき、普通に「どうぞ」と誘導されたけど、たぶん私が入る前から止まっている感じだったから、「今、止まってますが大丈夫ですか?」と聞いてくれたら下道で行くのに。いや、いちいちそんなの無理か。20分経過。さすがにイライラがつのる。でもね、そんな時、パッとバックミラーを見たんです。そしたら後ろの、結構ごっつい車に乗っているキレイな女性が、普通に食事を始めたんです。もうね、ずっと動かないと覚悟したかのように、慌てずゆっくり、綺麗な爪の指でサンドイッチをちょいとつまんで、優雅なランチタイムを過ごしている。そして、入口が2つあったので2列に並んでいたのですが、隣の車をふと見ると、仕事の途中と思われる作業服を着たおじさんとお兄さんの2人組。めっちゃ笑いながらジャンケンをしていた。何を決めているのか、何のゲームかはわからないけど、とにかくめっちゃ笑っていた。あさこ、反省。何、イライラしてるんだ、私。周りの人はすでにこの時間を楽しんでいるじゃないか。そうだ、私にもある。ハーモニカ! 私はカバンからハーモニカを取り出し、後ろのお姉さんにも、横の2人にも負けないくらい楽しそうにハーモニカを吹きだした。するとどうでしょう。突然、車が少しずつだけどほどけるように動き出した。まるでハーモニカの力で動いたかのように。すっかりご機嫌、かつちょっと練習も出来て、思わず良き時間となった。

いやはや、ずーっと“大変”話を聞かされている皆様には申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが、いくらでも出てくるほど、今回ホントに“大変”で。すいません。まだ、出ます。“吸う”と“吐く”が交互にきてくれればいいけれど、ずっと吸い続けなければならない恐ろしい部分があって。その連続“吸う”地獄に顔が真っ赤になって倒れそうになったり。「これ壊れてます」と買ったばかりなのに低い音が出なくて楽器屋さんに持ち込まれがちだというクロマチック。これは壊れているわけではなく、それだけ低い音を出すのが難しいということ。これは各先生に伺っても、YouTubeのレッスン動画を探して観ても、上手く出来ず。これもただ感覚でわかるまでやるしかなかったです。そんなこんなで練習し過ぎたんでしょうね。途中でハーモニカの中のリードが折れてしまって。先生曰く、「プロでも相当やった時しか折れないから、あさこさん。相当やったのね」と。はい、相当やりました。先生が修理も出来て、溶接してくっつけてくださいました。

そして迎えた本番。あとはやるのみ、と思っていたら、また事件が。リハーサルも終え、いざ本番、となり、スタジオに観覧のお客様が入り始めた時、スッと先生が私の元へ。「一音だけちょっと低い」と。要は溶接で直したところが、やっぱりちょっと音が変で。実は私もなんか気になってはいました。でもその具合がどんどんひどくなっていっていたので、このまま本番だとよくない、と。申し訳ないですが、皆さんにはちょっと待っていただいて、新しいものでやるべき、との結論。ダッシュで裏へ。新しい予備のクロマチックを出してきていただき、マイクガードのスポンジをつけたり、もろもろ準備でバッタバタに。そしてその知らない子とやる不安で、私、ちゃんとパニック。新しいクロマチックを持ってみんなのところに戻ると様子が変だったんでしょうね。大島ちゃんとムーさんが「どした? 大丈夫?」と。仲間、すげえ。なんかその言葉で泣いてしまった。みんなに落ち着かせてもらい、本番スタート。曲はAKB48「365日の紙飛行機」。完璧じゃなかったかもですが、みんなの優しい音色、素敵だった。今回はやしろが病欠で11人だったのだけが残念。やっぱり面白いものでなんか12人のバランスっていうのかな、があって。1人欠けるだけでちょっとね。次は何をするかわかりませんが、また12人でがんばります。

【本日の乾杯】先日異国に行く際、初めて羽田空港第2からの出発で。フードコートがあったので中華をセレクト。麻婆茄子をツマミにビールを1杯。美味し。これで「よし」とパワー注入して行ってきました。

 

関連書籍

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。3』

海への恐怖を感じた、初めての遠泳。4人で襷を繋いだ「24時間駅伝」。お見合い旅inマカオ。“初”キスシーンに、“初”サウナ。ドラクエウォークで初めての高尾山。接続できずに大騒ぎのリモート飲み会。拍子抜けだった大腸検査。ブームに乗って、のんびり「おばキャン」、のつもりが……。いくつになってもあさこの毎日は初めてだらけ。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。2』

セブ旅行で買った、ワガママボディにぴったりのビキニ。いとこ12人が数十年(?)ぶりに全員集合して飲み倒した「いとこ会」。47歳、6年ぶりの引っ越しの、譲れない条件。気づいたら号泣していた「ボヘミアン・ラプソディ」の“胸アツ応援上映”。人間ドックの検査結果の◯◯という一言。ただただ一生懸命生きる“あちこち衰えあさこ”の毎日。

いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』

ぎっくり腰で一人倒れていた寒くて痛い夜。いつの間にか母と同じ飲み方をしてる「日本酒ロック」。緊張の海外ロケでの一人トランジット。22歳から10年住んだアパートの大家さんを訪問。20年ぶりに新調した喪服で出席したお葬式。正直者で、我が強くて、気が弱い。そんなあさこの“寂しい”だか“楽しい”だかよくわからないけど、一生懸命な毎日。

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