“今度の「合法的脱税(マネーロンダリング)」は、暗号資産(クリプト)! これが令和の冒険ミステリーだ!!”
橘玲さん11年ぶりの書き下ろし長編『HACK(ハック)』を作家・金融教育家の田内学さんにお読みいただきました。
没落した日本で“居場所”を渇望する若い世代への希望の書
元アイドルも、ハッカーも、僕の生きてきた世界とは縁遠い存在だ。それでもこの小説に惹かれるのは、彼らが抱える問いが、自分の問いでもあるからだろう。
いったい、どこに自分の居場所はあるのだろうか。
僕は40歳までトレーダーとして働き、その後は本を書くようになった。主人公の樹生のように、自分がどんな「ゲーム」をプレイしているのかを考えながら、金融市場でも出版業界でも、いつも「どうすれば優位に立てるか」「どうすれば結果を出せるか」を考えてきた。そこに確かに自分の居場所はある。しかし、結果が求められる。結果が伴わなければ居場所を追われる。
心を掴まれたのは、咲桜の言葉だ。
「わたし、この世界に合ってないの。だから、いつも別の場所を探してる」
彼女が探しているのは、結果を出さなくても「ただ存在を許される場所」だ。だが現代の日本では、村社会は失われ、会社という共同体も終身雇用の終焉とともに崩れていった。学校生活が終われば、「いるだけでいい」と言ってくれる場所はどこにもない。今の若い世代の過半数が終身雇用や年功序列を再び望むようになっているのも、自分の居場所を渇望しているからだろう。
この小説は、日本の没落という大きな物語を背景に描きながら、私たち一人ひとりが抱える居場所の不安を映し出している。国際社会という「ゲーム」で優位に立てていた頃、日本という国にも確かな居場所があった。だがその座を失ったいま、国家もまた居場所を求めてもがいている。
マフィアも、ハッカーも、工作員も、最終的に居場所を得られたのは「誰かの役に立つ」という目的に出会えたからだった。その結果は関係ない。そこに「自分がいていい」と思える理由があれば、人は居場所を見出せるのだ。
僕もまた、結果を求められる居場所に疲れた人間の一人だ。だからこそ、咲桜が最後にどんな答えにたどり着くのかが気になって仕方なかった。この小説は、居場所を探す旅に出ているすべての人への希望の物語だと思うのだ。












