下町ホスト#45
「お前ら、勝手にやってるけど、担当と連携取れてなかったら爆弾だからな。その辺わかってる?担当立てろよ。」
美しい青年の言葉をパラパラ男は正面から浴びた。
彼が受け止めた言葉の端切が何も考えていない私の脳に刺さる。
美しい青年は、パラパラ男の威勢の良い返答に口角すら動かさず、その場を離れた。
パラパラ男は、小さく木漏れ日のような溜息を吐くと、常温の水を一口飲んでから、スタッフルームを出た。
私は一度携帯電話を開いて、メールを確認してから後を追う。
まだチャリンとベルを鳴らす君からの連絡はない。
パラパラ男は早くしろよと催促するようなジェスチャーをしながら、私を待っている。
改めて、まだまだ眠そうな店長の許可を貰い、次々と中堅ホストの席へ向かう。
パラパラ男の気の利きすぎた贈り物が会話の取っ掛かりになり、一度は会話が盛り上がる。
どうしても私達を受け付けない中堅ホストの席は担当がすぐさま席を立ち、数分後に店長から席を抜けるよう指示された。
使わなかった真新しいグラスには、力強い指紋が残っている。
後半に差し掛かる時間ぴったりに、パラパラ男の携帯電話が騒がしく震えた。
一緒にヘルプをまわる時間が終わり、彼のお客様が十分刻みに来店する様子をフロアの中央にあるボトル棚の前で見ている。
パラパラ男は、各卓、美しい青年のようにアテンドをして、私は込み上げてくる嫉妬心に負けて目を背けた。
ある程度、来店が落ち着き、各席で示し合わせたかのように、卓上でシャンパンが開き始める。
突っ立っている私は店長から、あまり着いたことのないパラパラ男の席へゆくように指示を受ける。
薄い緑色のデニムを履いている彼女は、注がれたばかりのシャンパンに口をつけずに、パラパラ男の姿を目で追っている。
「僕もご一緒にいいですか?」
「どうぞ。」
一切こちらを見ずに、綺麗に紅く彩られた唇が開く。
そのまま一度も私と目が合うことはなく、一方的に乾杯をして、背後に感じるパラパラ男を待つ。
「誕生日盛り上がってますね」
「はい。」
「おめでとうございます」
「ありがとう。」
そう言って彼女は一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、元の表情に戻り、私の目を見た。
どこかで大きな笑い声がして、ゆっくりと静まり、パラパラ男が戻ってくる。
彼女は、ようやくシャンパングラスに口をつけ、満面の笑みで飲み始めた。
パラパラ男は、ソファに浅く腰を掛け、私を視界から消すように二人で話し始める。
暫くすると彼女の背中を摩ってから、どこかへ消えた。
彼女は彼の行方を目で追いながら、時折、シャンパングラスに口をつける。
終盤に差し掛かり、中堅ホストの席からシャンパンコールが飛び交い、パラパラ男を祝う言葉が響いた。
呼応するように、彼の席でもシャンパンコールが始まり、徐々にパラパラ男のエネルギーが店全体を染めてゆく。
「あいつやっぱいいな。」
隣にいた美しい青年は、私に聞こえるように呟いた。
携帯電話が短く震え、チャリンとベルを鳴らす君が店の下に着いたことを知らせるメールが届いた。
『口』
舌先がお前じゃないと言うからさ舐れないんだ明日もきっと
溶けきれぬ粗目のように返事して雨が降らない透明な午後
吐くたびに君が腐ってゆくようでぬるい空気を吸い続けてる
口内を噛んでまで呼ぶ名前とは薄荷みたいな血の味でした
歯の裏にこびりついてる真実を時折舐めて日付が変わる
歌舞伎町で待っている君を

歌舞伎町のホストで寿司屋のSHUNが短歌とエッセイで綴る夜の街、夜の生き方。
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