
ありがたいことに、新刊を刊行すると書店あいさつをさせてもらえることがある。
書店あいさつとは、本の著者が出版社の編集者や販売担当者とともに書店を訪問することだ。私も何度かさせてもらったが、普段接する機会の少ない書店員さんと顔を合わせて話すことができる、嬉しいイベントである。
新型コロナウイルスが流行した時期は、書店あいさつを直前で断念することもあり、歯がゆい思いもしてきた。それもあって、ご提案をいただいた時は原則お受けすることにしている。
今年9月には、関西で書店あいさつを実施させてもらった。8月に刊行した『サバイブ!』(祥伝社)という小説のプロモーションのため、2日間で18軒の大阪・京都の書店さんを巡った。なかなかのハードスケジュールだが、これは「せっかく関西まで行くのだから、できるだけたくさんの書店さんにあいさつしたい」という私自身の要望でもある。

その訪問先の書店さんの1つに、かねてから、この「あなたの書店で~」の企画で取材に来てほしい、と言ってくださっているお店があった。それが、大阪府守口市にある未来屋書店大日店さんである。
こちらのお店は、以前から岩井を応援してくださっている書店の1つである。ゲラやプルーフの感想をいただくことも多く、普段からとてもお世話になっている。さっそく書店あいさつに合わせて取材をお願いしたところ、快諾していただけた。
というわけで、今回は未来屋書店大日店さんにお邪魔することになった。ちなみに、守口市は私の故郷・枚方市と同じ北河内(きたかわち)である。「ほぼ地元」の書店ではしゃぐ岩井の姿、ご覧いただきたい。
* * *
9月某日、担当編集者氏&販売担当者氏とともに、未来屋書店大日店を訪れた。お店は、市営地下鉄谷町線・大阪モノレール本線の大日駅から直結のイオンモール大日3階にある。
一見して、解放感があるお店だ。敷地面積が広大なだけでなく、天井が高くて見通しがいい。照明のおかげか、店内には明るい雰囲気があった。

まずは未来屋書店の皆さんにご挨拶。買い物には、同店のIさんも同行してくださることになった。(ちなみにIさんはこの日オフ。この企画のためにわざわざ来てくださり、ありがとうございます。)
本企画のルールは「(できるだけ)1万円プラスマイナス千円の範囲内で購入する」という一点のみ。さっそく自腹(ここ重要)の1万円を準備して、買い物スタート。
出入口正面には、ソーシャルゲーム『原神』のグッズが陳列されていた。岩井は『原神』にはまったくなじみがないものの、多様なグッズが展開されていることからも、盛り上がりをひしひしと感じる。

少し進むと、友達の本がずらりと並んでいた。第13回大阪ほんま本大賞に選ばれた、今村翔吾『幸村を討て』である。この賞は、「大阪人にお薦めする、大阪に関係する小説」を対象に、関西の書店員・販売会社社員が「ほんまに読んでほしい本」を決定する――ものだ。

アパ社長カレーのボードは、思わず見てしまう迫力。こちらのエンドでは「出張マスター」向けの名著も紹介されていた。

巨大なおまけがついているこちらは、『天使の深睡眠マクラBOOK』。薬膳レシピの本など、健康に関する本が並んでいた。

私の新刊『サバイブ!』も、特等席で展開してくださっていた。

最近読んだ面白い本の話をIさんとしていると、同じ棚に並ぶ住田祐『白鷺立つ』(文藝春秋)の書名が挙がった。最新の松本清張賞受賞作である。実はこちら、前日に別の書店員さんからもオススメされていた本だった。2人の目利きが口をそろえて「面白かった」と言うのだから、間違いないのだろう。
『白鷺立つ』は、失敗すれば死といわれる〈千日回峰行〉に挑戦する仏僧たちの物語だ。非常に読みやすい歴史小説とのことで、パラパラとめくってみると関西弁のセリフも散見される。関西で、関西弁の出てくる本と出会ったのも何かの縁に違いない。
というわけで、今日の1冊目はこちらに決定。

こちらのお店では買い物カゴも用意されている。これがあれば、何冊買っても持ち運びラクラクだ。

文芸書の棚では、岩井の著書を大々的に展開してくださっていた。かなりの数の既刊とともに、オリジナルのポップも飾られている。本当にありがたい限り。

文芸書の棚は目移りする品揃えで、Iさんいわく「文庫化した作品でもあえて単行本を並べている場合もある」とのこと。単行本で読みたい、というご要望に応えるためだ。1冊1冊のラインナップにもこだわりを感じる。
そんななか、目を奪われたのが佐藤正午『熟柿』(KADOKAWA)。
いろんな人から「すごい」という評判を聞いている本書。重版を重ね、中央公論文芸賞も受賞していることからも、クオリティは折り紙付き。あらすじはこうだ。
――激しい雨の降る夜、眠る夫を乗せた車で老婆を撥ねたかおりは轢き逃げの罪に問われ、服役中に息子・拓を出産する。出所後息子に会いたいがあまり園児連れ去り事件を起こした彼女は、息子との接見を禁じられ、追われるように西へ西へと各地を流れてゆく。自らの罪を隠して生きる彼女にやがて、過去にまつわるある秘密が明かされる。
これはもう、読む前から断言できる。面白い。購入はもはや、不可抗力と言っていいだろう。

