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彼方からの手紙

2025.10.28 公開 ポスト

香りをたどって見えてきたもの清水ミチコ/光浦靖子

光浦さんの家族って、ちょうどいいですね。いつも明朗だったり和気あいあいとしてるわけじゃなく、ちゃんと一人一人の間にうすーい膜がある感じ。この希薄さかげんが家族という形態にちょうどいいと思うんです。

逆にたまに閉口するのは、やたら自分の家族を卑下する人。密接な関係だったり、愛情が濃すぎるとかえってこんがらがるのか、返事に困っちゃう時があります。こっちまでぐさっときて、聞く気が失せてしまうので、卑下したいなら控え目にくさして欲しいです。愛情は感情とからまりやすいためか、言葉にすると本当にややこしいもんです。

あ、ややこしいと言えば話が変わっちゃいますが、いいですか。いいですよね。止められないですもんね。最近、私の部屋に妙な臭いが充満してました。臭い。ものすごく臭いんです。ナマモノが腐ったような、いやそれ以上の悪臭です。命の危険が迫ってますよ、そんな警告の匂い。それなのに、どんなに探せど探せど、臭いの元がどこにあるのか見つかりません。四つ這いになってベッドの下を嗅いだり、クローゼットも嗅ぎまくりました。でもわからないんです。臭い自体は断固として強く主張しているのに、存在がいっさい見えないため、消す方法がわからないという。ネットの悪口ってこんな感じではないでしょうか。おまえらはどこにいるんだ。だいたい私は自分の部屋に食べ物類はできるだけ運ばないようにしている派です。なのになぜこうなった?

「臭い たどる 装置」と、Amazonで探せるものを検索しましたが、空気清浄機が勢ぞろいで出てくるだけ。意外とありそうでないものが臭気探偵なのでした。そして3日目、臭いはついにすえた感じに変わってました。より悪化してるのです。健康に悪そう。まさかいよいよ自分の体臭では? と疑惑を向けながらも、せめて風を通そうと窓を開けたら。なんとそのカーテンのすそにゲロが乾いて固まってました。なんと猫のゲロです。ウチの猫ったら、日向ぼっこしながらゲロしてたんですね。可愛いなあ。そんなわけあるか! 猫にゲロはつきものと言われてますが、せめて床でしろよ! でした。

気温が高いこの9月は、日差しよけにカーテンを閉めっぱなしだったところへ、やられてたのでした。日光で腐りながら干からびていたんですよ。ウエットティッシュ一袋分、リセッシュ6回ほどプッシュしました。カーテンのレールを外して洗うのも面倒くさいし、もういっそ買い換えようか、いやまた新品が来ても同じことされるかもなー、と悩んでるところです。普段あんまりしない家事ほど、ものすごく億劫になるものだとよくわかりました。

そんな異臭騒ぎのあった私の部屋に静かに鎮座している宝物。それは私が「靖子の形見」と呼んでる花瓶。覚えてますか? 私が光浦さんを訪ねてカナダの自宅に行った時、棚に可愛い花瓶が置いてあって、「わあ、この焼き物いいなー。買いに行きたい!」という私の一言で、その商品が置いてあるショップへ買い物につきあってくれた光浦さん。それなのに、お店では同じ物はなく、他に欲しい物も見つからなかったことがありました。でもそんなこともすっかり忘れてお土産を買い、うまいものを食べと、遊びほうけてた私に、帰国する時に光浦さんが「ほいっ」とゴミでも投げるような感じで渡してくれたのが、くっしゃくしゃの新聞に包まれたプレゼント。中を見てみると、ああそれが靖子の形見。私はあのシーンが忘れられません。(この人はこれが欲しいんだな)と思ったら、頓着せずに人に手渡せる。それだけでもなかなかできないことなのに、大切に丁寧にそれを包むでもなく、荒く放るかのように渡す。それが照れ屋の靖子の形見なのです。

皆さん、今日はご参列ありがとうございました。ちょっと早いですが、流れで弔辞にかえさせていただきました。

【シミチコNEWS】大阪万博のイタリア館で現地の新聞取材を受けました。ついに世界のミチコ・シミズデビューです。こちらが靖子の形見。 

関連書籍

清水ミチコ『カニカマ人生論』

すぐに「気負け」して泣いてしまう少女の頃の笑えて切ない思い出。永六輔さん、タモリさんはじめたくさんの大切な人たちとの巡り逢い。自分の弱さやセコさにぶち当たりながらも、日常の些細な面白みを慈しみつつ、「若い頃よりクヨクヨしなくなった」と思えるようになるまでの様々な出来事。武道館を沸かせる国民の叔母(自称)の、自伝エッセイ。

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彼方からの手紙

清水ミチコさんと光浦靖子さんが月1回手紙を送りあうリレーエッセイ

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

光浦靖子

1971年生まれ。愛知県出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。テレビやラジオで活躍する一方、手芸作家、文筆家としても活動。著書に『『50歳になりまして』『お前より私のほうが繊細だぞ!』『傷なめクラブ』など多数。2021年8月よりカナダに留学。現在は、就労ビザを取得し、カナダで生活を続けている。(写真:山崎智世)

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