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しばけるもんならしばきたい

2025.12.26 公開 ポスト

セックスがしたくて、大阪中を歩き回ったあの頃盛山晋太郎(芸人)

人気お笑い芸人の見取り図・盛山晋太郎さんが初めてのエッセイ『しばけるもんならしばきたい』を刊行! 2020年から約5年間つづったエッセイでは、日々テレビで活躍する盛山さんが、どんなことを考え、どんな風に過ごしているのか、その一端を覗き見られる一冊になっています。また、書籍化に当たり、2025年の盛山さんが当時の自分を振り返って書いた「いまがき」も収録。さらにさらに、約8割のエッセイには、盛山さんによる挿絵もついています。

そんなエッセイ集から、試し読みをお届け。今年1月に結婚した盛山さんですが、このエッセイを書いた5年前は、まだ「モテたい」という気持ちがかなり強かったようで……。肌寒いこの季節、きっと盛山さんにシンパシーを感じる方も多いのではないでしょうか。

*  *  *

モテたい

(小説幻冬2020年12月号掲載)

(イラスト/盛山晋太郎)

僕はモテない。学生時代から一度もモテたことがないからモテるという感覚が分からない。「荷物なら持てるんやけどな」とお笑い初日のボケしか浮かばないほどモテない。

 

デブでブサイクな俺がモテるには、おもしろくなるしか方法がないとずっと考えていたあの頃。「おもろい」だけで彼女を作るんや、と思春期の当時から強く思っていた。学校の文化祭では毎回漫才やコントをしたり、わざと遅刻をしてふざけた格好で教室に入ったり、テスト中に変な鼻歌を歌って友達を笑かそうとしたり、おもろいを追求していた。

大阪によくいる、調子乗りのガキ丸出しの立ち回りをして学生時代を過ごした。蓋を開けてみたら1ミリもモテなかった。なんなら女子に嫌われていたし、気持ち悪がられていた。モテるどころか「うるさいデブ」としか思われてなかったと思う。

そりゃそうだ。だって基本スベっていたから。打率で言ったら0.0004ぐらい。4毛だ。厘の次の毛。字だけで言えば毛沢東の毛。『東海道中膝栗毛』の毛。ただ、打席にだけは頼まれてもないのにたくさん立った。

余談だが、テスト中に鼻歌を歌ったとき見回りの女の先生が僕の机の前に来て「さっきから聞こえてた気持ちの悪いメロディはあんたか! ふざけるなら出ていけ!」と、書き終わった僕の答案用紙をビリビリに破いて廊下に追い出された。しかもその一件で、僕の高校初の「鼻歌停学」になりかけるところだった。もちろん余裕で僕が悪い。みんなテストに必死だ。先生、クラスのみんな、あのときはごめんなさい。

 

言うまでもないが、若いときに抱く「モテたい」の理由は、ただセックスがしたいだけなんです。だから、20代のときはセックスのためならとにかく労力を惜しまなかった。

20代の男なんてものは、ヒト科チンチン猿属。

当時は後輩と一緒に、隙があれば毎日のように朝方までナンパをしながら練り歩いていた。体感では、大阪の都心部には足で踏んでいない地面がないぐらい歩き回ったと思う。もちろん成功することはなく、夜が明けてコンビニ前で愚痴を言いながら缶コーヒーを飲んで解散するのがお決まりだった。セックスはできなかったけど、朝焼けだけは僕らをピンクにしてくれていた。

大阪の天神祭という大勢の人が集まるイベントでは、すれ違う女性に自分の携帯番号を書き殴った紙をまるで号外かのように配りまくった。唯一かかってきたのはきっと彼氏であろう男からの「おいヒゲブタ舐めとんかコラ! 今どこにおるんじゃ」という電話だった。「すいません! そんなつもりじゃないんです!」と言って電話を切り、なんか怖くなって数日後に携帯を機種ごと変えた。あと番号を渡された女の子が彼氏に報告するときに俺のことをヒゲブタって伝えたんや、とも思った。

 

