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クロスロード凡説

2025.09.10 公開 ポスト

全てのおかんに捧ぐ辻皓平(ニッポンの社長)(お笑い芸人)

おかんというのは不思議だ。
不思議な生き物というか、一番自分に近いと思いきや、もはや宇宙人にすら思える。
みんなのおかんはどうか分からないが、僕のおかんはそんな生き物だ。

 

 

いや、みんなのおかんもそうに違いない。
もしかすると「母さん」や「母上」や「お袋」はどうか分からないが、「おかん」は僕のおかんと大差ない存在に違いない。

 

 

 

前置きとして、僕はおかんに感謝している。凄く大切に思っている。と、記しておく。
じゃないとただの愚痴になってしまうから。
それを前提としてここから読んでほしい。

 

 

では。まず、おかんという生き物は、機嫌が悪いとこっちに当たってくる。ヒステリックに。これはみんな、少年少女の頃は衝撃的な出来事だったと思う。

 

 

いや、衝撃的というより、最初は何が起こったのかすら分からない。考えても理解出来ない。
なんか大袈裟に言ってしまうと、これによって世の中の理不尽さを学んだ気がする。そう、何も悪い事をしてないのに強く当たられるのだ。そりゃ理不尽だ。

 

 

そしてこれが強く心に残ってるのは、僕ら(ここからは勝手に共感してくれてるという前提で書きます)が出会った初めての[被ヒステリック体験]がおかんだからなのだ。そりゃびっくりだ。だいたいの人はそうだと思う。そこで理不尽さ、世の中の不条理さを学ぶ気がする。子供ながらに「受け入れるしかない」「我慢するしかない」を学ぶのだ。

 

 

普段は可愛がられたり褒められたりしようが、所詮、自分はこの生き物によって生かされている。
これ以上機嫌を損ねてはいけない。今日も餌を貰うしかない。でないと生きていけない。生命体として圧倒的に弱者なのだという事を学んだ気がする。

 

 

※僕はおかんを大切に思っている。

 

 

そしてもう一つ、おかんから僕が学んだのは、「無視」だ。これは無視をされる事じゃない。「無視をする事」を学んだのだ。僕ら(共感の前提)が無視をした最初の相手はおかんなのだ。

 

 

そう、先ほどのヒステリックババア(そこまでは言ってなかったか)の場合の無視もそうだが、最初の無視の相手は、そう、「マシンガンオチ無しトークババア」だ。

 

 

あれは無視するしかない。そして自分のトークで自分で大笑いする。
小学生の頃はさすがに聞いているフリをしていたと思うが、もういつからか聞いてるフリすらもやめてしまう。だって自分で笑ってるんだから、頑張って聞く必要が無い。

 

 

うん、本当に聞く必要が無いのかもしれない。
聞いてほしくて話してるのではないのかもしれない。
話したくて話してる。
悲しき妖怪なのかもしれない。

 

 

※僕はおかんを大切に思っている。

 

 

そしてもう一つ学んだ事、それは、「こんなにも空気が読めない人間がいるのか」だ。
まぁ、さっきの二つも大きく分ければ空気の読めない人がする行為なのだが、もっと、『わざとか?』というくらいただ要らない事をしてくる。

 

 

僕が少年時代に被害にあった(もう被害って言ってしまう)のは、「友達と居る時に執拗に話しかけてくる」行為だ。

 

 

これはもう慢性的なやつで、明らかにこっちは嫌がってるのに(別に嫌いな訳ではなくて小学生~中学生男子からすると自分のおかんと友達が話すのは異様に恥ずかしい)、友達2人と僕の家の前で話してる時、まぁ、話してると言っても「一緒に帰ってて、少しだけ話してバイバイするやつ」をやってる時だ。
そう、これはすぐ終わるやつだ。
おかん同士の井戸端会議なら日が暮れるまで続く時があるが、小学生同士のこれは本当に5分で終わるのだ。

 

 

そこに奴は登場する。しかも2階のベランダから。
ベランダから顔を出し、そのすぐ終わる会話に割って入り、

 

 

「おー! あんたら、ババロア食べるか?」

 

 

要らねえし、せめて、ダサい名前の食いもんで誘うな。どうするんだ。息子が明日からババロアってあだ名付いたら。
なんでそこまでダサい名前のもんを手作りで作ってんだ。プリンとかゼリーとかにしろ。せめて知ってる名前にしろ。
ババロアって言葉、小学生が知らなくてツボに入って俺のあだ名がババロアになったらどうしてくれるんだ。
その場合、私立の中学行かせる覚悟あんのか? 覚悟あって言ってるのか?

 

 

こいつら庶民とあんたはもう同じレベルじゃないから引き離してあげる。
その第一歩がこのババロアよ。
ね、こいつらはこのダサい名前の食いもんでテンションが上がるような奴らなのよ。
あんたは違うでしょ? さぁ、あんたは私立の中学に行きなさい。
ここで私立に行っとけば楽よ。高校受験が凄く楽よ。エスカレーター式よ。
そう、ここで受験しとけば後で凄く楽なのよ。
なんたってエスカレーター式だからね。

 

 

こいつら? こいつらは階段よ。
階段で一段ずつ上がって来るのよ。
それを上から見下ろせば良いのよ。分かるわね?

 

 

だから、そう、その為のババロアなのよ。
あなたの為のババロアよ。
ほら雑魚ども、この罠にかかりなさい。
いくわよ。

 

 

「おー! あんたら、ババロア食べるか?」

 

 

やったら意味分かるわ。でもちゃうやろ。
ほんま。ええ加減にしてくれ、おかん。

 

 

※僕はおかんを大切に思っている。

 

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クロスロード凡説

「ネタにはしてこなかった。でも、なぜか心に引っかかっていた。」
そんな出来事を、リアルとフィクションの間で、書き起こす。

始まりはリアル、着地はフィクションの新感覚エッセイ。
“日常のひっかかり”から、縦横無尽にフィクションがクロスしていく。

「コント」や「漫才」では収まらない深掘りと、妄想・言い訳・勝手な解釈が加わった「凡」説は、二転三転の末、伝説のストーリーへ……!?

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辻皓平(ニッポンの社長) お笑い芸人

1986年、京都府生まれ。

お笑いコンビ「ニッポンの社長」として、コントと漫才の“二刀流”で独自の笑いを追求。
漫才&コント二刀流No.1決定戦「ダブルインパクト」初代王者。
コント日本一を決める「キングオブコント」では、2020年から5年連続で決勝進出を果たす。

本コラムでは、日常の出来事に自由な解釈や言い訳、妄想を重ねながら、舞台とはまた違った角度で物語を綴る。
コントと漫才、どちらのネタも手がける著者が、言葉を操る“三刀流”として、文章の世界に挑む。

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