推しに対し「死ぬんじゃないか」という危惧を持つオタクは一定数いる。
これには二つの意味があり、現実であれば誕生日と命日がかぶるのはかなりレアかもしれないが、二次元の場合「登場回と死亡回が同じ」が珍しくない作品も存在する。

そんな殺伐とした世界の片隅で推しを見つけてしまうと「死ぬんじゃないか」という心配を常に抱えることになり、逆に存命のまま最終回を迎えると「死なないんだ」という謎の拍子抜けをすることになる。
もう一つは推しが尊すぎて自分が死ぬんじゃないかという恐れである。
実は推される側より推す側の方が死亡率、死亡者数が圧倒的に多い、ただオタクが推しで死ぬのは老衰よりも必然的な死なのでわざわざニュースにしないだけだ。
もちろん、オタク特有のオーバー表現ではあるのだが、推しの言動で生命の危機を感じてしまうのは本当であり、それが高まりすぎて、推しを直視できなくなってしまうこともある。
私も最推しであるFate/Grand Order(FGO)の土方さんの新規絵カードを半年見られなかったりと、それが年々悪化している。
特に今年は新規絵に新シナリオと怒涛の供給があったのだが、まだステイしている物の方が多いという有様だ。
小学3年生であれば、好きすぎて避けてしまう、スキサケもやむなしだが、中年が二次元相手にこれは厳しいものがある。
そんな中、北海道新聞に土方さんの見開きイラストが掲載された。
どれだけ勘の悪いヘンゼルでも「これは俺たちを太らせて食う作戦だな」と気づく供給過多である。
前々からFGOは地方新聞とコラボしてキャラクターのイラストを誌面に掲載していたのだが、土方さんは初登場であり、それが縁もゆかりもありすぎる北海道とは憎い、を越えて憎悪すら覚える。
イラストの全貌はネットでも見られるし、私は物理グッズは集めない派なのだが、これは手元に残さないと後悔しそうだったため、注文で取り寄せた。
そして奇しくも「いい推しの日」である11月4日のこの新聞が我が家に届いた、そしてさらに奇遇なことに、おそらく道民の読者が編集部経由で送ってくれた新聞が同日自宅に届いたのだ。
私のいつになく早い行動と読者の機転により「観賞用」と「保存用」という、オタクが首を座らせるより先に覚える初期陣形が完成した、そんないい推しの日に新聞を開かないのが最高に私という感じがする。
結論から言うと1週間近く新聞を開けなかったし、何故と言われたら「死ぬのが怖かった」という、生物として当たり前の供述をするしなかい。
だがこの「死への恐怖」はあながち間違いでもなかった。
本来なら1年以上は寝かしそうなものだが、それではわざわざ送ってくれた有志に申し訳が立たないし、それ以前にせっかくの供給がもったいない。
そんなわけで一週間という異例の速さで土方さんのイラストと対面することになったのだが、ここで新聞が「でかい」ということに気づいてしまう。
今まで新聞を読む習慣がなかったので気づかなかったが、新聞というのはデカいのだ、新聞受けに入る段階では4つ折りぐらいにされているが、開くと孔雀のように、ジュディオングのようにデカいし迫力がある。
このデカさで土方さんを見たらまずいと思い、まずは北海道のニュースを確認することにした、1面は食品輸入についての記事だ、ホタテ漁の人が困っているらしい、それは大変だが、私も今土方さんが掲載された新聞のデカさに困っている。
ちなみに、使用しているのは読者の方にいただいた新聞の方なので、実は土方さん掲載号ではなく、どれだけめくっても出てこないドッキリという可能性も考えたが、めくるうちにネットで親の顏より見たあの絵が出てきた。
見る前はでかさに慄いたが、今ではでかくて良かったと思っている、でかいことで画面ではわからなかった細部まで見ることができる、実物を見なければ顔についた水滴を見逃していただろう、これは天動説を見逃すレベルの損失だ。
しかし、ずっと見ていたら、体が暖まり急激に眠くなってきた、どうやら糖も取っていないので血糖値スパイクを起こしてしまったようだ。
そこで気付けに、机にあった太田胃散を飲もうとしたのだが、冷静に考えると推しを見つめ続けた奴の喉頭蓋が正常に動くはずがないのだ。
太田胃散はダイレクトに気管に吸い込まれ、激しい噴射の後、長時間せき込み、最終的に嘔吐、冗談ではなく本当に死にかけた。
オタクの言う「死ぬ」はオーバー表現ではないと身を持って体験した、特に老は推しを見た瞬間、心臓麻痺とか普通にあり得るので、必ず付き添いを用意した方がいい。
ちなみに、落ち着いたあと周囲を見回すと、新聞は閉じた状態だったため、土方さんに直接ダメージはなかったが、若干噴射時の被害を受けていることがわかった。
「保存用」の意味が、言葉ではなく体験で理解することができた、そしてこんなこともあろうかとわざわざ送ってきてくれた、道民読者には改めて感謝である。
カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

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