色んなコンパにも行った。どれだけいい感じに場を盛り上げても最後に女の子に選ばれることはなかった。何泣きの部類に入るのか分からないが、モテなさすぎてカラオケのトイレで泣いたりもした。違うコンパでも当たり前のようにモテなかったので、帰り際に路上で「どうかセックスをさせてくれませんか!」と土下座をしたこともある。僕なりの最終手段。しかも1回ではなく3回ほどある。こうなれば僕の土下座なんてものは、安いを通り越して無料だ。フリー素材の土下座。今の時代ならレジ袋の方が高くつく。

 

「モテない」が染み付くと、脳の中で考えがグルッと1周回るのか「とっても素敵な出会いがしたいな」という、迷惑メールに書いてある一文みたいな言葉が出てくるようになる。

そんなときに芸人達と和歌山の白浜に旅行に行くことがあった。とっても素敵な出会いを求めてた僕は、ライフガードの空ペットボトルに「これを拾ったあなたは運命の人ですね」的な、頭がお花畑としか思えないことを書いた手紙を入れて、海に投げた。

人はモテなさすぎたら映画のような出会いを期待し、何も考えずに平気で海にペットボトルを投棄してしまうのだ。波に揺られ、すぐにビーチに戻ってきてしまった僕の全世界宛てのラブレターを、清掃のおっちゃんがトングで拾ってくれたので、運命の人は清原より色が黒いあの清掃のおっちゃんだった。

おっちゃん、そんなギャグ漫画みたいなタイミングで拾うのはやめてくれよ。もう「コロコロコミック」やんか。でも綺麗にしてくれてありがとう。それ太平洋で一番のゴミだったんで。

 

ここまで書いたのはほんの一部であり、あの当時は10 分に1回フラれていたぐらいの感覚だ。だけど、そんな20代は本当に楽しかった。モテない悔しさが日々の活力となり、色んな場所へと向かうべく重い腰を上げさせた。それが今の芸人活動にも少なからず生かせてると思う。

完全に嘘をつくが、もう一生モテなくていい。僕の異性関係は負け戦がお似合いだ。

 

チンチン猿、しばけるもんならしばきたい。

2025年盛山のいまがき

過去俺へ。結婚したよ。もうモテることなく人生は終わっていくよ。でもそんなお前やからこの本も出せたんちゃうか。家庭を持てたという幸せを感じるがあまり、逆に不安になってるよ。「モテない」とかあんま嘆くな。おっさんのくせに。ガキくさい。

関連書籍

盛山晋太郎『しばけるもんならしばきたい』

見取り図・盛山晋太郎さんの初エッセイです。反町隆史に憧れ、モテたいと嘆き、M-1優勝を夢見て、タクシーの運転手と口喧嘩……。コンプレックスまみれ、でも誰よりもかっこつけな男・盛山晋太郎が、上京前夜から現在に至るまでの約5年間、休むことなく綴り続けた魂のエッセイ50篇を収録。彼の底の底までほじくり出した記録です。 【盛山晋太郎さんコメント】 人知れず幻冬舎さんで執筆させて頂いていた「エッセイ」がとうとう書籍化となります!約5年も連載させてもらっていたのに、未だに「エッセイ」とは何か分かっておりません。是非、盛山の「エッセイ」をお読みください。

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しばけるもんならしばきたい

見取り図・盛山晋太郎さんのエッセイ『しばけるもんならしばきたい』の試し読みをお届けします。

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盛山晋太郎 芸人

1986年1月9日生まれ、大阪府出身。2007年にNSC大阪校29期の同期だったリリーと「見取り図」を結成。2018年、MBS『オールザッツ漫才』優勝。同年から3年連続でM-1グランプリ決勝進出。2024年、KTV『第59回上方漫才大賞』奨励賞受賞。現在は冠番組の『見取り図の間取り図ミステリー』(読売テレビ)や『見取り図じゃん』(テレビ朝日)を始め、『ラヴィット!』(TBS・水曜レギュラー)、『1泊家族』(テレビ朝日)など多数の番組に出演中。

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