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 スマホがない時代の旅のしかたを忘れかけている。
 切符がデジタルの画面ですむ便利さの陰で、切符をなくさないか、時折ポケットを手で押さえては確認するあのハラハラした気持ちが懐かくなるときもある。
 そんなふうに、なにかにつけて昔はアナログでよかったよねと話したくなる世代だが、今年しみじみとスマホのアプリの素晴らしさに感動したことがあった。
 割り勘精算アプリである。

 複数で旅をすると、必ず立て替えが発生する。ネットで事前決算する宿代がその最たるものだろう。ふたり一部屋の場合、予約者が一旦支払う。
 ほかにも小さなものの立て替えが多い。ランチ、コーヒー、あるいは夜のちょっとした菓子や酒など。
 店先で計算をしていちいち出し合うのも面倒なので「あとでね」となり、うっかり忘れると、立て替えた側は案外気になっていて小さなストレスが生じやすい。

 昔はそれがめんどうで、共通の財布がわりの袋をひとつ用意し、互いに五千円か一万円ずつ出し合い補充。なくなったらまた出し合った。便利だったが、夜の食事などお酒を飲む人と飲まない人、カフェで一五〇〇円のパフェの人とコーヒーだけの人では、わりにあわないのもひっかかる。

 今年、木曽漆器市に夫婦三組で出かけたとき、会計は妻三人が担当した。
 私以外のふたりは、少し前に海外を大勢で旅していた。そのときにスマホアプリのWalicaがたまらなく便利だったという。
 勧められてさっそく使ってみると、あらゆるお金にまつわるストレスがものの数秒で払拭される。複雑な計算も即座に解決するしくみに心底驚いた。
 自分が立て替えた分を打ち込むだけで、負担別にそれぞれの支払額が出る。AさんがBさんに◯円、BさんはCさんに◯円、というように。たくさん立て替えた人は、みなから受け取るだけのことも。

 一日の終わりに打ち込んでも、あるいは旅が終わってからまとめてやってもいい。計算後の支払いに、ペイペイなどキャッシュレス決済サービスを使うと、好きなときに、一円単位で支払いができる。そのため「細かい持ち合わせがないから、今度あったときあと一五〇円払うね」「いいよいいよそれくらいなら」「本当は八三二一円だけど面倒くさいから八〇〇〇円でいいよ」もない。
 きっかり、気がねなく一円単位で支払えるのは明朗会計で気持ちが良い。

 このアプリは旅先より飲食時に使う場合が多いと思うが、これこそ旅の必需品だと実感した。もう私は誰かと旅をするとき、Waricaなしにはできないかもしれない。
 割り勘の計算をスムーズにする立て替え精算アプリは他にもいろいろあるようなので、計算が苦手な人は是非使ってみてほしい。
 最も優れた利点は、日常を忘れたい旅先で、お金の計算という些末で野暮な作業を手放すことができるということである。グループ旅行の最後、レンタカー返却時や空港に向かう道中で、計算や小銭のやり取りをしていると、急に現実に引き戻されるような感覚がある。お金のことなんて忘れて、まだまだぼんやり旅の余韻に浸っていたいのに。

 ちなみに、クレジットカードは二十数年前にご一緒したカメラマンから推されたものを今も使い続け、旅に活用している。カメラマン氏は作品撮りのため自腹で海外に行くことが多く、クレジットカードの節約術などをよくご存知だった。
 お勧めのものは、水光熱費から日常の買い物もすべて効率よくマイルが貯まる。
 いまは多様な決済サービスに、魅力的な特典、ポイントが様々に付与される。隣の芝生が青く見えて、別のカードも気になるが、私は健康でいられる限り旅をしたい。大旅小旅、自由自在に。だったら飲食店や美容や日用品に使えなくてもいいと思った。ひたすら愚直に、すべての買い物がマイルにつながるもの一択で。
 そう決めているおかげで、キャッシュレスサービスのポイントの損得を比較する作業も手放せる。
 クレジットカードの特典や消費に付随するポイント集めが、人生で何を大切にしているかを考える作業にもつながるとは思ってもいなかった。

 マイルを貯めるときのコツは、「マイルの有効期限無制限」「海外旅行保険付帯」がマストである。
 私はズボラなので、有効期限の管理ができない。せっかく貯めたものが気づいたときには失効していたら悔いきれない。
 無制限のありがたさを痛感したのは、コロナ禍だった。マイルが失効することなく自然に貯まり続けた。
 ようやく渡航が解禁になり、初めて旅行したベトナムのあの開放感たるや。滞在費だけの費用で済んだのでよけいに、辛いコロナ禍の我慢が少し報われたような気になった。

 そのかわり、最近は直行便の特典旅行が予約しづらいので早めの決断が鍵となる。振り返っていちばんマイル化が大きかったのは、月々スマホ使用料のポイントだ。スマホには、Warikaだけでなく旅の資金つくりでもお世話になっていたというわけである。

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ある日、逗子へアジフライを食べに ~おとなのこたび~

早朝の喫茶店や、思い立って日帰りで出かけた海のまち、器を求めて少し遠くまで足を延ばした日曜日。「いつも」のちょっと外に出かけることは、人生を豊かにしてくれる。そんな記憶を綴った珠玉の旅エッセイ。

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大平一枝

文筆家。長野県生まれ。大量生産、大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に「東京の台所」シリーズや『人生フルーツサンド』『こんなふうに、暮らしと人を書いてきた』『そこに定食屋があるかぎり』など。「東京の台所2」(朝日新聞デジタル&w)、「自分の味の見つけかた」(ウェブ平凡)、「遠回りの読書」(サンデー毎日)など各種媒体での連載多数。

HP:https://kurashi-no-gara.com/

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