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うかうか手帖

2025.11.09 公開 ポスト

ウズベキスタンのパン益田ミリ(イラストレーター)

世界にはいろんなお祭りがあるが、東京都にはパンの祭りがある。その名も「世田谷パン祭り」。年に一度、二日間、約100店舗のパン屋さんが秋空の下でパンを売りまくるのであった。

何度か行ったことがあるが、毎度、開始前に大行列。今年はスタート30分前に到着したのだけれど、すでに数百メートルの長い列。

でも大丈夫。配布されているパンフレットを熟読し(各店舗の一押しパンの写真が掲載されている)どのパン屋さんから攻めて行くか研究する大事な時間になっている。

有名なパン屋さんもあるのだろうがわたしは詳しくないので、とにかく写真のパンを見て決める。

これと、これと、このパンは絶対食べたい! とあたりをつける。

そのひとつにウズベキスタンのパンもあった。アンモナイト風の渦巻き型。黒ゴマのような飾りがある。

ウズベキスタン。この先のわたしの人生で、たぶん行く機会はもうないだろう。しかし、世田谷パン祭りでがんばればウズベキスタンのパンは食べられる。やる気を出すわたしである。

今回、もっとも気になった写真のパンは「秋のロデウ」という名の焦げ茶色のパン。

ロデウってなんだろ?

並んでいる間に下調べ。南フランスの地名が由来で、外サクサク、中モチモチの香ばしいパンらしい。

 

よし、まずはこの店のブースに直行しよう。

というわけで、結局1時間ほど並んで祭り会場に入場。地図を片手に走り回り、お目当てのパン屋さんでそこからさらに1時間ほど並び、残念ながら「秋のロデウ」は完売だったが「胡桃ロデウ」と「白桃&アールグレイロデウ」を手に入れる。San ju san という名のパン屋さんだった。

その後もあれこれまわって、かばんの中はパンでパンパン。

世田谷公園は噴水を中心にすり鉢上になっていて、斜面の芝生部分に座ることができる。

がんばって買ったお目当てのパン。

青空の下、みながもりもり頬張っている様子は平和そのもの。これがずっとつづいてほしいと願わずにいられない光景である。

その場で食べなかったパンは帰宅後、冷凍庫へ。ロデウたちはまだ眠っている。

ウズベキスタンのパンは解凍しておやつに食べた。黒ゴマと思っていたのは黒いクミンだった。ほんのり甘いパン生地に、香しいクミンの香り。ちょっと旅行気分になれた秋だった。

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うかうか手帖

ハレの日も、そうじゃない日も。

イラストレーターの益田ミリさんが、何気ない日常の中にささやかな幸せや発見を見つけて綴る「うかうか手帖」。

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益田ミリ イラストレーター

1969年大阪府生まれ。イラストレーター。主な著書に、漫画『すーちゃん』『僕の姉ちゃん』『沢村さん家のこんな毎日』『週末、森で』『きみの隣りで』『今日の人生』『泣き虫チエ子さん』『こはる日記』『お茶の時間』『マリコ、うまくいくよ』などがある。また、エッセイに『女という生きもの』『美しいものを見に行くツアーひとり参加』『しあわせしりとり』『永遠のおでかけ』『かわいい見聞録』や、小説に『一度だけ』『五年前の忘れ物』など、ジャンルを超えて活躍する。

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