小説を読みたい気分だったこともあり、引き続き文芸書を物色することに。

翻訳小説を眺めていると、面陳されていたデイジー・ジョンソン著/市田泉訳『九月と七月の姉妹』(東京創元社)が目に留まる。
すかさずIさんが、映画原作でもあることを教えてくれた。Iさんは映画も観たそうで、その感想を聞くだけで面白そうだ。
タイトル通り、物語は妹・ジュライと10か月違いの姉・セプテンバーが中心となる。支配的な姉と従順な妹。揺るぎない絆で結ばれた二人だが、ある時期を境に、ジュライは違和感を抱くようになる――。
設定の時点で非常に魅力的。最近あまり海外小説を読んでいないこともあって、こちらもあまり迷うことなく購入を決めた。

ここで文芸書を離れて、もう少し店内をウロウロすることに。

コミックの棚も充実。

さらに奥に進むと、大好物の理工書棚を発見。

なんとなく眺めていると、棚差しの本のなかに気になる1冊を発見。泉貴人『なぜテンプライソギンチャクなのか?』(晶文社)だ。
注目はタイトル、そしてインパクト抜群の表紙。めちゃくちゃエビの天ぷらである。さらに驚くべきは、本書に掲載されていたテンプライソギンチャクの写真だ。表紙のイラストが、決して誇張ではなかったことがわかる。
著者は、日本一のイソギンチャク新種発見数を誇る分類学者だという。ここまで知ったら、読まないわけにはいかない。そういうわけで、こちらも購入決定。

さらに歩くと、素敵な文庫フェアを見つけた。〈書店の20代社員が昭和のベストセラー、読んでみた。〉というフェアだ。

並んでいるのは、『海と毒薬』、『日本沈没』、『坂の上の雲』、『かもめのジョナサン』といった名作ばかり。店頭では、小説紹介クリエイター・けんごさんとのコラボ動画も流れていた。「時代を超えて傑作を広めたい!」という意欲が漂う、見逃せないフェアである。
コミック売り場と隣接して、「コミLab.(コミラボ)」というコーナーが設けられていた。ここには『原神』、『ハイキュー!!』、『ゼンレスゾーンゼロ』といった作品のグッズがずらりと並んでいる。

コミLab.は、未来屋書店が運営するコミック・アニメ雑貨・ゲーム雑貨に特化したエンターテイメントコーナー、とのこと。このコーナーを目当てに訪問するお客様も多いらしく、盛り上がりの新しい源泉となっているようだ。
入って右手側には文具コーナーもある。


万博期間中とあって、関連本が至る場所で展開されていた。児童書コーナーには、『ミャクミャクをさがせ!』が。

店内を一周して、文庫に戻ってくる。残金的には、あと文庫を2~3冊買うのが限界な気がする。

「ベストセラー」の棚を見ている最中、かねてから気になっていた1冊と遭遇。佐々木愛『プルースト効果の実験と結果』(文春文庫)である。
まず、タイトルの不思議さが気になる。プルースト効果ってなんだ?
手書きポップには「すごい才能」と書かれていた。Iさんに感想を聞いてみると、やはり絶賛である。出版社の「青春・ど真ん中!」というポップもストレートで、興味をそそられた。
佐々木さんの小説を読むのは初めてだが、きっと今読んでおいたほうがいいはず。というわけで、こちらも購入。

さらに文庫の棚へと分け入る。文庫は出版社別ではなく、著者名の五十音順に並んでいた。(文芸書も同様)

おそらく、買えるのはあと1~2冊。どれも面白そうで悩む。
そんななか、とりわけ目立っていたのが柚木麻子『BUTTER』(新潮文庫)。実はまだ本書は読めていない。
店頭の文庫を手に取ってみると、なんと通常カバーの裏面に英国版の表紙が印刷されている。いかにもバターっぽい黄色に、「バター」というカタカナ。日英のリバーシブルカバーなのだ。これは面白い。
現在、世界的ヒットとなっている今作。やはり読まない手はない。
今日最後の1冊は、こちらに決定。

あと1冊買えそうな気がしなくもないが、予算オーバーが怖いためこれでレジへ。本日は計6冊となった。
さあ、今回の金額は。

ジャン。
9,647円。

お~! あと1冊我慢してよかった。
今回は、Iさんのナビゲーション付きという贅沢な買い物だった。未来屋書店の皆さん、ありがとうございました。
*
未来屋書店大日店は、どのコーナーも手入れが行き届いていて、「隙がない!」という印象だった。特に、文芸・文庫の力の入れようは半端ではない。手書きのポップと出版社の拡材が巧みに組み合わせられ、互いに引き立てあっている感じがした。お店の「推し」もわかりやすい。
かといって我が強すぎるわけではなく、むしろ親しみやすい。通路も広いし、照明は明るくて見やすい。お客様フレンドリーなのだ。コミLab.も存在感を発揮していて、他の書店とは一線を画している感もある。
同行した編集者氏がぽつりと「うちの近所だったらいいのに……」と言っていたが、まさにそんなお店である。
大日近辺にお住まいの方、ぜひ足を運んでみてほしい。
それでは、次回また!
【今回買った本】
・住田祐『白鷺立つ』(文藝春秋)
・佐藤正午『熟柿』(KADOKAWA)
・デイジー・ジョンソン著/市田泉訳『九月と七月の姉妹』(東京創元社)
・泉貴人『なぜテンプライソギンチャクなのか?』(晶文社)
・佐々木愛『プルースト効果の実験と結果』(文春文庫)
・柚木麻子『BUTTER』(新潮文庫)
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文豪未満

デビューしてから4年経った2022年夏。私は10年勤めた会社を辞めて専業作家になっ(てしまっ)た。妻も子どももいる。死に物狂いで書き続けるしかない。
そんな一作家が、七転八倒の日々の中で(願わくば)成長していくさまをお届けできればと思う。
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