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だらしなオタヲタ見聞録

2025.09.23 公開 ポスト

番外編「オシとトシ」その7

恋や執着ではない、割り切れる&諦めがつく――老齢オタのいいところ。藤田香織

齢五十も過ぎて、人生初の「推し」ができ、老化する一方の身で西へ東へ遠征する。心は軽いが身体は重い。ままならぬことばかりの50代オタ活考察記! 8月は注目度急上昇中のグループを観に仙台へ!

恋や執着ではない、割り切れる&諦めがつく――老齢オタのいいところ。

五十歳を過ぎてから初めてジャニオタ(通称)になった。

若い頃にはまったくはまらなかったのに! と自分でも驚きはあるものの、総じてこのトシになってからでよかった! と思っている。

そりゃもちろん推しより自分が年下や同世代だったら、と考えたことがないわけじゃない。好き心を全開にして、憧れをもってワーキャーするのは、きっと楽しい。私だって界隈のグッズとして売られている個々の似顔絵や写真がプリントされたヘアピンをつけ、メンバーカラーのお洒落服を友達と双子コーデにしてライブに行きたい気持ちは多少あるし、推しの顔がプリントされたクッションや枕カバーを部屋に置きたくなくもない。できることなら、ライブやイベントで、「キャーーーーッ!」と大きな声で思い切り叫んでみたりもしたいけど、悲しいかな、もうそんな高い声は出ない。

本当は夏フェスだって行きたい。ワールドツアーを追いかけて行って、現地からレポートを書いたりもしたいけど、体力的に無理すぎる。たとえお金があっても(ないけど)、時間があっても(ないけど!)、ある程度の若さと体力なくしてはできない推しかつもあるのだ。

でも、だけど。そうした「得られないものがある」と割り切れる&諦めがつくのが老齢オタのいいところではなかろうか。

そしてなによりも、推しを恋愛対象として見ていないことで、救われている部分がかなり大きい気がする。

「アイドルの恋愛」は、とかく話題になりがちで、最近も界隈の国民的及び人気グループのメンバーの「熱愛発覚」が相次いで報じられた。そのたびに「アイドルとはいえ人間なんだから恋愛ぐらいする」とか「もういい年なんだから彼女がいて当然」といった良識派的コメントを多く目にする。

個人的にも異性のドルオタになる前は、こうした考えに近い気持ちをもっていて、カッコ良くて人気者のタレントに恋人がいないわけがないだろ! と思っていた。アイドルの恋愛や結婚報道で、酷いとか裏切られたとかショックで涙が止まらないといったコメントを見かけると、いやいや推しが幸せならばいいじゃないか、きみたちも自分の幸せを掴もうよ、などとなにも知らないのに解かったような気になっていた。

ところが、いざ自分がそうした恋愛・結婚系報道や、匂わせ暴露系スキャンダルの標的となる可能性があるタレントのオタクになってみると、そんなに簡単に割り切れる話じゃないことに、どうしたって気付かされる。

スターとは手の届かない存在だった昔とは違い、SNSが普及してアイドルとオタクの距離はぐっと近くなった。今日どこで何をしているのか。何を食べてどんな服を着ているのか。髪を切った、シャンプーを変えた、使っている化粧品、聴いている歌、読んだ本も観た映画もXでInstagramでTikTokで伝えてくれる。YouTubeもある、配信生ライブもある。そうしたすべてにコメントができて、ともすれば返事ももらえる。

プロモーションとして、本人たちから直接「お知らせ」されることも多く、

ファンは新曲が出るよと言われれば予約し、ドラマが放送されると聞けばリアルタイムで観るだけでなくTVerも回し、地上波ではなくNetflix、Amazonプライムビデオ、Hulu、U-NEXTなどの動画配信サービスだと知れば入会し、あらゆる出演番組や雑誌を追いかけて、この時代にお礼の葉書を書いたりもしているのだ。その結果、売り上げが伸びたり仕事に繋がったりすれば、お礼も言ってもらえる。「みんなのおかげだよ、本当にありがとう!」という言葉に嘘はないはずで、だからもっと力になりたい、なってあげたい、と思うのも無理はなく、その熱量が推しを押し上げるのも事実。

その結果「こんなにしてあげているのに!」という気持ちが生まれる。客観的に見れば、いやいや頼まれたわけじゃなし、あなたが勝手にしたことじゃん、と嘲笑されがちな話だけれど、オタクからしてみれば頼まれているのだ。応援して欲しい、もっと、もっともっと。時間を費やしお金をやりくりして見守るうちに、「好き」はどんどん膨らんでいく。それはもう、恋であり執着であり、日々の心の支えにもなる。

もちろん、すべてのファンやオタクがそうではない。実際、老ヲタの自分は推しに恋愛感情はないし、推し活も全振りではなく取捨選択もしている(つもり)。けれど、もし今自分が若く可愛く東京に住んでいたら、あの手この手で稼いでオタ活に費やし、推しと繋がる手段を模索していた可能性がない、とは言い切れない。そうして堕ちていく自分が見えてしまう。

推しとリアルに恋愛できる可能性が絶対皆無だと分かっている推し活は、だからこその気楽さと幸福感があるのだ。

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「小説幻冬」2025年9月号

関連書籍

杉江松恋/藤田香織『東海道でしょう!』

かたや体重0.1t、こなた日常歩数400歩。出不精で不健康な書評家2人が、なぜか東海道五十三次を歩くことに。吉原宿では猛烈な暴風雨に全身ずぶ濡れ、舞坂宿の真夏の国道では暑さに意識朦朧、凍える鈴鹿峠で雪に見舞われ、濃霧の箱根峠であわや遭難!? 日本橋~三条大橋までの492kmを1年半かけ全17回で踏破した、汗と笑いと涙の道中記。

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だらしなオタヲタ見聞録

20年以上、毎日300~500歩程度しか歩いていなかった超絶インドアだらしな生活だったのに、突然フッ軽オタ道を走り出したこの数年。もう「いつかそのうち」なんて言ってられん! 見たいものは見ておきたい! 寄る年波を乗り越えて、進め! ヨタヨタオタヲタ見聞録。

以前の連載『結局だらしな日記』はこちら

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藤田香織

1968年三重県生まれ。書評家。著書に『だらしな日記 食事と読書と体脂肪の因果関係を考察する』『やっぱりだらしな日記+だらしなマンション購入記』『ホンのお楽しみ』。近著は書評家の杉江松恋氏と1年半かけて東海道を踏破した汗と涙の記録(!?)『東海道でしょう』。

Twitter: @daranekos
Instagram: @dalanekos

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