定年前に大学を退職、65歳で竹富島に八重山の伝統建築の家を建てて移住した三砂ちづるさん。毎朝起きてすぐ、2000字の原稿を書き、表の白砂を掃き清め、そして……。島での暮らしを綴った『竹富島に移住して見つけた人生で大切なこと』から一部抜粋でお届けします。
* * *
これだけやったら結構汗をかいているので、水を浴びる。毎朝、水を浴びる生活、というのも、これもまた、憧れであった。“今弘法”と呼ばれた神戸三田の鏑射(かぶらい)寺の故・中村公隆(こうりゆう)先生は、毎朝、どんなに寒くても、今日一日、と思って、早朝に水をかぶる、と著書に書いておられた。90代になってからはさすがに周囲がやめてくださいとおっしゃって、やっておられなかったようだが。
朝から水を浴びる、は、別に家族がいたから、とか忙しかったから、とかは関係ない。やろうと思えば東京でもできたのであるが、どうもそういう状態に自分を持っていけず、やっていなかった。
西式健康法というのをやっている知り合いがいて、この健康法によると「温冷交互浴」というのが勧められており、入浴する時お湯と水、交互に浸かる。日本の普通の家屋でバスタブが二つあるところなどないので、現実的なやり方として、お風呂でお湯に浸かった後、水のシャワーを浴びる、ということで代用されているらしい。
これをある年、秋も深まろうとする10月半ばくらいの東京で始めたが、なかなか、気合いのいることであった。いくら温かいお風呂に入った後でも、冷たい水のシャワーを浴びるのはなかなかの根性がいるもので、まさに、えいっとかける感じ。それでもこれは水を浴びる人は皆さんご存じと思うが、水を浴びた後は体がさーっと温まってくるので、湯冷めしない。始めた年は、冬中これをやっていたものだが、意志の弱い私は、1年たたずに挫折した。
気温が高く、とりわけ夏は水が日向水状態の竹富島で朝から水をかぶることは、大した気合いもなくできることである。毎朝外の掃除をして汗をかくのだから、その後、水のシャワーを頭から浴びることは、意志の強弱と関係なく、ごく普通にできる。ごく普通にできるので、毎朝、水を浴びている。つまりは毎朝、憧れの水浴び、ができていて、さっぱりして幸せだ。気温が低くなっても、続けたい。今度こそ。
その後、家の中の掃除をする。クイックルワイパーで埃や髪の毛を取ったり、掃除機をかけたり、はたきをかけたり。この、家の中を、毎朝掃除する、というのも、普通に勤務している時はそれなりに難しいものだった。
東京では犬の散歩をしている間に、自動掃除機ルンバをかけるのがせいぜいだった。この自動掃除機ルンバ、自動拭き掃除機ブラーバ、双方、なかなかのものである。ルンバに関しては、2013年に亡くなった父が割と初期の自動掃除機を使っていて、それが本当に、言ってはなんだが、使いにくいし掃除しにくいし、大してきれいにならないし……で、使えないな、と思っていたのだが、その後著しく進化を遂げ、2020年の新型コロナウイルスパンデミックで、都心のマンションに住んでいた長男が、最新型ルンバと共に東京国立の家に一旦戻ってきた時、その性能の向上に、すっかり感心してしまった……ので、東京にいた時は、ルンバを1階と2階に1台ずつ置いた。
しかし、ルンバは一貫して賑やかである。自動掃除機ルンバに関しては、だからその騒々しさもあり、一度は性能に納得がいかず、使っていなかった時期を経て、東京の家ではよく使うようになったのだが、自動拭き掃除機ブラーバの方は、発売当初から興味を持っていて、早い時期に購入し、東京のみでなく、竹富の家にも持ってきている。
自動掃除機はともかく、自動拭き掃除機はアメリカで発売されたのをテレビで見て、これは素晴らしいんじゃないかと思っていた。実際にはアメリカでは絨毯(じゆうたん)の部屋も多いだろうし、ルンバは絨毯の部屋にも向くが、ブラーバは向かない。当初から、フローリングと畳が多くて絨毯の少ない我が家には、ブラーバが良かろうと思っていた。
