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『花のように、生きる。』重版記念

2014.11.14 公開 ツイート

なぜ禅の世界において梅が尊重されるのか。

はじめに 平井正修

9月下旬に発売された平井正修さんの『花のように、生きる。』が、じわりじわりと全国に広がっています。誰もが抱える「どう生きるか?」という悩みに対して、「花のように」という涼やかな指針を与えてくれた本書。では、花なような生き方とはどのようなものなのでしょう? 本書から一部抜粋してお届けします。
 

 現代の日本人にとっては花といえば桜であろう。しかし、禅の世界においては、花といえば梅か桃が代表的だ。とくに梅は、寺名にその字が入った寺も多く、禅語にも梅にまつわる語は多い。
 禅宗の寺に行けば必ずといっていいほど梅の木がある。わたしが修行していた、静岡県三島市の龍澤寺という道場にも広い広い梅園があり、一月、二月は、全山がその芳しい香りに包まれる。そして六月になると、枝がしなるほどの多くの実を、雲水総出でとり、梅干を漬ける。
 いまでも時期になると、わたしは全生庵の境内の梅の実をとり、毎年、梅干と梅酒を自分で漬けている。
 なぜ禅の世界において梅が尊重されるのであろうか。その理由は大きく三つある気がする。
 一つは、寒中に咲くこと。
 二つは、芳しい香りがあること。
 三つは、実を結ぶこと。

 もともと仏教において、花は仏の慈悲をあらわすものだが、禅においては「無心」の象徴でもある。さらに、花が咲くとは悟りを開くことをあらわすものでもある。厳しい修行を積み、悟りを開く、その姿を寒中に咲く梅の花にあらわしたのだろう。
 そして、どんな厳しい環境に置かれようと、節操をまげずにまっすぐに修行していく姿に、梅の芳しい香りを感じたのではないだろうか。
 さらに、結果がどうであれ、自分のなさねばならないことに真っ向から向き合った経験は、必ず自分自身のなかに刻み込まれていく、そのことを実を結ぶことに重ねたのではなかろうか。
 現代に生きるわたしたちは、経済性、利便性をかぎりなく追求した物に囲まれ、ありあまる物と情報のなかで豊かに暮らしている。
 しかし、ほんとうにわたしたちは豊かなのだろうか。
 わたしたちの心は豊かになったのだろうか。
 そもそも心の豊かさとは何であろうか。
 そんなことを花を題材に語ってみたくなった。

二〇一四年  夏
全生庵 平井正修
 


 

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『花のように、生きる。』重版記念

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平井正修

臨済宗国泰寺派全生庵住職。学習院大学法学部政治学科卒業。一九九〇年静岡県三島市龍澤寺専門道場入山。二〇〇一年同道場下山。二〇〇二年より中曽根元首相や安倍元首相などが参禅する全生庵の第七世住職に就任。全生庵にて坐禅会、写経会を開催。二〇一六年より日本大学危機管理学部客員教授。二〇一八年より大学院大学至善館特任教授。臨済宗国泰寺派教学部長。『心がみるみる晴れる 坐禅のすすめ』『花のように、生きる。』『「見えないもの」を大切に生きる。』『老いて、自由になる。』(以上すべて幻冬舎)、『悩むことは生きること 大人のための仏教塾』(幻冬舎新書)、『山岡鉄舟修養訓』(致知出版社)、『忘れる力』(三笠書房)、『お坊さんにならう こころが調う 朝・昼・夜の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『三つの毒を捨てなさい』(KADOKAWA)など著書多数。

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