いっとき、ブラーバの宣伝広告で、お寺のぼんぼりさん、つまりはお寺の奥さんがブラーバを使って、お寺の本堂を拭き掃除させている映像が流れていたことがある。お寺の本堂のような四角くて、全くものを置いていないようなところの拭き掃除はブラーバの面目躍如たる場面であって、きっちりとやってくれるに違いない。
付属の雑巾を使ってもいいのだが、私はずっと、使い捨てのウエットフローリングシートを使ってきた。ガイドするキューブ状の機器があって、そこから始まって大体AIの把握で、部屋全体を感知し、拭き掃除をして元に戻ってくる仕組みである。お寺の本堂を拭くような、まっすぐな拭き掃除もできるし、きゅっきゅっと何度か行きつ戻りつして行うような拭き掃除もできる。
一番素晴らしいのは、ルンバと違って音がせず、静かなことである。2015年に末期ガンの夫を家で看取った。家で介護をしていると、自動掃除機のような音がする機械はあまりにもうるさい。亡くなる前までの半年くらいは、リビングダイニングの一番見晴らしの良いところに介護ベッドを置いていたのだが、ずっとそこにいるわけだから、掃除であまりうるさくしたくない。掃除機はあまり使わず、床のゴミを吸着するクイックルワイパーで静かに掃除していた。家に誰かいつもいて、音をさせたくない、埃を舞いあげたくない、というような状況での掃除は、このクイックルワイパーとブラーバの拭き掃除が最強である、というのが私の結論である。
クイックルワイパーも商品名を挙げていてすみませんが、他のメーカーのシートと比べると、この花王のクイックルワイパーは本当に優れているのだ。髪の毛など掃除機をかけると絡まってしまうものも取れるし、畳などは傷まないし、かなり細かい埃も取れるらしい。
聞くところによると埃の大部分は人間のアカなのであるという。人間が歩くだけで落ちるアカが埃の正体なのだそうだ。そういえば、ずっと閉めていた家にはそんなに埃はない。だからこの髪の毛とかアカなどという、人がいたら落ちるものをそっと取り除くにはクイックルワイパーが掃除機より適しているくらいだ。テレビでメーカーの人が言っていた、「クイックルワイパーは、ゴシゴシと押さえつけるのではなく、少し浮かせ気味にして、埃を取っていくのが一番いいのです」というアドバイスが本当に腑に落ちて、クイックルワイパーを少し浮かせ気味にして家中の埃を取っている。だから、介護する人のいる間に覚えたクイックルワイパーとブラーバの拭き掃除を今も併用している。
丁寧に掃除をする時間がない時も、クイックルワイパーでさっと家中をぬぐって、その後にブラーバをかけておけば、十分さっぱりときれいな家になる。ブラーバは2011年に日本で発売されたそうで、私はほぼ発売と同時に購入して使用し始めた。バッテリーが程なくダメになるので、何度かバッテリーを取り替えたり、メーカーに送って修理をお願いしたりしたが、耐久年数はあまり長くない。現在竹富に連れてきたのは3台目のブラーバで、東京の家には、4台目となるブラーバを置いてきた。できるだけ長く活躍してもらいたい。
竹富島に移住して見つけた人生で大切なことの記事をもっと読む
竹富島に移住して見つけた人生で大切なこと

勤めていた大学を定年前に退職し竹富島に移住、赤瓦で平屋造りという伝統家屋の家を建て、65歳にして初めての一人暮らしを始めた三砂さん。人口330人、娯楽施設はもちろん、買い物ができる店もない「不便」な島。ですが、年間25もの祭事・行事がある島での暮らしは、つねに神様とともにあり、島の人たちとの深い人間関係にも守られています。伝統家屋の家に暮らすということ、祭り、食、人々との交わり……。島で暮らすことの喜びとともに目覚め、喜びのうちに眠りに就く、移住最初の1年を綴りました。写真多数。











